インタヴュー
Chim↑Pom(卯城竜太、エリイ) × 岡部あおみ
学生:「現代アート研究−アートと社会」3年受講生、4年ゼミ生、院生1年、2年
日時:2009年6月4日(木)9:00〜12:10
場所:9号館505教室、605教室
第1部
01 動物シリーズ
岡部 Chim↑Pomは広島で制作した『ヒロシマの空をピカっとさせる』の作品が今月のBTで特集になっていますし、みんなもいろいろなところで作品を目にする機会があったと思います。私もとても期待しているグループなので、今日、話を聞かせていただけれて嬉しいです。よろしくお願いします。
卯城 僕らのデビュー作『スーパー☆ラット』から話しをさせてもらいます。センター街でめちゃくちゃ大量に生息しているネズミを、ワーワーキャーキャー言いながら捕獲して、剥製師さんと一緒にピカチュウの剥製を作ったものです。最初は、よくあるネズミ捕りでとっていたんですけど、それじゃサイズが選べなくて。都会のネズミはでかくなきゃダメだよな、と他の方法を探っていた時に、あるラーメン屋のおじさんがゴミを出すときに、棒を持っていたのを見たんです。何をするのかな、と思っていたら、それでゴミ袋をボーンと叩いたんです。そしたら壁づたいにネズミがいっぱい飛び出してきて、どういう趣味か分んないけど、おじさんがその棒でゴルフみたいにネズミを打ってたんです。えっ!?おいおい!驚いて話をしてみたら「週末には5匹がノルマですよ」って…。で、なるほど、これは罠じゃなくて直で網でいけるなと。それからは厳選できるようになりました。何か魚釣りみたいな感じなんですね。入れ食いのポイントがあったりして。よく終電から始発まで遊んでいました。捕っといて言うのも何なんですが、渋谷のネズミってすごくかわいいんだよね。何か自分を重ねちゃうところがあって、やっぱり感情移入してましたね。剥製がかわいく仕上がった時は嬉しかったです。東京の野生っていうところに、本気で向かいあえる相手のように共感してました。割と最初から評価していただきまして、海外に持っていっても一番うけて、びっくりされる作品です。
『スーパーラット』は、ネズミ駆除業界で最近つけられた名前で、人間に駆除されてる内に、毒餌に体が順応したり、しかもその体質が子どもにまで遺伝したり、罠を警戒するようになったりと、だんだんネズミが進化してきたんですね。それをそう呼ぶようになったんですけど、これが何となくスーパーフラットともリンクしている気がしてかっこいいなと、作品名として採用したわけです。もともと絵画的な手法や、立体的な手法とかをあまり得意としてはいなかったので、基本は身体を資本にして作品を作っていたわけですけど、それって絵と違って最初からhow toがあるわけじゃないから、何をやるにしてもまずは実験から始まって、いろんなことがわかってきて、だんだんイメージが具体化されていくわけです。スーパーラットから始まった一連の動物シリーズは、生態を知りながらコツを掴んでいく、みたいな、まさにさぐりさぐりなやり方で形になっていきました。(レクチャーはスライドやヴィデオを紹介しながらでしたが、ここでは写真と説明だけでもわかるように多少アレンジしてあります。)
『スーパー☆ラット』2006
ビデオ、渋谷センター街で捕獲したネズミの剥製
©2006 Chim↑Pom
courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
『BLACK OF DEATH』も東京の動物と戯れる作品で、カラスの剥製を囮にしてカラスを集めるというものです。剥製を持っていると、カラスがワーッと寄ってくるんですが、その時に発する鳴き声を録音しておくんです。多分、仲間を呼ぶ声なんですが、それをトラメガであっちこっちの方に向けて流すと、更にカラスが集まってきて、空が黒く埋め尽くされるみたいになるんです。やっているうちに色々わかってきて、カラスがついてくるスピードは「バイクや車がいいな」とか。朝方になったら街にゴミを取りに来るので、代々木公園から車で連れまわして、渋谷の街中で更に集めようとか。そしたら109の上あたりですごいことになっていた。国会議事堂とか、東京タワーや都庁とか、他にもいろんな東京の名所の上でカラスを集めましたね。何がしたかったかというと、記念撮影をして東京土産のポストカードセットを作りたかった。
『BLACK OF DEATH』(above 109, Shibuya, Tokyo) 2007
ラムダプリント、ビデオ
©2007 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
そのネズミとカラスの一連の作品の完結形が、去年「hiromiyoshii」というギャラリーでやった、『友情か友食いか友倒れか』という、パフォーマンス作品です。メンバーに水野君という、並外れていろんな事に体を張る奴がいるんですけど、彼が、渋谷のネズミと代々木公園のカラスと一緒に、ブロック塀で作った一部屋で、三者に共通する『ゴミ』を食いながら、会期中ずっと生活するという実験作品です。マジックミラーと防犯カメラで外から中の様子を見れるんですが、カラスとネズミ、「かーたん」と「ちゅう」というんですけど、見てると、1週間くらいで、仲良くなったのか?って思っちゃうくらい、三者の距離は縮まってましたね。水野君の手から餌を受け取ったり、水野君の体を這いずりまわったりとか。そこからまたいろいろなストーリーがありましたが...。
02 カンボジア
『スーパー☆ラット』の後にやった作品が『Thank You Celeb Project I'm BOKAN』です。何が発端だったかというと、エリイちゃんがセレブに共感していた(笑)。ほんとに、「ふつうのプロ」ってくらい実は皆と同じものを大切にする素朴なコなのに。「エリイちゃんの夢って何?」って一回ファミレスで訊いたことがあるんですけれど、そしたら「地雷撤去」って言いはじめた(笑)。ダイアナ妃に中学の時に影響を受けたらしく、「ああいうのは素晴らしい」って。「じゃあすぐカンボジアに行こう」となり、具体的にはほとんど何も決まっていなかったけど、出発。
エリイ ウルルン的な番組で地雷撤去をしているおじさんが映っていた。カンボジアに地雷撤去しているおじさんがいる、じゃあカンボジア行こうってなったわけ。
卯城 「じゃあカンボジア」(笑)。エリイちゃんの夢をかなえるならカンボジアだろうと思ったけど、とりあえず渡航費と制作費の借金から始まりました。そのくせ、オードリー・ヘップバーン、マドンナ、ダイアナとかの文脈を僕らも継いでいこうと、そんなデカい気持ちが自分でも面白かったですね。
で、その地雷撤去をしているおじさんなんですけど、とった地雷を自分の家で展示して、地雷博物館っていうのをやってるんです。そこで地雷被害者の子たちを養っていて...、て、まあそういう良い人である事には間違いないんですけど、実際はそんなんじゃ片付けられないような人でした。7歳のときに内戦があり、ポルポト派に自分の両親を殺されてから、ポルポト派の少年兵になったんです。
それから20歳で終戦を迎えるまで、ベトナム軍、カンボジア軍と渡り歩きながら、地雷を埋め続けて大人になった。それでいざ終戦を迎えた時に、悪とか善とかって事じゃないんだけど、戦場とか地雷原ていう、自分が生きてきた現場を失っちゃったんですね。
それで何をしだしたかというと、地雷原に戻って、今度は地雷をとりはじめた。もちろん平和への気持ちもあっての事ですが、彼にとって居場所だっていう感覚があったんじゃないかと思う。何しろ世界でいちばん腕がいい地雷撤去人って言われてるらしいんですけど、彼は勝手にやってるからブラック・ジャックみたいにモグリなんです。
だから、流石に今は違うだろうけど、当時はライセンスとか持っていなかった。何度もパクられながらも、その都度何とか切り抜けながらやり続けていた。だいたい地雷撤去って言ったら、探知機で地雷原をピーってやるイメージだと思うんですけど、彼の場合は勘なんですね。勘と木の棒。木の棒で、地面をガツガツ掘る。「ナナメ45度から掘って、踏まなければ大丈夫」って。今まで彼も二回くらい地雷踏んでいるらしいんですけど、地雷が壊れてて大丈夫だったらしいです。エリイちゃん、地雷原に連れて行ってもらったんですけど、「夢だけど、めっちゃ怖かった」って(笑)。
エリイ めっちゃ怖かった!だって踏むかもしれないんだもん!
