OPEN CAMPUS 2017武蔵野美術大学 旅するムサビプロジェクトカルチャーパワー

卒業研究・制作

論文

ジャン=フレデリック・バジール( Jean=Frédéric Bazille,1841-1870 )―光の研究―
論文 / 優秀賞

内藤花歩 NAITO Kaho

芸術文化プロデュースコース
杉浦ゼミ
2017年度卒業

内藤 花歩

今回私は、十九世紀のフランスで活躍した画家ジャン=フレデリック・バジールが描いた光の表現とは何だったのかを、論文で取り上げました。彼は若くして戦死してしまったため、黎明期印象派のメンバーでありながら、認知度が低く「未熟な画家」として、日本では評されてきました。しかしバジールは本当に「未熟な画家」なのでしょうか。私は実際に彼の作品を鑑賞し、疑問に思いました。
そこでバジールが生涯で国の展覧会に出品した絵画作品の変遷を追いました。次に画家バジールは、パリで活動した七年間のうち計六回もアトリエを変え、彼がアトリエを変えるたびに交流している友人たちに着目しました。その結果、バジールは多くの芸術家と交流し、影響を受けながらも独自の三つの光の表現を探求して、描いていたと考察されました。この光の表現とは、「伝統的に描かれた光」「現代性を持った絵画における光」「モネが描いた印象派の陽光」の三つと私は考えます。
そのことが最も窺えるのは、展示している《ルーの土手の風景》という最後の作品です。この作品と、バジールが遺した手紙やスケッチ、美術史家や学芸員の方の指摘を踏まえて、後半生のバジール絵画の光の表現について考察しました。その結果、辿り着いた光の表現方法とは、バジールが生きた時代に混在した「古典的」と「現代的」という異なる絵画上の二つの光を、印象派の「陽光」という表現を軸に融合させ、描くことだったのではないでしょうか。
以上のようなことから、画家バジールは若くして戦死しましたが、決して「未熟な画家」として、その生涯が終わったのではないと、その可能性を主張し、そのことを私はこの論文で論証してゆきました。

断片交響学―引き剥がされたものたちの魔力
論文 / 優秀賞

樫田芽以 KASHIDA Mei

芸術文化プロデュースコース
新見ゼミ
2017年度卒業

樫田 芽以

「断片とは何か。」それは、かつて完成された一つの「全体」に属し、その一部として機能していたにも拘わらず、ある時なんらかの外的な力、自然や時間、あるいは意図的な暴力によって、バラバラにされ、引き剥がされてしまって、その後に残った一片である。だから、断片は、断片であるという事実によって、それ以外のもの、つまりかつてあった全体を暗示する宿命を負っている。
自分の髪の毛一本が抜け落ちたその瞬間から、生々しさを帯びて見えるのは何故か。ガラスの破片は痛ましいほどに鋭利であるが、では、その鮮烈さは何処からくるのか。「失ったものを取り戻そうとする力」、つまり復帰力、元に戻ろうとする、悲しいほどの活気にみちた反発的弾力、これこそが断片に秘められた魅力なのである。
そして、実は人もまた、断片でできている。誰しも、常になんらかの影響を受けながら、欠片欠片のつぎはぎで自分をつくっていく。また、「今」という完全なる現在は、過去の記憶になるにつれ、細部を失っていく。生きていく中で、人はどれだけ多くの断片を失くしているだろう。失われた断片を求めて、私たちもまた、無意識のうちに呼び声をあげているのではないだろうか。
断片と断片は、互いに引き寄せあい、出会う。するとその瞬間、違和感や摩擦から一瞬の恍惚、衝突が生まれる。火花が散る。ぴったりと合わさることはない、二つのピース。しかし、その衝突の背後では、実は「共鳴」としか言いようがない、不思議な調和が生まれている。
これは、断片と断片の、そして断片と私の「共鳴」の秘密をめぐる「断片交響学」である。

