2024年度卒業研究・制作|優秀賞受賞者インタビュー

2024年度 卒業研究・制作において優秀賞を受賞した作品を紹介します。

論文

日本の美術館における展覧会担当学芸員と来館者の交流

井澤 奏音 IZAWA Kanade

杉浦ゼミ
2024年度卒業

本研究は、来館者の美術館体験をより豊かにすることを目的に、「日本の美術館における展覧会担当学芸員と来館者の交流」というテーマで、論文を執筆した。その背景には、執筆者が経験した美術館での教育普及活動において、美術館で展示の企画・運営を担う学芸員(展覧会担当学芸員)の認知度の低さと、彼らと来館者の接点の希薄さを実感したことがあった。また、『美術手帖』に掲載された記事は、この感覚に裏付けを与えるようなものであった。そこで、文献調査と意識調査を用いて、両者の交流の実態と、メリットを明らかにすることを試みた。
調査の結果、展覧会担当学芸員と来館者の交流の機会は、想像以上に実施されていることが確認された。そして、両者ともに 9 割以上が交流にメリットを感じていることも確認された。しかしながら、学芸員意識調査では、交流を実施する際に生じるリスクや鑑賞方法の多様化などの観点から、必ずしもメリットがあるとは言えない現状についても明らかになった。また、来館者意識調査では、「交流の機会を認知していなかったために、交流をしたことがない」という回答が散見された。そこで、学芸員の仕事や専門分野、人柄や趣味、鑑賞方法を知ることができる交流の機会を設けることで、両者の接点を広げることができると仮説を立て、「学芸員個人に焦点を当てた交流」を提案した。

プロジェクト

公共空間に屋台を置く 
- インドの道端コミュニティ、アッダに学ぶ人への空間作用 -

南條 円花 NANJYO Madoka

杉浦ゼミ
2024年度卒業

本研究では、インドと福岡の現地調査を⾏い、⾒やすく⽴ち寄りやすい屋台を制作し、公共空間に屋台を置くことで⼈へどのような空間作⽤が⽣まれるのか実践を通して探っていく。きっかけは、国分寺に住むインド⼈の友⼈から「地域で友⼈ができなくて孤独だ」と悩みを聞き、思えば自身も隣⼈と挨拶すらしたことがないと気づく。友⼈⽈く、インドでは道端で偶然集まった⼈や友⼈があらゆるトピックについて会話する「アッダ」という⽂化があり、その話しやすい空間を構成する要素が「屋台」なのではないかと着⽬した。調査を経て制作したのが、「ファルヒファル」という屋台だ。しかし、屋台を置くために、公園や駅前などに許可取りを⾏うことに苦戦し、屋台⽂化が普及している場所とそうでない場所の賑やかさの差として、「公共制度」の整備度合いが関係しているのではないかと考えるようになった。国分寺市の職員の⽅々に協⼒してもらい、最終的に国分寺駅前イベントスペースで許可をとることができた。イベントでは、35 名と会話し、15 名にアンケートを取ることができた。国分寺に住む地域の未就学児や⼩中学⽣、⾼校⽣、⼤学⽣、社会⼈、インド⼈と会話ができた。結果から、公共空間は屋台によってより豊かになる可能性を秘め、個⼈で公共の場を活⽤することはスタートアップの段階にある。今後も屋台による⼈への空間作⽤の面白さを広めていくことが⽬標である。

作品表現

視覚的類似性による「見立て」の美術表現

狩俣 こみち KARIMATA Komichi

是枝ゼミ
2024年度卒業

本作は「視覚的類似性による「見立て」の美術表現」をテーマとしています。「見立て」はあるものを別のものに準える行為を指しますが、その中でも視覚的類似性を媒介にした「見立て」に焦点を当て、研究と制作を行いました。
作品はすべて、身近にある既製品などのものを組み合わせて、別のものに見立てています。例えば、《フラミンゴ》という作品の場合、茗荷の形態と色味から胴体を連想し、首を S 字フック、脚をネジで表現するなど、モチーフの部分的な要素を抽出し、類似性をもつ別の物に置き換え組み合わせて「見立て」を行いました。「見立て」の表現は他の表現方法と異なり、既にあるものを別のものに転換させることによって、新たな視点と偶発的な表現が生まれることが特徴だと考えています。偶発的な表現には例えば、類似性を媒介にした素材とモチーフの出合い、異素材同士の出合いによる異化効果がありますが、それだけでなく、素材と鑑賞者の関係性が予想外な展開を生み出すのではないかということを意識して作品を制作しました。実際に鑑賞者の反応を見ていると、「かわいい」「面白い」というコメントを多くいただく中で、「怖い」、「気持ち悪い」というコメントも聞くことが出来ました。また、鑑賞者とコミュニケーションをとる中で、自身の予想外の多様な作品解釈を聞くことができ、学びになりました。

作品表現

アルビノについての雑誌
- オーラルヒストリーを通したアルビノの理解促進 -

肥田野 琴香 HIDANO Kotoka

古賀ゼミ
2024年度卒業

本研究は、アルビノという症状への理解を深めるだけでなく当事者のオーラルヒストリーとしてのインタビューやコラムを通じて、障害を超えて個人を尊重した関わり方を提案する雑誌『KNOT』を制作したものである。制作の動機には、アルビノの当事者である家族の存在がある。彼をきっかけに様々な人と出会い、社会における配慮の在り方に疑問を抱いた経験から、それぞれの「普通」を理解し合う重要性を考えるようになった。そうした経験を踏まえて個人を尊重した障害理解の形を提案するため、本雑誌を制作した雑誌という媒体を選んだ理由は、雑多な事柄を扱うというメディアの特性が多様な内容を含んだ本研究のアウトプットに適していると感じたからである。企画内容は大きく 4 つに分かれる。1 つ目はアルビノについての正しい知識、2 つ目は当事者のキャリアをテーマにしたインタビュー、3 つ目は趣味に関する自由なコラム、4 つ目はアルビノではない親がアルビノの子どもを育てる過程を描く育児ドキュメンタリーである。これらを通じて、症状への理解を深めるだけでなく、関わり方を提示することができる構成を目指した。本研究は 7 名と 2 社の協力を得て形になった。多くの方々の協力と支えがなければ実現できなかった研究である。この経験を糧に今後も模索を続けていきたい。

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