2019年度 卒業研究・制作
2019年度 卒業研究・制作の中から、論文2作品、作品表現1作品、プランニング1作品を紹介します。
論文
草間彌生をめぐる言説の変容
論文 / 優秀賞
橋爪茉莉花 HASHIZUME Marika
高島ゼミ
2019年度卒業
本論文は、草間彌生(1929-)の作品および、作家・作品をめぐる言説を研究対象とするものである。
草間は網目や水玉をモチーフとした作品で広く知られ、作品の多くは単一モチーフの反復という構造を持つ。1957年にアメリカ・シアトルへと渡り、翌1958年からニューヨークを中心に活動した。1959年、ニューヨークでの初個展において発表された、今日「ネット・ペインティング」と呼ばれる絵画は、1950年代のニューヨークで興隆した抽象表現主義の作品群と、いくつかの共通する造形的特徴を持つ。また、作品が持つ反復の構造は、ミニマリズムやポップ・アートなど、1960年代のニューヨークで興隆した芸術運動と比較され、その先駆性が認められている。
一方で、その反復の構造は、網目や水玉があたりを覆う幻視体験や、同じ動作を繰り返さずにはいられない強迫行動から生まれるとする、精神的病に作品の起源を求める言説も存在する。作品をめぐって異なる捉え方が存在する所以は、草間が二元性を併せ持つ能力を持つためとされてきた。本論文は、異なる言説が存在することは作家のみに起因するのではない、という前提に立ち、双方の言説に内在する問題を、批評と展覧会による言説形成という視点から再考することを目的とした。
絵画がファッションに与えた影響 ーサンドロ・ボッティチェリの《春》を中心にー
論文 / 優秀賞
松丸育美 MATSUMARU Ikumi
杉浦ゼミ
2019年度卒業
本稿では、絵画がファッションに与えた影響について論じる。サンドロ・ボッティッチェリ《春》に影響を受けて制作された、2つの衣服と《春》を比較 検討することによって、文化の連続性や、領域横断的な視座を持つことの有効性を述べる。主に文献調査を通じて、絵画がファッションに与えた影響の例を紹介する。本稿ではアナ・スイ、イヴ・サンローラン、そしてカール・ラガーフェルドの3名を選出し、彼らと絵画の関係から絵画がどのようにファッションに影響を与えたかを考察する。その後、本稿で中心に扱う作品、《春》の作者であるサンドロ・ボッティッチェリについて述べる。ボッティチェリの経歴、並びに《春》が制作された背景や目的を整理し、作品の図像解釈を行い、この作品が保存されてきた経緯にも言及する。最後に、《春》に影響を受けたローザ・ジェノーニとアルベルタ・フェレッティという 2 人のファッションデザイナーの作品を《春》と比較検討する。それぞれのデザイナーの経歴や彼らが作品を制作した背景について考察する。1906年のミラノン万博に出展されたローザ・ジェノーニの作品と、2010年にミラノファッションウィークで発表されたアルベルタ・フェレッティの作品の2点は、それぞれに共通点と相違点があり、それを整理した。絵画はその耐久の優位性から消耗品である衣服よりも長く保存される。さらに、長い年月にわたり芸術以外の分野に影響を与えることができる。また、メディアの発達により絵画作品を目にする機会は以前よりも増えているため、影響力は強まることが推測される。尚且つ、衣服が現存していなくても絵画が画面に衣服の詳細を保持している場合は、絵画が服飾史の分野でも資料として価値を持つ。加えて、同じ絵画作品から影響を受けた、別の年代の衣服を検証することによって、その時代の技術や流行のスタイルを読み取ることができる。年代が異なると同じ絵画作品から影響を受けていても、その様相は全く異なるが、それらを同時に考察することで、絵画作品が持つ構成要素を抽出することができる。従って、絵画と衣服を同時に考察することは、美術史の視点からも服飾史の視点からも有効である。
作品表現
透彫吉祥模様小振袖 〜日本の着物に見る祈りと祝いの模様〜
作品表現 / 優秀賞
宮崎栞理 MIYAZAKI Shiori
楫ゼミ
2019年度卒業
日本の着物や装身具に古くから使用されてきた伝統的な模様には名前があり、その中には祈りや願いの意味を持ったものが多く存在する。例えば、「麻の葉」という模様は大麻の葉の形に似ていることから、大麻が真っ直ぐすくすくと伸びていく様と子供の健やかな成長をかけて赤ちゃんの産着などによく使用された。「青海波」は、変化することなくどこまでも同じ柄が続くため、そこから未来永劫に続く幸福と、人々の平安な暮らしという願いが込められている。それらの祈りやめでたい意味がある模様を調査し、その模様だけで構成された振袖をデザインし、和紙に切り絵で制作した。
また、切り絵の歴史や発祥、各地に残る切り紙の風習を調査し、日本の伝統技術である伊勢型紙と出会った。そして伊勢型紙の技術を三重県の伊勢白子という地域まで赴き、修行をして学んできた。その技術を生かし、和紙を染色し、全て自分の手作業で制作した。
プランニング
SHEEH
プランニング / 優秀賞
佐藤圭 SATO Kei
楫ゼミ
2019年度卒業
私はいつからか、古い喫茶店が好きでした。コーヒーが好きなわけではないけれど、流れるゆったりとした時間や手の込んだカップ、なんとなくヒソヒソ声になってしまう少しの緊張感。店主の個性溢れるその空間を愛おしく思います。そういう昔ながらのものに、どこかすごく惹かれる節があるんです。よく「あの頃はよかった」なんて言われる戦後昭和の明るいニッポンで、和と洋が混ざり合いながら生まれた独特の空気感。人のあたたかみ、なんてありきたりな言い方ですが、それって未来にも残していきたいなと思うんです。こんな想いからSHEEHという店をつくりました。お取り扱いしている商品は、20社から提供していただいた粋な品物。BGMには『STORY』(never young beach)をレコードで。メインビジュアルを飾ったのは、ヒラノトシユキさんのイラストです。これは私の作品ですが、制作の背景には数多くの方々のご支援とご協力がありました。SHEEHは、私から皆様への感謝と願いのカタチです。