卯城 ほんと、普段は目が泳いでていつも面倒くさそうにヘラヘラしてて、会話を誤魔化したりしてるダメそうな人なんですけど、いざ地雷とりに行くとなると、ピッと軍服を着て、「今から行きます!」、「三分で用意してください」って豹変する。一分でも遅れると、「それは戦場では死を意味します」(笑)というそういう人なんですね。
で、彼の協力で、エリイちゃんの私物のバッグとか、I Pod とか、そういう物を地雷で爆破させてきました。とった地雷は爆破処理するんですが、その時に「これも一緒に爆破させてくれ」ってお願いしてみたら、楽しんでやってくれた。最終的には、エリイちゃんをかたどったセレブポーズの石膏像を爆破したんですが、この時に至ってはもう、彼の方からきましたね。
僕らが泊まってたゲストハウスに急に早朝にやってきて「あなた達、人形作っているでしょう。私見ました。」って、「今からカンボジア軍がとった地雷を爆破しますから行きましょう」って誘いに来てくれた。今までで一番地雷がある所で、一番派手な爆破だったんですけど、逆に俺らも何が何だかよく分らなくなっちゃって、楽しくてしょうがなかったですね。
「軍隊が協力してるよ!」みたいな。誰にも話を通したわけじゃないんですけど、面白いってことでつながってそういうふうになっていく。で、軍人達もそういう、今までに見たことがない景色が見れるから面白がってくれた。爆発を撮りやすいように邪魔な枝を切ってくれたり。で、その被爆したグッズを買ってくださいって、エリイちゃんが地雷被害者の子たちと一緒にスピーチした映像を作って、世界にチャリティーを訴えました。「作品の売上金をドネイションするわ。あ、ギャラリーが半分持ってくけどね。ん?製作費?そうね100万円くらいかしら。たいした金額じゃないわ。ただの借金よ。
今回あなたもこの作品を買ってこのチャリティーに参加してくれたら幸いよ。」って感じです。
その後帰国してから、そのスピーチどおりにチャリティーオークションを自主開催して、それらのグッズを売りました。オークショニアはいとうせいこうさんとエリイちゃん。
その都度の金額を4つに分けてプロジェクションしたんですが、一番上がジャパニーズ円で、その下がUSドル、その下がカンボジアリエルで、その下に、それで買える義足の本数を並べてみました。そして普通のオークションと違って、逆に高い値段から下げていく。例えば、今、現代美術で一番高いと言われている、デミアン・ハ―ストの「ダイアモンド・スカル(骸骨)」という彫刻作品と同じ値段、126億円から始めてみたら、その作品1個で世界中の義足がまかなえる数字が出た(笑)。そういうことを知りつつも、だんだん金額は下がっていく。でも義足の本数が減っていくから、「やばい」って思ってくれたのかな?手をあげてくれる人がいて無事全部売り切りましたね。結局、全額カンボジアの彼らに寄附するために、またカンボジアに赴いたんですけど、2度目に行った時には、地雷博物館もいろいろと変わっていた。それも合わせた全貌は、映画としてまとめて発表しましたが、プロジェクト全部合わせると、3ヶ月くらいカンボジアで過ごしたんじゃないかな。
エリイ 私もう、アンコールワットのガイドできるくらい詳しいよね。
卯城 2回目に行った時は、エリイはもうヘロヘロになっちゃって、倒れて、高熱も出るわ...。
エリイ 帰りが超大変だった。
卯城 飛行機からスチュワーデスさんに、車椅子押されながら出てきて、そのまま医務室直行だったもんね。点滴打たれながら「セレブ」とか言ってたね。(笑)
エリイ お父さんとお母さんが「娘さんが危ないので来てください」とか言われて、お母さんが「パパ、えりが危ないらしい」とか言って。(笑) で、入院したかな、3日間位。まあ、そのまえから具合が悪かったんだけど。
卯城 まあそこまでの思いをしながらも、僕らには一銭にもならなかったプロジェクトです。
サンキューセレブプロジェクト アイムボカン チャリティー・オークション 2007
オークション風景:P-House、東京、2007
photo: 森田兼次
©2007 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
03 怒られたり感動したり
卯城 「オーマイゴッド」というコンセプトで僕らがシリーズでやっている展覧会がありますので、それの作品を紹介します。多分今年の8月位にもやる予定です。第二回の「〜気分はマイアミビーチ〜」展では、クーラーの室外機が室内に取り付けられていて、室内機が外に向けて出ています。室外機からは熱い温風が出るので、暖かい南国みたいな展覧会にしたかった。で、同時に、地球が温暖化しているから、外に向けて冷風を出して、地球を冷やしながらギャラリーを暖かくする。一石二鳥の作品を基にしました。
『Island Heat』 2008
エアコン、室外機、壁紙
© 2008 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
別に『スーパー☆ラット』とか『Thank You Celeb Project I'm BOKAN』プロジェクトみたいな感じじゃなく、見ていただければ分かると思うんですけど、『バンザイマウンテン』っていって、戦時中のかっこうでスプラッシュマウンテンに乗って写真をとってくれるときに、「バンザーイ!」って絶叫しながら滝に落ちて行く、毎回そういう気軽な単体を集めたような展覧会になってますね。
エリイ これを撮るために、私と稲岡君、30回くらいスプラッシュマウンテンに...。
卯城 しかも雨の日。この稲岡君が真面目な男の子で、彼はしっかりやるから、写真撮る瞬間に「バンザーイ!!」 ってマジで叫ぶんです。見ものなのは、エリイちゃんの顔がすごい。男が決死の時は分かるけど、女が死ぬ時はこういう顔になるんだ、と思った。(笑)
卯城 『オレオレ』は2007年の作品なんですけど、オレオレ詐欺が流行った時に、息子を心配したり、もしや会話の中に心が温まるストーリーがあるんじゃないかと思って、ちょっとひねりを加えて、実際にやってみたものです。電話帳で無作為におばあちゃんっぽい名前選んで「あ、オレオレ」って言う。話を進めていって「最近、年金問題とかで大変だね。大丈夫?お金の方とか」って言って、「最近俺もお金できてきたからさ、振り込むよ」と、逆に銀行口座を教えてもらい、1人1000円出してChim↑Pom 名義から6千円振り込んだ作品です。怒られ続けながら電話をかけ続けて、ちょうど60件目に成功しました。怪しいのは、途中からおばあちゃんの方も他人だって分ってきて、敬語になり始めている。「お金振り込むよ」「いいんですか〜?」みたいな(笑)感じでした。
次に『ヴェネツィアビエンナーレ ゲリラ参加@東京ディズニーシー』という作品ですが、当時ヴェネツィアビエンナーレをやっていて、ゲリラで参加したいなと思ったけど、実際ベニスに行った事があるエリイちゃんに言わせると、どうやら街並みは東京ディズニーシーと変わんないらしい。エリイちゃん中では既にごっちゃになってるって。で、前日にエリイちゃんから「卯城、白雪姫」みたいな服装の指令がみんなに来て、集合写真。全員、ディズニーの動物たちの洋服を着ています。
エリイ これ、撮るのがめっちゃ大変だった。この恰好でこのかたちになっているのは多分3秒くらい。みんな上着を着て、カメラ設置して「3,2,1はい!」ってこのかたちになって、速攻。
卯城 なのに怒られたね。ディズニーランドにもこんな人がっていうような固い人たちがやってきて、「先ほど、ヌードになられてた方ですよね?」って。(笑) 怒り方も紳士的で、「他のお客様の夢を壊さないでください」、「すみません」って言ったら、「それでは、引き続き楽しんでください。」って。普通に怒られるよりよっぽどへこんだよね。
ヴェネツィア・ビエンナーレ ゲリラ参加@東京ディズニーシー 2007
インクジェットプリント、ステンシル
© 2007 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