鏡の向こう側―世界と非世界の狭間で
論文 / 優秀賞

中田晴香 NAKADA Haruka

芸術文化プロデュースコース
新見ゼミ
2017年度卒業

中田 晴香

鏡は世界と非世界の媒介者である。
不安定な両者をつなぎ、かつ、遮るものだ。

毎日鏡を見ていても、本当にそれ自体を見ることができているのだろうか。本論文では、普段見ている鏡の効果ではなく、鏡自体に焦点を当てた。鏡の中に引き込まれるような感覚の原因を探ることを通して、鏡の魅力に迫ろうとする試みである。
鏡像段階に代表されるように、自己同一性と鏡には強い結び付きがある。鏡そのものを見るということは、この結び付きを不安定にすることだ。だから、鏡は私の自己同一性を揺らす。
本論文は、この考えを出発点とし、草間彌生、アンディ・ウォーホル、マルセル・デュシャンを通して、鏡について考える構成となっている。それぞれが示すのは、増殖による自他の混乱、反復が生成する表裏を行き来する時間、そして、二世界の境界面としての超次元性。これらすべてが、鏡の尽きることのない魅力につながる。
鏡はその超次元性ゆえに、私が生きるこの世界と、鏡に切り取られた世界との間に、絶対的な距離を作っている。その距離が〈見ないことの不可能性〉となって、私を鏡に夢中にさせるものだ。
鏡の向こうの世界を感じたとき、人は鏡の魅力に取り憑かれ、そこから目を離せなくなる。本論文が読者にとって、「鏡の向こう側」に思いを馳せるきっかけとなれば、幸いである。

作品表現

日めくりカレンダーの制作―介護者と被介護者のコミュニケーション促進を目指して―
作品表現 / 優秀賞

菊地桜子 KIKUCHI Sakurako

メディアプランニングコース
楫ゼミ
2017年度卒業

菊池_01

高齢化社会の日本、国内65歳以上の高齢者7人に1人が認知症患者と言われています。いつもできていたことができなくなっていってしまう恐怖・不安・混乱は認知症患者本人だけではなく、ケアをする家族にも襲いかかるものです。日常的に繰り返される症状は家族を疲弊させ、以前のようなコミュニケーションを取ろうとする意欲すら削ぎとってしまう、そんな家族介護者の問題に着目しました。
このカレンダーは被介護者本人とその家族に向けた、コミュニケーションのきっかけを生み出すためのものです。日めくりカレンダーの様式と認知症ケア「回想法」そして「メモリーブック」の要素を組み込み、使用する人自身がこのカレンダーに日々の記録を残していくことで、その感情や感動を共有出来るツールになっています。「回想法」「メモリーブック」に共通する点は、まだ残っている記憶、脳の中に確実に保存されている記憶(その人だけの生活史)を引き出すことで本人には懐かしさが蘇り、前向きに生きる力が湧くという効果が期待できるということです。また介護する側にとっては家族の「生活史」を詳細に知ることによってコミュニケーションの糸口をつかむことができるのです。
この日めくりカレンダーでは毎日めくったら捨ててしまう従来のものとは異なり、2年間通年で使用することによって2年目にはより一層の懐かしさや楽しさを持って使用することができます。
何気ない毎日が日々過ぎ去っていく中で、その毎日のかけがえのなさを記録していくカレンダーです。

格子から派生する平面/立体
作品表現 / 優秀賞

伊藤那菜 ITO Nana

メディアプランニングコース
是枝ゼミ
2017年度卒業

伊藤 那菜

格子とは、たて縞とよこ縞を組み合わせた縞模様で、チェック柄を広く示した言葉だ。そんな格子のなかでも、普段からファッションとして好んで身につけ、模様として好きだったタータンチェックを取り上げ、平面と立体の作品制作によって、格子の探求を行った。
平面では、油彩やチャコールペンシルを用いてタータンチェックの模写を行い、タータンチェックを自ら分析・分解し、もう一度いちから組み立てることをした。さらに、それらの模写を通して、自ら体感によってみつけた格子の特徴やお気に入りを、立体作品として表現し、自分自身で新たな格子を生み出すことを行った。
これらの格子をテーマにした平面/立体作品の制作を通して、表現と探求を並行的に行いながら、格子がもつ模様の特徴や魅力を体感的に見つけていく体験をした。そしてそのことは、私がなぜタータンチェックという模様に惹かれていたのか、自分が好きなものの好きな理由を探していく体験でもあった。

