アーティストの制作と生活支援 2010年 中馬彩 (21歳)
アーティストの保障されるべき生活の在り方、その為の取り組みの提案
1.助成金の前払い制度
現在、日本ではアーティスト、或いは芸術家団体が作品を制作したり、展覧会で発表するにあたり、さまざまな助成金の支援が文化庁、国際交流基金、芸術文化振興基金、諸文化財団、企業メセナなどで行われている。しかし問題は、支援金が制作や発表後にしか支給されないことである。そのために助成金を獲得しても入金が遅れるので、制作に励みたくともその制作費の捻出に苦しむ若手アーティストが多くいる。こうした現状を改善するための提案として、作品を発表する展覧会(公的な美術館/個人で行うギャラリーでの発表問わず)に対する具体的な制作への取り組み、公募展に出す作品の概要説明などを明文化し、各支援組織へ申請することで助成金を制作に取り組む前の段階で支給するように文化庁が要請し、その施策を推進し制度化する。この前払い支援政策の採用には、必要とされる書類として「第三者からの推薦状」の提出を必須とする。企画書・推薦書・これまでの経歴を加味しつつ、そのアーティストに対し助成金を支払うべきと判断した場合には助成金を与える。又、その作品の発表後の報告書のフォーマットを制作し、データベース化した助成金の管理体制を整える。
2.美術館によるアーティストの滞在制作支援
アーティストの生活費のみを支援する制度の確立は、現状の日本の文化政策に対する取り組みや予算の中で絞り出すのは非常に困難といえる。ただ、2009年三月に横浜美術館にて行われた「金氏徹平」展の様に、公的な美術館において行われる新鋭アーティストの展示にあたり、アーティストの希望に沿って本人が美術館の近くに滞在し、展示の為の制作を美術館に行き来しながら制作を行う体制(滞在費用と制作費の負担)の半額を国が助成しつつ、展示する美術館が半額を支払って行う義務として制度化する。この制度によって、海外からもアーティストを招聘しやすくなり、新作を生み出す環境を整える。又、一定期間アーティストがその地域に滞在することで地域コミュニティーとの関わりを持つことを作家側の義務とする。具体的には、制作の現場を公開し、自己表出の現場を鑑賞してもらうことで、人々の芸術の享受能力の促進を行う等の取り組みの実施(公開制作)や、アーティスト本人を交えたギャラリートークを実施し、来場者に対し作品への理解を更に促す活動への取り組み。この試みは「地域に根差した美術館」の実現にも寄与すると考えられる。
3.AIRの活動内容の見直しとアーカイブ化による活動の認知・普及
アーティスト・イン・レジデンス(以下、AIRと記述)の活動は、「あくまでもアーティストに構想や研究に没頭する時間を与えることを主眼とし、異なる環境や文化のなかで過ごす」ことを念頭においた活動を展開しており、その中で彼らの活動を切り開く新たな展開を生み出すきっかけをつくることを目的に据えている。今後のAIRの取り組みとして重要視していくべき点として、制作環境の提供のみに留まらず「自分たちの手で生きること」への戦略考案も挙げられるのではないか。舞踏家の田中泯の様に、自らの表現を行う為には自らの手で自給自足に近しい生活を送らねばならないという現実に直面し、その自らの体験と併合したパフォーマンスを行う作家も存在する。作家がどこまで制作と並行して自分たちの手で生活しうるのか、その為にどの様な制度・支援が必要とされるのか、いかなる生活の在り方が自己表出にあたって理想の姿といえるのか等、自らの生き方を考えるシンポジウムや議論の場を設ける。又、AIRの活動をアーカイブ化することを義務化し、一定の期間内でどの様な成果が見られるのかを、俯瞰して知ることのできる形にして社会に発信する