『木の役』は、木に穴あけて顔出して手に枝持ってじっとしてる作品です。富士の樹海でキャンプしながらやったんですけど、自殺の名所って本当で、現場がめちゃくちゃいっぱいあった。でも不思議な事に遺体はないんですよね。キャンプをしているうちに遺品にも慣れてきて、どうもある気持ちが分ってきちゃう。てのも、樹海ってのは完全な原生林だから、すごく神秘的で美しい所なんです。木も倒れて、床もフワフワしていて、動植物いろんな死骸があるんですが、そこから又新しい命が生まれて、成長して、死んでってという、妙に秩序がちゃんとできていて生命力にあふれてるんです。この一部になるってのもいいな、って。でも、ついにそうも言っていられないような現場を発見しちゃった。
それがエリイちゃんと同い年の男の子。なぜそれが分ったかというと、手帳の遺書があったんです。他にも秋葉原でフィギュアとか剣を買った領収書があったり。でも遺書って、ここにくるのは皆失踪しにくるから、誰かに手紙を残しても見つかるものじゃない。なのに、言葉を残す。まあ、その子が本当に死んだかどうかも分らないんですけど、その言葉が、めちゃくちゃ良かったんですよね。で、第一回「オーマイゴッド」の時に、それをコピーしたのに書き込んだりしてカタログを作ったんです。
今でも憶えているんだけど、これから死ぬ人って思えないくらい言葉がポジティブだった。「おおむね勝ち越しの人生でした」って書いてあって、家族ひとりづつに、「父へ 最後の半年は親子らしかったな」「母 頼りにしてました。誰よりも」「妹 幸せになれ!」って。ほんとに感動的だった。現場自体もすごくインパクトが強くて「あっ」って思ったんです。そういうときの感動って言葉では言い表せないから、とても複雑なんですけど、僕たちは何かしたいと思うんですよ。インプットしちゃったかぎり。でも、その話を人に伝えたりとか、そこからインスパイアされたものを作るって言うほど、僕らは器用じゃない。で、何をしたかと言うと、その時の感情は今でも説明しずらいけど、その、首を吊ったと思われるビニールひもと、それがかかっている木を東京に持っていこうと。で、木を切って、ロープをそのままにして車に入れた。悪い事をしているような気持ちもあったし、あと呪われたらどうしようとか。(笑) 何せその木をどうしようとか考えてもいなかったし。で、まあ、作家だったらそれを木彫作品にしたりするかもしれないけど、そのコンセプト、っていうか、アートにする為にそれに手を加えるって思考自体がどうも陳腐に思えてしかたなかった。自分たちの作品にするのにも抵抗がありましたね。
もっとこう、何か説明できない感情だったし、存在なんだ、って、結局いろいろ考えた結果、僕たちには何もできませんでしたね。だけどこれが東京のギャラリーに現れるってのは素晴らしいと思った。結局、多分彼が首を吊ったと思われるビニールひもの輪っかの所に白い人形を作って、ぶらんこみたいに座らせるだけにした。あとは木もサーベルもそのままにして展示しました。
苦労したのが、何しろ何とも言えない感情だったから、白い人形に何とも言えない表情を作ること。これもエリイちゃんのタイトルセンスが抜群で、『ともだち』というんですけど、いまだに思い出深い作品です。
04 カッコいい事をしたかった
カッコいい事をしたくて(笑)、要は、火でハードロックカフェのロゴを作るとか。タイトルも『イケてる人たちみたい』というカッコいいだけの作品があります。
あとは、サンドアート。ギャラリーに来た人達は、なんなんだろうって見ていたんだけど、こんな造形技術が僕らにあるはずもないから、皆「Chim↑Pomにしては技術が上がったね」みたいな事を言っていたけど、要はスプレーのりを吹き付けてそこに砂をまぶしただけの砂像。(笑) ビーチでは大人気で、めちゃくちゃリアルな水野君の砂像、まあ中は本人なんですが、それを長時間放置していたら、皆びっくりしてました。先日も白浜でやってきたんですけど、設置して遠くから見ていると、「だれが作ったか分んねえけど、すげえのがある!」って人が集まってくるんです。(笑) みんな近づいてみるんですけど、やっぱり生きているからちょっと動いちゃう。そしたら「オオッ!」って、(笑) 質感がすごいですよ。
また別の試みですが、『コックリさんドローイング』っていう名前通りの作品や、その延長の『コックリさんでタトゥー』っていう水野君をキャンバスにした作品もあります。
太陽をモチーフにした作品もあります。俺らの太陽って言ったら、ギャラリストでマネージャーの藤城さんでしょう。という事で、『You are My Sunshine』。彼女は80年代にジュリアナとかで遊んでたっぽそうな人なんで、ジュリ扇で表現した太陽をカチューシャとして頭につけてもらって接客してもらいました。
『エロキテル』というのは、発明品、というか発電機です。スポーツ新聞の三行広告という、全部で20文字くらいの卑猥な広告欄があるんですけど、まずそこに「チンポムエロキテル」と携帯電話の番号を載せるんです。それをみたエロいおじさんがこの携帯に電話をかけてくると、ピカーンと電球が光る。要は、エロエネルギーに未来があるなって思った。人類が滅びない限り枯渇しないエネルギーなんじゃないか。なのに毎日ムラムラしながら無駄にそういうエネルギーを放出している。「もったいない」という作品ですね。ロスで展示した時には、同じ事をロサンゼルス・エキスプレス新聞社でやったんですけど、アメリカだったらかなり激しいんじゃないかと思って、稲妻を発生させる装置を使いました。放電させると上の蛍光灯が光る。
05 楽しい日常―そんなはずはないけど、そういうのが大事なのかな
バリ島で作った映像作品『Saya mau pergi ke TPA』は、東南アジア特有のものすごいゴミ山、深刻なゴミ問題と関連しています。そこでゴミを拾って生活している人たちがいるんですが、水野君がそこで彼らを1週間くらい手伝って仲良くなる。かたやエリイちゃんはバリ島を巡る観光ヘリに乗っている。で、上空と下界が、そのゴミ山で出会うんですが、エリイちゃんがゴミを放りなげることによってつながる。ビニール袋なんですが、これは彼らがいつも拾っている資源なんです。で、そのエリイちゃんのビニール袋ごと大量のゴミを彼らから買ってきて、ギャラリーにビデオと共に展示しました。いわばそこに世界の縮図があるのかなというところです。
いろいろやってきましたが、今のところ僕らの最高傑作が『Happy Everyday』です。去年行きついたのがこれ。エリイちゃんに「もうコンセプトとかいいから、皆いい笑顔になって」って言われて撮った集合写真ですね。
エリイ 国分寺のSIDAXで、オーシャンズ13的なものをイメージしたんだけど。日本全国が晴れマークの時って、 私たまに見るときがあって、そのたまに見た時、超最高に幸せだなと思って。
卯城 そういう面白さが今も重要なんです。コンセプトというより、エリイちゃんに感化されながらそういうところが作品に入り込んできているところがある。楽しい日常。別に楽しくなくっても生きている明るさかな。本当はそんなはずはないんですけど、そういうのが大事。
エリイ そんなはずなくない。
卯城 去年恵比寿にできたNADiffギャラリーのこけら落としでの展示です。新しいビルの一発目の展覧会だから、廃墟みたいな事がやりたかった。しかも汚水まみれにしたいって言ったら、意外に通っちゃった。(笑) 本当にやらせてくれる事になり、5日くらいで全部仕上げました。ホワイトキューブ作らなくていいからコンクリのままにしてくれと言って、そこに落書きしたんですが、そのスプレーのシンナーで皆ヘロヘロになって、水遊びしながらパーティーのように羽目を外して、作っていきました。最終的に何人かでそこにおしっこをしたんですが、そんなひどい空間を作り上げて何がしたかったかのかと言うと、そこに、オープニングでエリイちゃんがホタルをいっぱい飛ばしたんです。これがすごくきれいだった。これもノーコンセプトなんですけど、僕は昔インドに行ったことがあって、そこで見たドブ川にいっぱいホタルがいた景色が忘れられない。それがすごくきれいで力強いなと思ったんです。これが『日本のアートは10年おくれている。世界のアートは7,8年おくれている』という作品です。生の肯定というか、僕たちなりの人間賛歌ですね。享楽精神を大事にした、きれいで楽しいものです。
『日本のアートは10年おくれている 世界のアートは7、8年おくれている』 2008
ビデオ、平家蛍、水、建設廃材、各種画材、小便小僧、ビール、すいか、制作時に発生したゴミ、ゴムボート、尿、お面、水風船、水鉄砲、シャボン玉、ロケット花火、他
展示風景:「日本のアートは10年おくれている」NADiff a/p/a/r/t、東京、2008
photo: 森田兼次
