古賀稔章

古賀稔章

任期付准教授 | KOGA Toshiaki

tkoga@musabi.ac.jp

専門分野

タイポグラフィ、デザイン論、メディアの批評的実践、視覚文化研究(近現代デザイン史)

教員プロフィール

略歴

1980年福岡県北九州市生まれ。
慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻修士課程修了、同大学院博士課程単位取得満期退学。タイポグラフィ・スクール新宿私塾第1期生。
2004-2009年、グラフィックデザインの国際的専門誌「アイデア」の編集者を務めた後、2011-2022年、経済産業省特許庁にてGUIデザインの審査業務、令和元年意匠法改正、国際デザインフォーラムの創設等のデザイン行政に携わる。2020-2022年、多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師。2022年、武蔵野美術大学芸術文化学科准教授に着任。
デザインやタイポグラフィに関する執筆・翻訳・研究活動と並行して、アーティストやデザイナーとの協働による印刷物の編集や批評的実践に関与。2011年より、対話と議論のクリティカルフォーラム「何に着目すべきか」を共同企画・運営。
主な著書に、『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』(共編著、ビー・エヌ・エヌ新社刊、2019)、『オランダのデザイン グラフィック編』(共編著、パイインターナショナル刊、2010)、編集した美術書に『ハンス・ウルリッヒ・オブリスト インタビュー Vol.1 (上)』(共編、Walther König刊、2010)等がある。
主な訳書に、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン『グリッドシステム グラフィックデザインのために』(白井敬尚監修、ボーンデジタル刊、2019)、『オープンデザイン』(共訳、田中浩也監訳、オライリージャパン刊、2013)がある。

芸術文化と社会を媒介するデザインとタイポグラフィの実践

私はグラフィックデザインやタイポグラフィを中心に、芸術文化と社会とを媒介するデザインの役割について、過去と現在、理論と実践の両面から探求しています。グラフィックデザインやタイポグラフィの専門領域とは、印刷物の紙面上や情報機器のスクリーン上で、送り手と受け手とのあいだの言葉や図像を介した情報や知識の共有のための基盤をなす視覚的コミュニケーション技術の体系であり、それは人類の思想や文化の長期的かつ公共的な継承や、開かれた透明性の高い公正な情報伝達を可能にするうえでも必要不可欠のものです。
近年では、第4次産業革命とも称されるIoT技術の浸透や、企業のグローバルな競争力の向上、震災後の地域経済の復興、持続可能な循環型経済やインクルーシブな社会の実現といった多様な社会的要請に対して、デザインという専門領域が果たすべき役割への期待が高まりを見せています。こうした時代の変化と対峙するなかで、多くのデザイナーたちは、日々の実践を通じて「デザイナーとは何か」という問いに向き合い、専門領域の役割を再定義し、絶えず自己を変容していく必要性に迫られています。また、クライアントとの仕事と並行して、デザイナーが自発的なプロジェクトを立ち上げ、著者、編集者・出版者、キュレーター、アクティビスト、アントレプレナーといった多面的な役割を担う場面も増えています。さらには、情報技術の恩恵を受けて、デザインは必ずしも専門家だけのためのものではなく、「誰もがデザイナー」になりうるような民主的時代の到来も喧伝されています。そして今、私たちが生きている「新しい日常」の実践に適合した、デザインの新しい活動の規範のあり方について、デザイナーたちが各々に思考・実践していくことが求められています。
こうした目の前の社会システムや労働環境や倫理観が急速に変化を遂げつつあるなかで、デザイナーの果たすべき最も根幹的な役割は、どこにあるのでしょうか。私は、いつの時代であれ、デザイナーとは、人と物と社会、その相互の関係性を探求する「媒介者」だと捉えています。このデザイナーの媒介者としての姿勢は、デザインを通じて芸術文化と社会をつなぐうえでも欠かすことのできない性質です。芸術文化学科においては、私たちの身の回りにあるさまざまなデザインを観察し、その背後にある歴史的文脈、方法論、制作過程等についてのバランスの取れた視点を探求するとともに、基礎的なデザインリテラシーを習得し、言語を介して他者と対話・共有化する姿勢を身につけ、プロジェクトを通じてこれらを社会的に実践していきます。この一連の学びのプロセスを通じて、学生たちは、芸術文化と社会をつなぐために、デザインに何ができるのかを自ら思考・実践することになるでしょう。ここでは、たとえ学生であれ、人と物と社会、その相互の関係性を探求しようとする者であるという意味において、彼らはすでにデザイナーなのです。

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