女子美術大学美術館(女子美アートミュージアム)は、2001年にの相模原キャンパス(神奈川県)に開館した。大学出身の作家や、大学にゆかりの深い美術家の作品を中心に、旧カネボウコレクションを含む15,000点ほどのコレクションを所蔵する。常設展示はなく、全て企画展で運営している。

学生が制作した鑑賞教材を使用している様子(2019年、撮影:川瀬一絵)

学生が制作した鑑賞教材を使用している様子(2019年、撮影:川瀬一絵)

コレクション・柿内青葉展(2021年、撮影:村松成美)

コレクション・柿内青葉展(2021年、撮影:村松成美)

女子美術大学美術館

〒252-0328 神奈川県相模原市南区麻溝台1900

https://www.joshibi.net/museum/
川上 勇

川上 勇

女子美術大学 教育研究事業部図書美術館グループ主幹

1961年 福岡県出身 大学卒業後、大学事務員として入職、総務系を皮切りに、教務系、管財、図書館系を異動する。 現在は美大ならではの部門である美術館に関わり、展覧会では卒業生をはじめとする作家と関わることもあり、美術館・画廊巡りが趣味となる自分にとっては、いい環境で働けていると感じている。今年で還暦を迎えるが、様々な老化現象に直面、格闘している。

美術館の組織の詳細をお聞かせください。また、美術館年報に記されているスタッフ数と現状のスタッフ数が違いますが、それはなぜでしょうか?

2018年度以前の年報にはパートタイマーを記載してきませんでした。しかし、どの程度の人数で美術館を運営しているのかを記載していく必要があると判断し、2018年以降はスタッフ全員を年報に記載するようになりました。

当館の場合、組織としては10名体制となります。内訳としては、館長(1名/男性)、部長(1名/男性)、グループ長(1名/女性)、事務職員(1名/女性/任期付)、専任学芸員(2名/女性/任期付)、非常勤学芸員2名(2名/女性/任期付)、パートタイマー(2名/女性/任期付)です。さらにそこに主幹(1名/男性)が含まれます。

美術館を運営する上で現在のスタッフ数をどのように捉えていますか? 例えば、人材不足など感じていますか?

人材不足とは思っていません。展覧会を滞りなく運営できていることがそれを物語っていると思います。開館当初は学芸員だけでなく、館長や部長も展覧会を企画するといった、いわば学芸員業務を担当していたこともありました。それにより、現在よりも数多くの展覧会を開催することができました。また、スタッフ数は同じでも、その人材の仕事内容によって見ていく必要があるかもしれません。

当館の学芸員は非正規ですが、それについてどう思われますか?

展覧会運営や作品管理、安定した運営という視点から、同じ人が学芸員として継続的に職務にあたる、つまり正規職が望ましいと思います。当初専任学芸員は職員としての採用で5年の任期でしたが、2013年頃から、最長6年継続できるようになりました。2018年から雇用形態を変更し、専任学芸員は教員職となり、最長10年と任期が伸びました。しかし、任期付という採用形態は変わらないのが現状で、それは問題だと思っています。長期的な見通しをもって展覧会企画を行えないことには変わりありません。

非常勤学芸員も任期付です。今後も任期付という採用形態は変更できないのでしょうか?

非常勤学芸員も専任学芸員同様に、正規職が望ましいかもしれませんが、当館は大学美術館なので、学内全体の職員のバランスも考える必要があると思っています。美術館スタッフの雇用ばかり延長(任期付廃止)を望むことは難しいと思っています。

学芸員の募集条件についてお聞かせください。大学博物館として、学芸員は女子美出身者が望ましいと思いますか?

希望としては、絵画・彫刻担当の学芸員は卒業生が良いと思っていますi。学内と連携した展覧会内容も多いため、母校への愛があるかどうかは大きいと思います。また、美術館は大学全体の取り組みの一つであるため、大学への愛という要素は大きいでしょう。女子美出身の方が、美術館の必要性を大学の中で捉え、感じ取りやすいのではないかと思います。

ただ、スタッフ全員が女子美出身である必要はないと思いますし、現在も女子美出身ではないスタッフもいます。女子美出身ではないからこそ、客観的に当館の活動を捉えてくれていて、その点も大切だと思っています。

i染織コレクションを担当する専任学芸員と、絵画・彫刻コレクションを担当する非常勤学芸員は女子美出身者ではない(2021年度9月時点)

学生ボランティアの運営についてお聞きします。現在、展覧会会期中は学内の学生がアルバイトをしています。業務内容は基本的に受付や看視業務ですが、学芸員資格取得者に限定してはいないという点で、幅広い女子美生の活動の場になっているとも感じています。2008年までは学生ボランティアがいましたが、今後募集する可能性はありますか?

