イントロダクション
醤油の香りが漂う町。もろみ蔵で醤油をテイスティングした。濃くのあるまろみと香ばしさに包まれる。複雑で深く、神秘的な闇に、沈黙の美が宿っている。どれにしようか迷って、重いけれど1本買った。家庭料理は醤油や塩や味噌の味でほぼ決まる。だが、大切に使えば長持ちするし、上等の醤油でもワインのような値段をつけられるわけではないから、確かに産業的には成立しにくい。
使われなくなった醤油蔵が、今、大野町を刷新している。偶然出会った「現代アート」と、日本の元祖香辛料の伝統が交わって、格別な「テイスト」が誕生しつつある。大豆の発酵の錬金術に、アートは似ている。小沢剛の醤油館を思いだしてもいい。胸にしみる美味を知るためにも、じわじわと根づくアートの生態を見るためにも、大野町を訪れてみよう。こんなふうに日本を発見できるのは、極上の幸せなのだから。
(岡部あおみ)