国語教科書を通した芸術文化の推進 2010年 神野智彦(21歳)
具体的には初等・中等教育の「国語教科書における文化記事の増加」の提案です。
教育基本法の改正で、公教育において伝統や文化の尊重について教育することが重要である、という姿勢が打ち出されました。しかしながら、現行の国語教科書を見ると、井原千秋著『国語教科書の中の「日本」』の中でも指摘されているとおり、
「古き良き日本」のイメージばかりが国語教科書の中では描かれています。
文部科学省の答申にあるとおり、これからの社会は「知識基盤社会」となっていきます。そのような状況では、伝統を「伝統的というイメージ」や「隠れた教育」として伝えていくのではなく、言語化、明文化して、自分たちが「使える」ものとしていくことが、伝統の中から新たな価値を生み出し、また、捨て去ってはいけないものを守っていくことにつながっていくものと考えます。
教育の中にある種の価値観が入り込むことは避けられませんが、その質については考えていくことができるのではないでしょうか。今後グローバル化が進むなかで、だからこそ私たちが自分たちの歴史や文化を参照することの重要性は増していくはずです。
重要な要素として考えられるのは、
・室町文化や江戸文化などの伝統文化
・日本が現在の輪郭を持つ以前に、アジアに位置する島国として、どのように多様な文化を育んできていたのか
・アイヌ・琉球の文化について
・岡倉天心『茶の本』や高村光雲『緑色の太陽』など明治期のすぐれた文章
・現代美術やデザインが私たちの生活のなかでどのように機能しているのかを想起できる文章
(たとえば現代美術についてはギャラリストの小山登美夫、アーティストで理論家でもある岡崎乾二郎、デザインについてはデザイナーの原研哉、編集者で日本文化研究者の松岡正剛などが、社会におけるアートやデザインについて語る言葉を持っているでしょう)
上記の提案の理由と実際に採択していただけたときの成果としてですが、まず伝統文化は「伝統的なイメージ」の源流となっている、室町期以降の日本文化や、日本文化が大きく変動する以前の江戸期の文化について知ることが、今なお現代の日本の文化的文脈をたどる上でもっとも重要だと考えるためです。また「日本」という枠組みが形成される以前の東アジア地域の文化を知ることや、「日本」の中の多様性を知るという点から、同時に今後のアジアの国々の興隆の時代に自らの文化的位置づけを行う意味でも、アジアという視点の導入が不可欠でしょう。そして明治期に「日本」という枠組みが形成されていく中で、近代における自分たちの文化を再定義していく言葉には、現代でも立ち返るべきものが多くあります。これらの提案の中心課題は、現在の文化の中で何が伝統になりうるのか?ですが、その問題を常に考えていくべきではないでしょうか。上記すべてを学ぶことは難しいでしょうが、初等、中等教育の12年間の中で、少しでも私たちの文化を考えるきっかけを与えるようなテキストに触れることが、今後の日本の芸術文化の推進のための種になっていくのではないかと考えます