© 2008 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
それと、今ちょうど美術手帖にも載っているんですけど『ヒロシマの空をピカっとさせる』という作品です。広島市現代美術館の展示のためにやったんですけど、抗議があり自粛というかたちになり、報道が過熱したので謝罪会見にまで発展して、その騒動をまとめたのが本になっています(『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』2009年3月、Chim↑Pom・阿部謙一 編 無人島プロダクション発行)。原爆ドームの上空に、漫画の1コマのように飛行機雲で「ピカッ」という効果音を描いています。原宿で3日間だけ展示したら、800人くらい来てくれて、いままでChim↑Pomなんてまったく知らなかった平和活動家みたいなおばちゃんとかが来てくれました。対応に困ったんだけど。(笑) 何に困ったかと言うと、あの騒動がなんだったのか気になって確認のために来たんだけど、中国新聞のスキャンダラスな「やばい」感じと違って、何せ静かで軽い作品だから、その印象のギャップが妙に激しい。それで「あなた達のやっていることは大事なことよ」と言う人が多かったのですが、平和運動というのも試行錯誤の中で煮詰まってるのかもしれない。もうひとつ、広島関係でやっているプロジェクトが『リアル千羽鶴』です。すごくリアルに作ったタンチョウヅルで、今は8羽あるんですけど、千羽になるまで目指していくプロジェクトです。これは、一人一羽とか、べつに決まっていないんだけど、たとえば、お金がないから十人で一羽でもいいし、ともかくみんなで千羽を目指していきたいというプロジェクトです。賛同する人ができたら発注をうけて1羽作って、その人の祈りを書いたプレートを作る。最終的には千の祈りが並ぶわけですが、エリイちゃんは、「幸せになる」、あとのメンバーのは「平和」とか、プレートが一枚つづあります。
展示風景:個展「広島!」Vacant、東京、2009
(奥)『ヒロシマの空をピカッとさせる』2009 ビデオ
(手前)『リアル千羽鶴』 2008- ミクストメディア
photo: 森田兼次
© 2009 Chim↑Pom courtesy of Mujin-to Production, Tokyo
学生 ほかのメンバーの願いは全部違いますか?
エリイ あたしが勝手に考えて、水野君の「死にたくない」が一番目立っている。
卯城 このプロジェクトは、完成まで軽く3〜40年はかかると思います。来週からまたNADiffで広島の展示があるので、ピカッの映像と千羽鶴の両方を展示します。美術史家の山下裕二先生と『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』の編集者の阿部謙一さんとトークショウも予定してます。実際、広島でなにがおこっているかは、今いろいろ質問受けるよりは...。
エリイ 本、読んでもらえればいいかな。
卯城 次は最新作の話です。最近おきた男性タレントが夜中に公園で酔って全裸になって逮捕された事件を受けて、メンバーの男5人がやった緊急企画です。エリイちゃんに聞いてみたらぜんぜん興味ないって、そんなもの男だけでやってくれって感じだったけど。『捨てられたちんぽ展@ギャラリー・ヴァギナ』って言う展覧会です。告知も限定して、2日間だけ開催しました。どういう展示だったかというと、上も下も壁も全部真っ白のホワイトキューブを作って、そこにポツンと1本ちんぽが生えている、というものです。要は水野君が壁の後ろにいて、2日間、穴からずっと出してるんですが、これがなかなか良かったですね。「男性器が入る穴」の中ということでということでヴァギナ内の視点を獲得できた有意義な作品でした (笑)。でも基本的には単純なんで、初めてアートを見に来た高円寺の古着屋のお兄ちゃんたちなんかが、バカウケしてくれましたね。初めて見たアートがこれでいいのかという気持ちもあるんだけど。(笑)尋常じゃない楽しみ方で、単純にゲラゲラ笑っていた。一応「作品だからお手を触れないでください」と言ってるんだけど、そういう人たちには良い意味で通用しないんですね。触っちゃう。で、思わず水野君も引っ込めちゃうんですが、そのリアクションに「出てこいやチンポ!」って(笑)めちゃくちゃ喜んでくれた。そのお互いのシンプルさが良かったですね。
岡部 ありがとうございました。リアルで興味深いお話をたくさん聞いて、質問がいろいろあるでしょう。感想でもいいですが、何かありますか。
学生 『スーパー☆ラット』のピカチュウはみなさんが作ったんですか?
卯城 いや、剥製師さんと友達になって、専門家に発注してますね。
学生 広島の空に描くのに予算はいくらくらいかかったんですか?
エリイ 600万円くらいかな。
卯城 いや、あれは400万くらいですね。だからもう、借金まみれ。(笑)
学生 一つの目標に向かっていく過程で起こった、予期せぬアクシデントとかはありますか。それも含めて作品にしているのかな、と思ったんですけど。失敗したと思う事ってあるんですか?
卯城 人間未熟なものだから、僕は失敗してもいいと思っていて。逆に失敗を恐れる方が不自由だと思う。たとえば広島での騒動の渦中には、流石にこれは失敗かな、と思ったりもしたけど、作品自体は素晴らしいものになったと思う。失敗は多分、作品とか、コンセプトとか、自分達が素直でいる事とかで何とかなる。実際『スーパー☆ラット』からずっと変わらないんですが、探り探りいろんなことやって、作品として発表して、怒られたりもして、その都度そのリアクションに臨機応変に対応して、そのフィードバックの中でいつの間にか作品がみんなのものになっていく。広島のとき、作品に向けられた膨大な声を前にしながらつくづく感じたんですけど、Chim↑Pomの作品は、社会に育てられていくんじゃないかって。作家が作品の生みの親である事には間違いないんですが、どっちみち作品は作家よりも寿命が長く、コントロールしようと思うこと自体に無理があるな、って。作家が死んだあとも残っているわけだから。いつか、僕らから自立して、皆のものにならなきゃいけない。その為にファンや評論家、ジャーナリスト、ギャラリスト達がいるわけでしょ。皆で共有できるようにならなきゃいけないので、基本的に、アクシデントを乗り越えようという自分の問題というよりは、皆と一緒に皆で乗り越えて行けるものじゃないかなと思います。
学生 作品自体じゃなくてその過程から生まれるもの、その作品から派生するいろんな関わりに重要性があるというのが素晴らしいと思いました。
卯城 人と触れ合うのが好きだから。あの謝罪会見のあとすぐ被爆者団体の人たちと会ったんだけど、人を信用しているから、話したら何とかなるって思っている。
学生 すごく面白かったです。6人それぞれの個性があると思いますが、どういう風に集まってきたんですか。
卯城 最初は、エリイちゃんが女子高生の時から会田誠さんのモデルをやっていて、会田さんの絵をよく見ると、あれこれエリイちゃんじゃない?とか思うんですが、僕は、会田さんが所属しているミヅマアートギャラリーにボランティアに行ってたときに初めてエリイちゃんとあったんです。5年ぐらい前、会田さんが東京に住んでいた時、その家に若いやつらが集まっていて。
エリイ 30人くらいいたかな。そこの優秀な6人が結成したんですね。(笑)
卯城 Chim↑Pomを結成して一週間くらいで、夏休みの課題にエリイちゃんが大学にChim↑Pomを持っていって披露したんですよ。
エリイ 夏休みに何か作らなくちゃいけなくて、Chim↑Pomを紹介したら、120人ぐらいいる同級生の前で、先生に死ぬほどめちゃくちゃ怒られた。
卯城 へこみすぎて逆に超へらへらしながら、すぐに僕らにChim↑Pomで怒られたって言ってきた。強いなと思ったんだけど。
第2部
01 『ヒロシマの空をピカッとさせる』
岡部 広島に関しては、実際に制作した動機とか、真実の部分の一部は話せなくなってしまったのではないかと思ったんですね。というのはすぐに、いろいろ社会的な問題になってしまったから、言いにくくなったというか、言えなくなったこともあったのではないかと思いました。「ピカッ」は、飛行機雲なので、描くのに時間がかかり、ツの最後の字体になるまでのある一時期は、「ピカソ」と読めることが多いけれど、最初から意図していたのでしょ?