まず、学生ボランティアが労働力の補填になってはならないと考えています。ボランティアスタッフが活動していた当時、美術館へのフィードバックは少なかったと感じています。ボランティアの業務と、アルバイトの業務の境界線に曖昧さがあったと思います。学内の学生が美術館に関わる機会は必要だと感じていますが、アルバイトという活動の場があれば、ボランティアでなくても良いと思っています。

今現在、業務が滞っていないということもあり、現在はボランティアを募集する予定はありませんが、その時々の運営内容によって、再び募集する可能性はあると思います。

美術館の休館日について教えてください。日曜日に開館していた年度もありましたが、現在は基本的に日曜・祝日は休館日となっていますが、そこにはどのような理由があるのでしょうか?

日曜日に開館していた時、専任職員が出勤せず、非常勤やパートタイマーのみが出勤していたことがありました。それを見直し、日曜日を休館日としました。また、休日は学生の来館が少ないという現状もありました。休館日を見直した際に、他の大学博物館の休館日も調べましたが、学内利用を前提にしていることが多いため、授業の行われていない日曜日を休館日とする館が多かったです。その一方で、地域に開かれた美術館という視点も残す必要もあると感じています。そのため、展覧会や学内行事によっては、休日も特別開館をすることで補っています。

基本的に当館は入館・観覧料は無料ですが、それについてどう考えられていますか?

最近の展覧会は入館・観覧料を無料としていることが多いですが、企画展によって異なります。有料とした場合も、学内生や卒業生、未就学児、65歳以上、障害者手帳等をお持ちの方は無料でした。そうなると、入館・観覧料を徴収したとしても、当館の来館者層の多くは無料となることに気付きました。大学附置施設であることを考えると有料が望ましいという点もあるかもしれませんが。その時に入館・観覧料を見直し、多くの展覧会を無料としました。

現在、専任学芸員が授業を担当していますii。学芸員が学内授業を担当することについてどう思われますか?

学芸員が授業を担当することは良いことだと思っています。学芸員の研究や教育の幅を広げることができますし、学芸員も任期付採用のため、退職後のキャリアアップとして授業を持つことは望ましいでしょう。大学授業との連携という点からも重要であると思いますし、学生と学芸員が触れあう機会としても大切です。学芸員が授業を担当することで、美術館運営にもフィードバックがあります。

ii絵画・彫刻・学芸員担当科目:博物館教育論、博物館実習、ワークショップ演習
染織・学芸員担当科目:博物館展示論

当館のミッションは達成できていると思いますか。また、大学博物館へ期待することを教えてください。

当館は展覧会を通してミッションを達成させていると思います。その点においては、ミッションの達成を学芸員に委ねているともいえます。

今後については、女子美の顔として、もっと発信をしていきたいです。美術館の活動は、女子美の受験生や一般の方々に、大学の取り組みを知ってもらう機会となっています。学生が実践していることは外部に出にくいですが、美術館の取り組みは多くの方に知ってもらえやすいと思います。その意味で、当館は大学の広告塔としての役割も担っています。いわば、学術・研究を支える根幹として、また、大学の顔としても存在しているわけです。

当館は名画を押し出すような展覧会は開催できないですし、ロケーション的にも多くの来館者数を期待しにくいため、今後は学生が展覧会により関わることが求められるかもしれません。

インタビュアー:藤田百合

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Inquiries

universitymuseum.research@gmail.com

  • 研究代表者:武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科 杉浦幸子
  • 研究分担者:明治大学 文学部 井上由佳
  • 研究分担者:女子美術大学 女子美術大学美術館 藤田百合
  • Principal Researcher: SUGIURA Sachiko, Department of Arts Policy and Management, Musashino Art University
  • Co-researcher: INOUE Yuka, School of Arts and Letters, Meiji University
  • Co-researcher: FUJITA Yuri, Joshibi University of Art and Design Art Museum Curator