culture power
mecenat 荻原康子/Ogiwara Yasuko









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イントロダクション

授業の前に「企業メセナ」という言葉を知っているかどうかを聞くと、明確な知識がなくても、なんとなく聞き覚えがあるという学生が増えてきた。

メセナという用語は、古代ローマの高官マエケナスの名前から由来し、フランス語で学問・芸術文化の擁護・庇護をすることを意味している。日本では80年代の好調な経済状況の中で企業市民「Corporate Identity」の意識が高まり、冠協賛的スポンサーによる販売促進の宣伝事業とは一線を画して、社会貢献の一環として芸術文化支援活動を推進する目的で、1990年に社団法人企業メセナ協議会が発足した。セミナーの開催、地域との交流、調査研究、機関誌の発行、メセナアワードによる顕彰などを通した企業メセナ協議会の地道な努力のおかげで、90年代以降の長い経済不況の時代にあっても、徐々にメセナは根付いてきたといえる。

1991年以降、企業メセナ協議会が実施しているメセナ活動実態調査はホームページで検索できるが ( 社団法人企業メセナ協議会 > メセナの動向 )、1997年度にメセナ活動を行った企業は265社、2001年度には375社、2005年度には443社、2008年度は464社と年々増加の一途をたどっており、2008年のメセナ活動費の総額は408社で、258億1633万円、一社平均6327万円もの額となった。特定公益増進法人であるメセナ協議会を通じて芸術・文化活動への寄付を行うと、「損金算入」もしくは「所得控除」ができる優遇措置があり、この「助成認定制度」が後押しをしている。

企業メセナ協議会の荻原康子氏は講義後のインタヴューで、日本の企業メセナが国際会議で評価される特徴として、「日本の企業は自分たちで文化施設も持ち、メセナも社会貢献も担当部署の人が企画したりと非常にきめ細かくやっている。そこから生まれるプログラムの多様さについては驚かれ、高く評価されています。」と述べている。企業メセナの興隆も地域の活性化と同様に、市民自治が重要な鍵となることは間違いない。

とはいえ、発足から20年経った今、日本の企業メセナの活動内容を詳細に分析してみると、かなりの偏りがあることがわかる。国際的に著名な音楽家や国内でも有名な指揮者を招いて地方で開催されるクラシック音楽のコンサートなどには、各公演のクオリティや芸術貢献度を不問にしたまま、多くの企業から数百万、数千万円の協賛金が容易に集まる一方で、実績の乏しい実験的なアート活動などには2,3万円の支援金でさえなかなか出してもらえない現状はかつてとあまり変わっていない。政治力、マスコミ露出度、継続実績年数、面識があるから安心といった判断だけではなく、貴重な資金提供をされるときには、芸術文化の現状をよりよく改革するという意気込みで、企業市民の方々が各自、世界の未来を創るという果敢な意志と透徹したまなざしを通して、ぜひクリエイティヴな評価をしていただきたいと願っている。      

(岡部あおみ)