卯城 4,5回やったんです。上手く書けるものじゃないから。だから、ある回には「ピカソ」になっちゃったり。
岡部 もちろん、そうした描き方というか、飛行機の飛行の仕方にもよると思ったけれど、ピカソは反戦のシンボルともいえる「ゲルニカ」を制作した人だし、ピカソを一瞬、暗示することも考えていたのかなと深読みしたんですが。
エリイ まるで考えてない!(笑)
卯城 考えて、ました。(笑)
岡部 なかったの?(笑) Chim↑Pomの作品には、スーパーフラットをスーパーラットで示唆するとか、言葉遊びを秘めたような作品があるから、思惟を越えて偶然ということもあるかもしれませんけれど。
02 仕事の進め方
岡部 6人で仕事をするのはすごく楽しいでしょうね。自分一人で考えていることではないものへと、どんどん発展していく醍醐味もあるでしょうし。どういう風に最初にコンセプトが出てくるんですか?
エリイ Chim↑Pom会議を開くんです。結成一年目は毎週水土やっていたんですけど。
卯城 この間のトークショウでも「作品の着想はどこから生まれてくるんですか」ときかれて、「会議と締切です」と答えました。(笑)
エリイ 普通に生活していて日常生活で面白いなと思ったら、まず電話だね。
岡部 各メンバーがいろいろ考えているでしょうが、何かが浮かんだらすぐに誰かに連絡するわけ?
卯城 例えば2009年8月に無人島でやる展覧会は「FujiYAMA, GEISHA, JAPAnEse!!」展ですけど、それはエリイちゃんに「面白そうな展覧会ないかな〜」って聞くと、まず名前から「Fujiyamaかな」みたいな返答があって、「あたしと富士山が一緒に」みたいなイメージを出してもらう。まずはそこで話し合う。でも普通に話し合ってもつまんないから、全員外人になりきって、"Hey,Mr.Mizuno,ワタシニホンニイッタコトアリマセン。ニホンッテイッタラナンデスカ"みたいな茶番を繰り返しながら、形になっていく。
岡部 最初の時と比べても、そうしたプロセスは変わっていないんですね。
卯城 そう基本的には皆でやり、誰かがいいと言っても、皆で「いいじゃん」ってならないとだめ。
岡部 ボツになる事もずいぶんあるのかしら?
卯城 それはもうたくさん。
エリイ 五億個ぐらいある。
岡部 例えば、「ダメ」ってなるのは、おもにどういう理由かしら?
卯城 Chim↑Pomがそれをやっても別にどうってこともないから、お前が勝手にやれば? みたいになる。そういうのがかなり多いですね。
03 エリイさんの立ち位置
岡部 エリイさんは、例えば広島の『ピカッ』の場合のように、参加していないことがありますよね。 プロジェクトによってメンバーは参加・不参加、自由なのでしょうか。
卯城 エリイちゃんだけ自由です。エリイちゃんは、遊ばせとかないと生きてられないから。(笑)アートに結びつかないとかじゃなくて、勝手に生きていないと。「あ、今エリイちゃんは遊びたいときだな」って思ったら、放置。(笑) そういうのはエリイちゃんだけですね。
岡部 プロジェクトでも、エリイさんだけが違う役割が多いですね。
卯城 プロジェクトというより、エリイちゃんの場合は、季節が重要ですね。冬はマジでエリイちゃん何もできなくなるから。
岡部 冬眠ですか?
卯城 冬眠ですね。だからアートどころじゃないし。で、夏は夏で遊びたいからアートどころじゃない。(笑)すごくうまい時期を探らないと。あとは、楽しそうな仕事だったりって突破口はありますね。逆に作品じゃないような仕事などは、全部エリイちゃんにまかせちゃった方がいいこともある。例えば彼女は「見る目」が、ずば抜けてるので、「エリイちゃん、審査員の仕事あるけどやってくんないかな」と言うと「ああいいよ」と受けてくれる。けど、1週間後には大抵忘れちゃってるんですが。(笑)
会議の中でも、男は皆いたずらっぽい事考えるのが好きなんだけど、エリイちゃんは、もうそのレベルじゃない所まで見ていて、「あっち!」みたいな指令がとぶ。(笑)「エリイちゃん、今どっち?」「あっち」。直感的に言える人で、(笑)「ああ、そうか」、6人で「よしいくぞ」みたいになった時には、起動力があるから集団暴走みたいな感じで暴走し始める。で、いろんなミスはありながらも最終的には事故らない。結果的に、暴走して事故っちゃって自爆して「はい、おしまい」とならないのは、多分「あっち」の方向がしっかりしているからですね。(笑) 暴走していきながらも、どこに行くか分かっている。
04 アートとお金
岡部 東京の人がみな関心をもたずにはいられないカラスをとりあげた『BLACK OF DEATH』も、日常では知られていない野性的な生態、とくに集団的な仲間意識を表出させた点でとくに面白いと思いました。写真作品のクオリティも高いし、あの作品は割と売れたんでは?
卯城 そうでもないですね。
岡部 カラスは不吉な要素があるからかしら。あれさえも売れないとなると、皆さん、生活費など大変ですね。それでも皆頑張ってやっているわけだけど。
エリイ 皆、お金があんまり好きじゃないんじゃないかな。
岡部 気にしていないの?
卯城 気にはしていますよ。
エリイ 気にしている割には「お金はいいや」みたいなところがうかがえるのが。
卯城 それで癪に障るみたいな。(笑)
エリイ 私は第一お金主義なので。「入場料もらうなんて悪い」なんて、その心理が理解できない。だって、自分がやったことに対して、人に発表したことに対してお金をもらわないってことは、続けていけない―続けなくてもいいんだけど、なぜ、そこでお金をとらないのかな。私不思議に思うのがブログ書いている人だけど、自分が書いた文章、ひとにただで見せるなんて、すごいと思う。お金もらわないのになんで書くの? って、すごく思ってしまう。
岡部 会田誠さんの親御さんは左翼だと伺ったのですが、卯城さんも似た境遇だったのですか?
卯城 でしょうね。あまりお金に執着しないところはありますね。でもお金大事ですよ。だから何とかしたいとも思うけど、お金の話をする時に、それ向かい合うのが嫌いなんですね。
エリイ 心意気が足りなさすぎ。
岡部 先ほど、広島の『ピカッ』に400万円費やしたとおっしゃっていたけれど、アーティストの一作品の制作費ではかなり高額ですよね。6人いるから何とか皆で借りられて、続けられていると思うんですけど、ビデオにして売ったところで、使った金額が戻ってくるわけではないでしょうし。
卯城 まあ、いつかは戻ってくるんじゃないかと。...この話は、危険な方向にいきそうなので。(笑)
05 学生からの質問
岡部 (学生に)説明していただいたChim↑Pomの3年間の仕事の中で、すごく好きな作品がある人、いますか?
