留学レポート5月号
芸術文化学科4年(杉浦ゼミ) 伊藤 ルイ
5月で座学の授業・試験は終わり、これからのボザールでの活動はアトリエと工房のみになりました。この1ヶ月、私のアトリエでは、日本で学部4年と院2年生に当たる、ボザールの3年生と5年生が6月の卒業制作に向けて、プレ作品の講評・プレゼンを行っています。ボザールの卒展は、展示期間約2日間で1 学生1つ部屋・空間を貸し切って展示し、1ヶ月の間、約200 人による200 の展示が開催されるという武蔵美とは異なる点があります。このプレ制作のプレゼンに何度か参加し発見したことは、「プレゼンのプロセス」と「作品の語り手」の2 点です。先日参加したもので例を挙げると、最初に教授も含めてアトリエの仲間とお昼ご飯を一緒に作り、2時間かけて、日常生活から社会問題などあらゆるテーマの話を交わします。その後、プレゼンがスタートし、2時間作品を取り囲みながらディスカッションが行われます。これは特殊な例でもありますが、プレゼンは毎回、最低1時間設けられ、前を通りかかって興味を持った生徒が途中で参加したり、抜けていく生徒もいて、自由な雰囲気が流れていると感じます。
次に、「作品の語り手」ですが、制作者が作品の説明を始めると、周りの学生はそれを遮るかのように、次々に質問をしていき、次第に制作者でない第3者同士が議論を始め、彼らが作品の解釈や説明を始めます。また、教授や生徒が「私ならここに作品を置く。この作品はいらない。」など、彼らの多様な価値観と感覚によってその場で展示構成が変えられる様子を目の当たりにして、1986 年に開催されたキュレーターのヤン・フートによる「友達の部屋」の展覧会に共通点を感じました。これは、アーティストらの作品を家に展示し、観客は実際に住んでいる家主、つまりアーティストではない第三者と対話することによって作品を知ることが出来るコンセプトの展覧会です。この展示とアトリエのプレゼン同様に、アートは誰のものであり、誰が語るかという根源的な問いが私の中に生まれてきました。さらに、私自身が作品のプレゼンを経験して感じたことは、人に作品を説明することや相手の意見・解釈を知ることによって徐々に作品のコンセプトが明確になり、作品に深みが出ることです。このようなプロセスが作品制作にとって大きな意味があることに気づきました。
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