文字を生み出すということ
作品表現 / 優秀賞

江間祥子 IEMA Shoko

メディアプランニングコース
西中ゼミ
2017年度卒業

江間 祥子

私たちがいつも目にしている文字は、書体デザイナーの手によって生み出されています。そして、現代はデジタル技術の発展により、職業や年齢に関係なく、誰でもディスプレイ上で書体を選ぶことができるようになりました。しかし、デフォルトの書体を使っている人の中には、文字を扱う機会に応じて適切な書体を選ぶという意識を持ったことがない人も多くいます。書体を選ぶときは作る物の「目的」も重要ですが、出力する「環境」や受け手となる「対象」、伝えたい雰囲気の「印象」も大切になると考えています。もし、今よりもさらに多くの人が文字を選ぶことへの関心を深め、それをデザインの中に取り入れれば、私たちの生活や社会が視覚的により豊かになると思います。
そこで、私は書体を使う側と作る側の両方へ、アプローチを試みました。使う側には「書体を選ぶ意識」について現状調査を行い、作る側には「その書体を生み出した理由」についてインタビューをしたり、文字や書体に関する講演会に参加したりしました。このことにより、使う側が書体の特長を知って選ぶという意識をあまり持っていないこと、作る側が書体の特長を独自に考案して書体開発を行っていることを知りました。
そこから、作る側と使う側を繋ぐことを目的として、書体ごとの特長を知ることで書体を選ぶ大切さや楽しさを実感できるような、使う側に向けたツールを制作しました。本では書体デザイナーから聴いた各書体の持つ特長や技術開発などの知識を提供し、さらに立体文字では視覚と触覚を通した各書体の違いを意識できる機会をつくりました。この作品をきっかけにして、より多くの人に文字への関心が生まれれば幸いに思います。

プランニング

みちくさ画廊プロジェクト―移動する画廊を通して人とアートの距離を測る
プランニング / 優秀賞

竹本あや TAKEMOTO Aya

芸術文化プロデュースコース
杉浦ゼミ
2017年度卒業

竹本 あや

「みちくさ画廊プロジェクト」は、アートと親しくない人とアートの距離を、どうしたら縮めることができるか、を考察することを目的に、移動する画廊を企画実施した、アートプロジェクトです。
近年、国内のさまざまな地域における、芸術祭ブームにより、各地域が観光資源として、アートを率先して取り入れ、企画を行っていることもあり、アートに気軽に触れられる機会が増えてきたように見えるかもしれません。
しかしそれは、あくまでもアートに対して、少なからず興味があった人たちに対しての間口を広げたに過ぎず、実はすぐにアクセスできるはずの、画廊や美術館に対する認識が改められるような機会は、あまり増えていないようにも感じます。
なぜ、人々が美術館や画廊にアクセスしないという状況が、生まれているのでしょうか。その理由として、「知らない」という理由の他に、高尚な場所であるという認識や、知識がないと入りづらい、といったイメージが起因しているのではないかと考えられます。つまり、美術作品に触れるということは、街と美術が共存しづらいこの日本において、物理的にも、心理的にもハードルが高い行為だといえます。
それを問題点と可能性として捉えた本プロジェクトは、画廊を移動させることにより、今までアートに触れてこなかった人が、アートに触れる機会を「ゲリラ的」に作り上げ、その画廊におけるコミュニケーションを通して、人とアートの距離について考察していきました。
本展示はその、「みちくさ画廊プロジェクト」の活動ドキュメンタリーです。