学生 私はお会いするまで「分んない」と思っていたのですが、会ってみて人柄やメッセージを知ってすごく好きになりました。
エリイ うちら、会うと気に入られるんだよね。(笑)
岡部 みなさんとても正直ですし、とくにやろうとされていることに対して誠実ですね。
卯城 会うって大事。作品も情報じゃなくて見るってのが。生じゃないと分んないものって多くてね。
岡部 ただ、あなた達が考えてやろうとしている動機とか、社会に対するある種の直感は、作品を見ただけではパッと分らないこともあるし、違う感覚をもってしまう危険もありますけど。
卯城 雑誌の情報で見るよりも、ナマで見ると印象が違うらしいです。『スーパー☆ラット』をビデオで流すと、ワーワーキャーキャーいっているところでみんな笑ってくれたりするんだけど、写真だけだと「ネズミを追い回して何やってるの?」という感じ。剥製も生だと「えっ、こんなにかわいいの?」みたいになるので、作りこむときにけっこうこだわっているんですよ。絶対かわいく作るぞ、って。
学生 楽しそうだなというのが伝わるのは、戯れている感じだからで、問題があるから皆にメッセージを伝えてやろうというのじゃなくて、自分たちはどう受け止めようか、みたいな感じがすごいいいな、と思いました。
学生 私も『ヒロシマの空をピカッとさせる』についての批評を中国新聞で読んでいたので、印象とても変わりました。いつも公立美術館での展示だと、かなり批判されますか? 作品を発表する場を選ぶべきだったと思いませんか?
卯城 いや、そうでもないです。話があったらどんどん受けて、やってみてだめだったらしょうがない。広島の経験で美術館、場所を選ぶというよりは、公立美術館はこういうところだという、俺らが空気を読めていなかったんですね。
学生 広島氏現代美術館の学芸員とは話し合いの密度はあまりなかったのですか?
卯城 学芸員に、「こういう事をやりたいです」って言ったら、了承がでたつもりになっていたのだけど、学芸員も、お役所仕事しなきゃならないところがありながら、アートの志もあり、苦しい立場にいる人たちなんだろうと思います。コミュニケーション不足だったんだけど、割と仲はよくしてもらいました。
岡部 広島市現代美術館での展覧会は、2007年にChim↑Pomが参加して大賞を受賞した「新・公募展2007」 のご褒美みたいなかたちなんですよ。もちろん彼らは翌年に個展ができる賞の受賞者として選ばれたのですが、その展覧会の担当学芸員とは別の外部の審査員に選ばれている。だから、必ずしもその学芸員の人が自分の企画として、最初からコンタクトをして選んだわけじゃない。結局、役回りとか順番とかで、自動的に担当になったのでしょう。
もし自分の発案の企画だったら、よく知っている間柄の作家などが多いし、当然、前もっていろいろ打ち合わせをしたりするけれど、突然担当がふられてきて、弱ったというところもあるかもしれないですね。どちらにしても、作品として、私は『ヒロシマの空をピカッとさせる』を、非常に直観的で、すごくいい作品だと思います。つねにありがちな、平和の意味を若い人に知らせるといったお決まり主義ではなくて。広島が負ってきた悲劇と平和への希求を、人類の課題として広島の人たちは国内外に真摯にずっと訴えつづけてきたわけです。にもかかわらず戦後、核兵器が世界中にはびこるという、どうしようもない現状へと進展して、彼らの声がなかなか伝わっていかない結果になっている。今でも被曝に苦しむ人々の痛みをかかえ、敗戦の象徴となり、ある意味で何重にも閉鎖的な環境があるわけです。
広島現美は創設時から、アートを通して平和を訴え、そうした空気にささやかでも突破口を開きたいという理念があり、新しいことをやろうと考えてきた。私自身、何度か審査員をさせていただいたひろしま賞作家の個展開催や他館とは異なるコレクションの方針など、重要な活動を続けてきたことを実感していますが、もともと公立ですし、市民全員を対象とするべき難しい立場にたっている。
Chim↑Pomの作品は、被爆者の人を含めた広島の人たちに、そうした空気感を「もう、そうじゃない方向で閉塞感を破っていいんだよ」というメッセージを差し出したかったような気がしました。広島の人たちは人類の悲劇を背負い、人間が犯した愚弄に今でも苛まれ、ある部分で、自分たち自身がそうした重みに捉われてしまって、なかなか解放されえないでいるように感じられます。これまで実際にさまざまな機会に現地におもむいた時の空気でそう感じることがあったのです。空に飛行機で雲を残す『ピカッ』は、まさに原爆体験というへその緒に立ちつつ、シミュレーションという軽さをもって、いわばその深く傷跡となったタブーをあっけらかんと飛行機雲にたくして、まさに瞬時に消してみせたメッセージのような気がしました。普通、広島を題材にすると平和とそのすべての被曝の歴史を背負うかたちにならざるを得ないし、そこからしか始まらない。なので、すぐに被爆者の人が怒っているといった従来の問題へと収束してしまったので、表現の本来の要素への言及なども言いにくくなったしまったということはなかったんですか?
卯城 うーん。最初にメンバーの林が『ヒロシマの空をピカッとさせる』をやろうと言って、皆で飲みながら話していた時に「おっ、いいね」って言った時の感じは、ただピカッという言葉の感じでだったんだけど、それもそこまでいろいろ考えて整理されているわけじゃなくて、ピカッと強烈なもの―なんですね。だから、ひょっとしたら、うまくいけばいろんな人がいろんな事を自分の立場や経験に沿って考えていってくれるようなものになると思った。この問題に関しては、漠然としていて、別に自分がどういう風なことをメッセージで言いたかったのっていう具体的な事は、最初からなかったです。
広島の事をよく知っている人たちは何かを受け取るだろうし、そうじゃなくて、東京で育っているような僕らくらいの人たちが見たら別の事をうけるだろうし、また、外国人が、映像の前で「ピカッ」っていう言葉をボーッと見てたとしても、何か重要な「クエスチョン」を受けとるだろうし。メッセージというか、皆が皆の問題として直視するんじゃないか、知らない顔はできないだろう、それくらいのところに留めておいていいのかなと。そうしたら後はその人たちがそこからいろんなことを読み取って、考えていろんな事をやっていけばいい。僕らの作品であると同時に、グループでやっている時点ですでに社会性があるから、個人の妄想で作ってるんじゃないんですよね。できたものも基本的には、皆のものであってほしい。あまり自分達で整理して、物事を考えたり、答えを出しちゃったりはしないんです。まあ、直感か。さっき言った「あっち」、そういう感じが間違っていると思ったり、違うと思ったらやらないけど、基本的に「あっち」か「こっち」で、いい方向がいいに決まっているから。
岡部 エリイさんは何で参加しなかったのですか?
卯城 寒かったから。(笑) やんないって別に決めていたわけでもなかったし。
エリイ 去年6月くらいからあまり仕事しなかったよね。外国に行く仕事だけしてたけど。何となくかな、私いろいろ忙しいので。
卯城 それで最近、突然「私仕事ガッツリやるわ」って言ったよね。
エリイ 1か月前に決めた。
学生 広島の問題の時に、カリスマ被爆者が現れたり、次にまた被爆者の方が見にこられたらどうしようとおっしゃっていましたが、見に来てほしい対象はあるんですか?
卯城 まあ、しぼってないですけどね。
学生 嫌っている方も見に来るんですか?
卯城 うん、見に来ますし、どういう人が来てくれてもいいと思ってます。基本的に平和に熱心な若者たちだと思われて「捨てちん」展を見に来られて、(笑)期待を裏切っちゃうのは嫌だなと思ってるけど。でも別に期待をかけられたからって期待通りの事をやってもしょうがないし。
学生 ゴミ問題に関わるネズミからカラスへとつなげていったと思うんですけど、社会問題をつなぎながら、水野さんがネズミとカラスと共同生活するという表現へと発展したその仕方は、Chim↑Pomだからなのか、水野さんが学んだことがベースになっているのか...
