2020年度 卒業研究・制作 | 優秀賞インタビュー
2020年度 卒業研究・制作において優秀賞を受賞した作品を紹介します。
論文
日本美術史における〈犬画〉の変遷と展望
伊藤真珠 ITO Shinju
是枝ゼミ
2020年度卒業
私は3匹の犬と生活を共にしている。犬の散歩の時間に合わせ一日の計画を立て、日々を過ごしている。私の様な人はそこら中にありふれている。
実際に、犬は「人類の最良の友」と呼ばれ今日ではコンパニオンアニマル(伴侶動物)とも称されているほど日本人にとって馴染み深い動物である。日本美術史を研究する人々にとってもそれは同様である。しかしながら、その人々が犬の描かれた絵画、すなわち〈犬画〉に着目しその歴史を顧みた研究は数少ない。
そこで私は〈犬画〉を「造形美術の一。線や色彩で、犬の形姿や内面的イメージなどを平面上に描き出したもの、絵」と定義し、その歴史を様々な史実から再構築した。全ての章において、初めに日本人と現実世界の犬の関係性を明らかにし、その次に犬画の歴史を顧みた。そうすることで二次元的世界の犬と現実世界の犬の相違点や、当時の日本人の犬に対する価値観から読み取れる犬画に内包された意味を浮き彫りにした。
〈犬画〉の歴史には様々な変容が内在していた。かつて犬は蔑まれていた史実や仔犬を多く描いた画家の登場、日本美術の享受者の変化、外国との貿易、鎖国、生類憐みの令、狂犬病など様々な要因が積み重なり犬画は時代とともに変容していった。
最後は、現代までの歴史を構築したうえでこれからの展望について推察した。
花鳥画でもなく動物画でもない、加えて厳密には日本美術史において不明瞭なジャンルである犬画についてまとめ筆を擱いた後、私は3匹の犬が犬画に描かれた犬より自由であれと思った。
サイ・トゥオンブリーの絵画作品にみる制作原理
佐藤菜々子 SATO Nanako
高島ゼミ
2020年度卒業
サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly, 1928-2011)の絵画作品は、筆致によるオール・オーヴァーな様相や、文字や数字など記号的な要素がかきこまれ「見る」と「読む」が混在している画面が特徴的である。彼の絵画については、描線や筆致などへの言及、画面に「何が描(書)かれているのか」という観点からの分析が代表的であるが、具体的な制作の実践と絵画の構造との連関を論じた研究は多いといいがたい。本研究の目的は、トゥオンブリーの絵画制作の手法と画面の構造分析から、彼の作品と制作の実践を支える思考について検討することである。そのためにまず、初期の実践としてブラック・マウンテン・カレッジ(Black Mountain College)時代の制作と現地の抽象表現主義の作家らの制作との関連性、兵役期間中の暗闇でのドローイングと直後の制作に触れ、「支持体の複数化」、「画面の構成要素の断片化」をめぐる手法と試みについて分析した。ここにコラージュの手法との近接性を見出したうえで彼のコラージュを含む絵画作品の構造についても検討し、一つの画面に「描かれる場所」としての基底面を仮の支持体として設定する意識、支持体の操作による画面の拡張や積層化、画面を異なる意味内容をもつものとして規定する意識のはたらきを指摘した。以上の考察からトゥオンブリーの絵画作品の構造と作家の実践において通底していたと考えられるのは、画面内のイメージの変容、増幅、断片化をめぐる支持体の操作を試みつつ、一定のイメージを結び統一性のあるものとしての絵画の形式をずらしていくという思考である。
プランニング
うつわのオンラインセレクトショップの企画
赤木音 AKAGI Non
楫ゼミ
2020年度卒業
食器の「うつわ」を専門に取り扱うオンラインのセレクトショップを企画しました。きっかけは、コロナの影響により、家で過ごす時間が増えたことで、家での暮らし方や家の中で使う物に対して意識を向けるようになったことです。その中でも「うつわ」を選んだのは、私のこれまでの人生と深い関わりのあるものであり、うつわがもたらす暮らしの豊かさを理解しているからこそ、その魅力やうつわがもたらす恩恵を、多くの人に暮らしの中で使って感じてもらいたいと考えたからです。しかし、現代のうつわの買い物には手軽さや気軽さに欠けているように感じました。このことから、うつわを専門に扱うセレクトショップをEC化することで、気軽に自由にうつわを購入できるうつわのお店を企画しようと考えました。また、ショップ内にうつわの作られた背景やそのストーリーなどがわかる情報、作家に対して行ったインタビューを記事化し、読み物コンテンツとして掲載することで、うつわの本質的な部分を消費者が買い物をする中で理解できるプロセスを構築しました。うつわを購入し、暮らしの中で使ってもらうことで「うつわ」だけでなく「うつわのある暮らし」を提供するショップです。ショップで扱ううつわは、作家における手工芸の作品や、メーカーにおけるプロダクト製品など、幅広く扱いメイドインジャパンのうつわを提供します。
企画に伴い、輪島塗作家の協力の元、輪島塗のうつわのアーカイブや作家に行ったインタビュー記事を掲載するwebサイトを制作しました。また、輪島塗作家の作品や実際にセレクトしたうつわを展示しました。
作品表現
やきもの探訪 ―もの・人・産地に出会う―
西尾なを NISHIO Nao
米徳ゼミ
2020年度卒業
母は私が幼い頃から食事で使う器にこだわりを持っていて、食卓に並ぶ器のほとんどが陶芸家のものだった。実家にいた時はその環境が当たり前で、全く興味を持っていなかった。しかし、大学3年生の夏休み中に実家に帰省した際、両親に促され地元長崎でやきものの産地として有名な波佐見町をはじめて訪れた。豊かな自然の中に窯元やギャラリーが点在する光景は新鮮で、実家で使っていた器がこういうところで作られていたんだ、と衝撃を受けた。そこでは、自分の器を1点購入し、家に持ち返った。それを使い始めてから自炊を積極的におこなうようになり、今まで使っていた食器を見直すなど食生活やものの選び方が変化した。
日本のやきものの歴史は約16,000年前の縄文土器に始まり、各地で進化を遂げていく。今日本にある産地で作られているやきものは、その土地の営みの中で生まれた歴史、その土地で採られた原料、その土地の人によって作られた背景を持つ。自分が選んだやきものが地域性や固有性を体現しているものであり、あらゆる背景を持ち合わせいることに強く惹かれ、自分の生活にも影響を与えたのだろう。
本研究では「やきもの探訪」と称し、会津本郷(福島)、益子(栃木)、常滑(愛知)、信楽(滋賀)の4地方4産地を選定し、実際に産地を自分の足で歩き、やきものを選び、さらに作り手にインタビューをおこなった。最終的なアウトプットとして、このやきもの探訪を記録した1冊の本を制作し、展覧会をデザインした。この展覧会を見に来てくれた方、本を読んでくれた方が少しでもやきもの・人・産地に興味を持ってくれると嬉しく思う。