DAY1:フィールドリサーチ

日時:2024年10月12日
調査地:「熊川宿(鯖街道)、森木地店、若狭工房、護松園」

敦賀駅からバスに乗り、はじめに私たちは熊川宿に向かいました。

 

熊川宿は国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている、江戸時代に形成された宿場町です。
かつて若狭湾から鯖や海産物を京都まで運ぶ「鯖街道」の重要な拠点として栄えた歴史を持っています。

この熊川宿を舞台に開催されているのが「熊川宿若狭芸術祭」です。この芸術祭では、「世界の文化交流拠点地域」を目指し、地域の歴史や文化をテーマに活動するアーティストが滞在し、公開制作を行っています。

メイン会場である「熊川宿若狭美術館」は、古民家を改修した木造建築で、宿場町の歴史的な風景を今に伝えています。  

   

美術館見学の後、ギャラリートークに参加しました。芸術祭や地域活動に携わる作家・長谷光城さんから、子ども美術や障がい者アート支援についても詳しいお話を伺いました。

地域に根ざした芸術文化や、自然と調和する街並みを通じて、若狭の穏やかで力強い魅力を改めて実感しました。  

森木地店

次に訪れたのは、若狭塗箸の木地製造を手がける「森木地店」さんです。

若狭塗箸は、色漆や自然素材を活かした美しい模様が特徴の伝統工芸品で、その美しさを支えるのは木地製造の卓越した技術です。

森木地店では、原木の選定から仕上げまでを昔ながらの“手作業”で行っています。まず見せていただいたのは「マラス」と呼ばれる広葉樹の原木。この木材は耐久性に優れ、主にパプアニューギニアから輸入されています。2~3年間の自然乾燥を経て、箸の木地として加工されます。

乾燥が終わった木材は、節を取り除き、柾目に沿って荒切りされます。次に、箸の形にするため棒状に切断され、さらに手作業で頭を太く、先を細く削ることで箸の素地が完成します。この工程では、職人の熟練した技術が光ります。

若狭塗箸の製造工程で生まれるのが、「ぺっちん」と呼ばれるお箸の切れ端です。
そしてこのぺっちんが今回のアートインスタレーションの素材として活用されています。

人にそれぞれ個性があるように、木材も一本一本異なる環境で育ってきました。
木目や色合い、樹齢などの木の性格と対話しながら進む工程からは、職人さんのこだわりと木材への深い愛情を感じました。

若狭工房

その後訪れた「若狭工房」は、若狭塗の技術を広く伝える体験施設です。

職人や工房主が集い、若狭塗の魅力を体験やイベントを通じて発信しています。

今回私たちは、若狭塗箸の模様が完成するまでの工程である「塗り」や「研ぎ出し」を見学しました。

まず、下地として膠(にかわ)という動物性の接着剤を素地に塗ります。次に、「螺鈿(らでん)」という技法で、貝殻、卵殻、松葉、金箔などを埋め込み、海底を思わせるような煌びやかな模様を作り出します。その上から、色とりどりの色漆を何層にも重ね塗りし、最終的に「研ぎ出し」と呼ばれる磨きの工程を経て、鮮やかで深みのある模様が浮かび上がります。

職人さんの手作業を間近で拝見し、形あるものを次の時代へ繋ぐためには、形のない想いや技を受け継ぐことがいかに大切かを実感しました。伝統工芸の背景にある熱意や丁寧さに触れられた、非常に貴重な体験となりました。

護松園(GOSHOEN)

初日の最後に訪れたのは、福井県の有形文化財に指定されている「護松園」です。

この建物は、北前船の廻船問屋「古河屋」によって賓客をもてなす別邸として建てられました。

現在では、「小浜のかけはしとなる、みんなの別邸」として地域の人々はもちろん、訪れるすべての人々が気軽に集えるコミュニティスペースとして生まれ変わっています。

プロジェクトを手がけた「株式会社マツ勘」四代目の松本代表から、護松園が再生されるまでのストーリーや若狭塗箸の歴史についてお話を伺いました。

文化財として建物の価値を保ちながら新たな価値を創出し、活用できないかという発想から始まりました。また、「地場産業を守るには、地域全体で支えることが重要」という考えのもと、コミュニケーションを育む場として設計されました。

実際に「GOSHOEN」には、ワークスペース、コーヒースタンド、ミュージアム、ショップなどが併設されています。これらの施設は、文化財としての価値を保ちながらも新しい魅力を創出し、観光スポットとしても注目を集めています。

お話を伺った後は、各自がコーヒーを片手に縁側でくつろいだり、ミュージアムで北前船や古河屋の歴史を学んだりと、穏やかで心地よい時間を過ごしました。