卯城 要は出会いだから。ゴミの山と出会ったりしたら、圧倒されるんですよ。すごいゴミで驚異的な広さですから。行った時にはその感動があって、「すげえな、何かしたい」ってなる。ネズミがいっぱいいるのも知っているし、カラスもいるなーと思っていたし、別に社会問題としてとらえているというより、もともとグループだったから、誰かが面白いことやってそれをビデオに撮って納めるのが、一番やりやすい方法だった。
エリイ でもさ、社会問題好きだよね。(笑)
卯城 うん、まあ、好き。ともやっぱり言いづらいかも。社会問題扱っている作家と話をすると、彼らはメッセージを伝えようするけれど、僕らは何か違う。社会派ってよりは、ともかく触れたい、出会いたい、見ているネズミに近付いてみたい。
岡部 社会問題とか社会的な何かをやる人って言うのは割と最初からメッセージがあって、それに対する行動として作品を提出することが多いですが、Chim↑Pomの場合、選ぶフィールドにはそうした社会問題があるけれど、自分たちの考えを伝えるよりは、それによって、一般の人が別の角度から考えるきっかけになるといいいなというところが大きいのかしらね。
学生 そういう社会性のある作品もありつつ、エリイさんの『Happy Everyday』と、毎日をハッピーに過ごしたい、そういうバランスがすごくいいなと思います。
エリイ 「身の回りに起こった出来事や感じていることは、きっと皆も思っているはず」という意識でやっていて、日常をバランスにしているから。
岡部 『Happy Everyday』も、今の不況と金融危機の中で、失業や派遣が増え、貧しくどんどん「ハッピーじゃない」と感じる人が多くなってきている事実を考えれば、皆に「ハッピーになってほしい」という社会的な作品とも理解できますけれどもね。
学生 『スーパー☆ラット』を雑誌で見た時に、「ネズミを...?」というショックがあって、過激な事をしているイメージがあったんですよ。でも、今日お話を聞いていると過激というよりは素朴というか...。
卯城 そう、純朴!(笑)
エリイ 6人全員が素朴だよね。
卯城 もっと派手に生まれりゃよかった。エリイちゃん、うらやましいですよ。(笑)
学生 そういう考え方って皆あるのに、普通はよく忘れていたり大きいものにいっちゃったりしますよね。メッセージは目に見えないから分かんないけど、気になるものを疑っていたらそれがメッセージになるみたいに、後からついてくるから面白くて、今日とらえ方がすいぶん変わりました。
卯城 エリイちゃんが地雷撤去って言った時も、社会問題性は微塵も感じなくて。(笑)「え?セレブで地雷撤去、カンボジア!」みたいに、好奇心と行動力が先にたつ。それと、一応作品を作る時に落とし込むポイントとしては、「ただ遊んできました」ではなく、シリアスな事も入れたくなっちゃう。
岡部 ピカチュウの『スーパー☆ラット』だって、一種の人種問題ではないですか? ドブネズミは通常黒い毛しているけれど、ピカチュウにするためには、まず白ハツカネズミに脱色してから色をつけたわけでしょ。
卯城 そうです。ブリーチして。
岡部 しかも黒くて大きいクマネズミは皆に嫌われている。ピカチュウはすでに黄色に毛染めされているので、皆、毛色が変わってきたことに気を留めなかったと思うけれど。
学生 私も作品を見せていただくのは初めてだったんですけど、『スーパー☆ラット』が始まって、エリイさんの「キャー!」という声が聞えてきて、これはすごくいいなと思った。グロいようなきわどい映像だったりするけど、最後どこかがポップに出てくる。軽く見せているけど心に引っかかる。それがChim↑Pomを表している気がした。最終的にはきれいな形で明るい。カラフルな、ピンクっぽい感じで、音も臨場感もありイキイキしている。それは映像の力だと思いました。
『スーパー☆ラット』の渋谷のジオラマもそうですけど、作品を作る時に、心がけていることはありますか?
卯城 それはありますね。「皆に伝えたい」。
エリイ あたしがavex好きだからだと思う。
学生 エリイさんの明るさが、作品に必ず出ている。
卯城 「グロい」作品をつくる人は好きでやっているじゃないですか。フェチというか。そういうのは全くない。キャーキャーいっているのもネズミ嫌いなのは当たり前だし。じつは俺たち別に触りたくてやっているわけじゃなくて、基本的に皆と一緒なんですよ。グロい作品をつくる人たちは、皆と違うものが好きでしょ。思考するからそうなるのかもしれないけど、ほとんどの人が持っている価値観は「ネズミ怖いよね」、「気持ち悪い」で一緒だから。でも、捕まえて観察してみるとかわいいところがあると感じることもある。グロくならないのは基本的に皆と一緒だからだと思います。そして、作る時の落とし込み方は、技術がない分いいものを作りたくなる。逆に絵が上手い人はササーッと描いたりするじゃないですか。あれが信じられない。描けるなら描けばいいのにと思ってしまう。
学生 私も今日、初めて映像作品をみたのですが、美術手帖を読んだ時には私も「悪ふざけアート」と思った。でも今日お話しをうかがって、それじゃ片づけられない活動だと思いました。
卯城 難しいよね。実際ふざけてないかと言ったらふざけているところは大いにあるし。だけど至って大真面目にやっている。
岡部 人間が何かをやる時に、本当に一つの事だけでやるのか、否かという問題ですよね。例えば作品を買うコレクターにしても、「なぜこんな作品を買うのか」と問うなら、いろんな返答と意味が発生する。「きれい」 ということにしても、本当にそれだけなのかというと、違う意味もあるでしょう。そういう点では、「ふざけている」というよりは、表現のスタイルという面もあるかもしれない。真剣なところから発しているけど、あまりそれだけでやってしまうと実際には...。
卯城 そう、つまんない。
岡部 真剣だけだと受け入れてもらえる人が狭くなるという意味で、それをわかっていて、スタイルとしてのふざけもあるかもしれない。
卯城 あと、基本的にはふざけているというよりは、ジョークって感じかも。ギャグセンスの高いのがいい作品だったりする。ギャラリー入ったらでっかい穴が掘ってあるとか、一晩中騒ぐだけとか。アートって言っているけど、ジョークで済ませる。それを真剣にやっちゃうところはあるかもしれないですけど。
岡部 一点、一点の作品では異なる感じをもったり誤解することがあっても、複数の作品を見ると、そこに通底する作者の気持が、自然と分ってくる。だから、今回はChim↑Pomの活動に関する3時間の大レクチャー・インタヴューでたいへんだったでしょうが、私たちにとってはとてもいい機会で、資料もまとめて見せていただけたので、彼らの世界に対する考え方やアティテュード、態度が分ったのではないかと思います。展覧会でも一つのテーマや作品を提示するだけなので、こういう機会はなかなかないわけだけれど、だからといって、誤解されてもいいんでしょう?
卯城 ええ、誤解されてもいいし、深読みしていただいてもいい。
岡部 基本的にリスキーですよね。誤解や深読みをされたくない場合は、そうじゃない作品を作ります。でも、勇敢に、されてもいいという覚悟でやっているわけだから。
学生 逆に、最終的にすがすがしさを感じる。
学生 すがすがしさを私も感じていたんです。動物シリーズが私は好きなんですが、ネズミもカラスも世の中に憚っている憎まれっ子じゃないですか。動物保護の話とか、田舎の観光パンフレットとで、たくさん触れ合えると宣伝されている動物って、大体かわいいんです。リスとか、きれいな鳥だったり。生命力が弱くて守ってあげなくちゃと思わせるはかないものが多い。でも私は東京にも実は動物たくさんいて、でも憎まれっ子だから愛されないって思っていたので、そういう意味ではカラスもピカチュウも胸がスカッとしました。かわいいから保護する。かわいくないから駆除する。そういう垣根をドーンって越えてしまったすがすがしさを感じました。二点目が、エリイさんを見ているとだんだん幸せになる。
卯城 これ不思議ですよね。
岡部 根本的にオプティミストですか?楽観主義でも、かなりナイーヴな時もあるんでしょう?芯が強いのかな?
卯城 どうなんでしょう。あるがままです。
学生 アイドルには興味ないのですが、ファンの様になりますね。エリイさんがヘリコプターで自分を撮っているのを見て、「あ、いいなあ」と思った。色々な想像が頭の中にめぐったんですけど、ポップアートの中での「大量に消費されるヒロイン」、マリリン・モンローみたいな。
岡部 そういうの意識してます?
卯城 エリイちゃんは、意識してない。
学生 意識していないんだろうなと思いつつ、それが頭に浮かんだんですね。でも、マリリン自身だって、時代がそうしたのもあると思うんです。別に本人が「あたしがシンボルよ」みたいな感じで意識してやったわけではないと思う。そういう純粋さとか、あとはエリイさんに嫌われちゃうかもしれないんですけど、ピエール瀧的な。
学生 ピエール瀧のような、いるだけでいいような、いるだけにみえて全然そうじゃなく、実は、人をいい意味で混乱させる。平凡な普通の女の子のようでもあり、特別なようでもあり、すごく心をゆさぶられました。
エリイ ありがとうございます。ピエール瀧と倉本ミツルさんと私と3人で、6月11日のMXテレビの「ほぼ1」に出ます。
学生 今話がありましたが、エリイさんが皆のヒロインみたいな感じで、それが魅力だと思いました。さきほど作品を見せていただいた中で、『イケてる人達みたい』がすごく頭の中に残っていて、音楽がずっと頭から離れないんです。あと『エロキテル』が、すがすがしかった。そして、NADiffで展示されている「日本のアートは10年おくれている」に行ったんです。地下をみた時には、よく分らなくて、モヤモヤして「あれは何だったんだろう」というのがずっとあった。広島でピカッとさせていたり、Chim↑Pomグループは何をしたいのか? と。でも、今日映像で「蛍を飛ばしていた」ところを見て、最後にきれいさがきいている感じがいいなあと思いました。
卯城 ナディッフではただの箱の時からコンクリートに落書き始めたり、皆で水遊びはじめたり、いろんな事をして最後に蛍に行くまで、すごく一杯写真撮っていたんです。いつか写真集にして出したいと思ったんだけど、今お金がなくて。全部通して見るといいプロジェクトに見えちゃう。
岡部 いい写真撮っているから、本にできないのはもったいないですね。昔、戦争中、防空壕で真っ暗な中にいて、その時に蛍が飛んできて、その光に救われた話とかのイメージも浮かびますね。当時も、ある意味では今も、どこかにいつでも泥沼の状況があって、蛍の訪れでふと人間的な気持ちが戻る、そんなことも感じさせます。
学生 先ほど、6人で会議をして、提案によっては「これ1人でやりなよ」となったり、「これChim↑Pomぽいから6人でやろう」となるとお聞きしましたが、「Chim↑Pomっぽい」のはどういうところなんですか?
卯城 別にボーダーラインがあるわけでもないんだけど、「これ今までと全然違うけどやってみようか」ってこともあるし「エリイちゃんが言うならやるか」とか、かなりあやふやです。
岡部 それぞれが違う特質を担っているわけですよね。水野さんはパフォーマー、みたいな。各人が違うと、どういうところで一致するのかと、皆不思議に思うかもしれないですね。
卯城 いや、水野君はキャンバスみたいなもんですね。彼には、基本的に後で報告したりします。なんであんなに受け入れるんだろうって思うくらい、何でもやってくれるし。でもみんな色々ありますね。岡田ってのはエリイちゃんと並ぶ天才ですし。林はセンスが良い。稲岡くんは天然だし。
岡部 意見が対立するメンバーはいないんですか?
卯城 あります。一触即発みたいな時は水野君がいい役割してくれる。
学生 すごく個人的な感情ですけど、ネズミを109においたり、セレブとか、エリイさんがavexを好きとか、私の個人的なコンプレックスもあるんですけど、アートの世界でそういう趣味ってマイノリティー的な扱いをされていると感じています。私、中高生と話して美術教育を研究しているんですけど、中高生にとっての109とかアムロちゃんとか、そういう風に出てくるものを美術の世界に持っていくと、どうしてもマイノリティーというか、趣味ワル!とか言われちゃうことが多い。でも逆に堂々と言われていたので好感もちました。
エリイ 美術の世界にアムロちゃんを持ってくるとマイノリティーなの?
学生 そういうイメージがすごくあります。私はアムロちゃんが好きで、浜崎あゆみをきいて育っていたのに、そういう事を言うとあんまり...。
エリイ 私がムサビ(武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に在学)の頃、皆毎日超globeとか聴いてたよ。
卯城 マイノリティーですね。
学生 私がマイノリティーと思っちゃっていたのかもしれないんですけど。美大ではスピッツとか好きじゃなきゃだめみたいなイメージがあったので。
卯城 基本的にみな美術は好きですけど、美術とかの枠組みが好きでやっているわけではなくて、エリイちゃんの趣味も、話を聞いていたら多岐にわたっている。だから美術しかやりたくないようなやつは...。稲岡君という、一人だけ美大を落ちちゃって、ずっと絵を描いていたやつがいるけど、一番美術好きじゃないんじゃないかな。7月には山本現代というギャラリーで稲岡君が即身仏のメイキングを見せる展覧会があります。
学生 Chim↑Pomの作品は『スーパー☆ラット』をナマで見たことがあるんですけど、それ以外は雑誌で見ただけだったので、とても面白かったです。まず感想になるんですけど、『スーパー☆ラット』だと作品のために楽しんでネズミを捕獲して、捕まえてきて殺してしまっている一方で、『友情か友喰いか友倒れか』では人間の勝手で殺されていく動物に愛着を持って、最終的にその動物に感情移入して泣いたりして、善と幼い残酷性を持っている悪の境界線を行ったり来たりしているような感覚をおぼえました。過去の個展を見せていただいても人間の嫌な部分、つまりカンボジアに行って地雷とかゴミ山とか樹海の自殺とか結構ディープだと思った。でも、子どもが素直な心で表現した時のような、素朴さとか享楽的なところで表現しているから、最終的にすべてがすがすがしく評価されていくような感じがありました。グループで活動されている分だけ、印刷物をカラープリントするときに4色まぜて刷る感じで、一つの色の中で6人分の色が入っている。一つの作品を見ているんですけど、その中で6人それぞれ面白い。個性が見えてきて、それが面白かったなと。
岡部 初期に水野君の部屋に花火を打ち込む作品は、今でも火を使う作品に通じていますし、それをきちんと文字にしたりする作品もあり、世代は違うけれど、ストリートから出てきたグラフィティと立ち位置が近いですね。広島の『ピカッ』も結局、空へのグラフィティですし。
卯城 そうです。
学生 エリイさんに質問なんですけれども、視デ(視覚伝達デザイン学科)の3年生の時にChim↑Pomを組んで、課題でそれを提出したと先程話しておられましたが、なぜそんなに怒られたんですか?
エリイ 「何を思ったのかね?」みたいな。「西海岸ですかね」と答えたら、「どこが?」「行ったことないからわかんないです」みたいになって、「まったくもう死んでしまえ」って言われたり。
学生 僕は、正直言ってしまうと嫌いです。Chim↑Pom。
エリイ 残念だわ。
学生 私は最初にネットで「ピカッ」をみたんです。そして、今回ネットやブログで、もちろん賛成の人もいるんですけどアンチの人もいますよね。で、アンチの人の文を見ると大概『スーパー☆ラット』が動物虐待であるとか、『ピカッ』が被爆者の人に対して...とか言っているけど、それこそ私たちだってネズミ捕りをしかけたりゴキブリが出たら殺虫剤をまいたりしているし、『ピカッ』だって『はだしのゲン』とかもあるのに、あの騒ぎが分らない。
岡部 あのブログの炎上も、今回のインフルエンザも、皆が異常に過度になって、最初にインフルエンザに罹った人に対するものすごい中傷、「死ね」とか「殺すぞ」みたいな反応に似てますよね。何んでも言っていいとみなせる弱い対象ができると、ワーッと自分のストレスを発散させる。そうしたシステムが、ストレス社会なので日本には体質的にあると思うんですよ。しかも表現の自由を担っている人に対して、やっかみもあるかもしれないし、うらやましさやジェラシーが底辺にあるのかもしれない。好きなことだけやってる人たちへの、理解できない現代アートに対するある種のストレスもあるのかもしれませんね。
今日は長時間、どうもありがとうございました。
(文字起こし 大学院1年 梅村祐子、内山結美子、瀬古春佳、ソ・ムンジン)