Cultre Power
studio & residence ア−カススタジオ/ARCUS Studio

アーカススタジオ
©Aomi Okabe









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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

 東京駅から高速パスで1時間、じきに秋葉原から30分で行かれることになる茨城県・守谷市。過疎とは逆に、都心に近いベッドタウンとして人口が増加している。とはいえ、アーカススタジオ(もりや学びの里)は田畑が広がるのんびりとした情景のただなかにある。子供が増えて小さくなった小学校が廃校になり、アーカスは唱歌が聞こえてきそうな昔日の思い出をかきたてる旧校舎を拠点として誕生した。
 パイロット事業に5年間かけ、構想を練りながら、若年層が増加する地域の未来像のなかに、アートとアーティストが描き出された。アーティスト・イン・レジデンスとは、国内外の作家が一定期間滞在して、そこで制作活動をする施設や組織のことを意味する。各国からやってくる作家たちが、ディスカッションの場をもち、地域の人々などと交流しながら、孤独な生活の殻を破って異文化とふれあい、日ごろとは異なる生活環境の刺激とインスピレーションを得て、新たな制作へと向かうプロセスをサポートする。10年先にその作家がひとまわりもふたまわりも大きく飛躍してゆく、辛美沙さんの言葉を借りれば、「スプリングボード」を用意する場所だ。
 2003年4月に武蔵野美術大学出版局から刊行した『アートマネージメント』第三章「地域とアート アートという突破口」の4.「芸術支援 アーティスト・イン・レジデンス」のなかで、アーカス、秋吉台国際芸術村、国際芸術センター青森、神山アーティスト・イン・レジデンスなどを紹介した。欧米ではすでに、280のアトリエを有するパリのシテ・デ・ザール、ベルリンの芸術の家ベタニエン、アムステルダムのライクスアカデミー、カナダのバンフ、米国の財団ACCなどが、日本からの作家の受け入れをはじめ、独自の運営方針のもとで芸術支援の輝かしい業績をあげている。さらに自国の作家を育て海外で活躍してもらうことに積極的な国々、フランス、オーストラリア、オーストリアなどは、日本にもレジデンスを保有して作家を送り出している。
 わが国ではまだまだ関心が薄かったアーティスト・イン・レジデンスというインフラをなんとか根づかせるべく、文化庁が1998年文化振興マスタープランを策定した。地域への二分の一事業助成をはじめ、各地でさまざまな試みが開始したが、5カ年計画が終結したあとの継続の問題が浮上している。とはいえ、もともとこの事業に東京都心のレジデンスは含まれていない。現在の課題は、海外の作家たちがぜひ一度来てみたい、滞在したいと憧れる東京に、いかに魅力的なレジデンスを創出できるか、そしてさらに、日本の作家に豊かな海外体験をオファーできる、よりフレキシブルな海外のレジデンス・システムを考案できるかどうかにかかっている。
 アーカスはささやかながらも世界に広がる貴重な創作の泉になっている。辛さんが2003年から森美術館にスカウトされた後、国際交流基金アジアセンターで仕事をなさってきた帆足亜紀さんが後任ディレクターになった。
かつてアーカススタジオに参加した経験のある作家の話を聞いてみた。大規模なレジデンスでの官僚制とはまったく異なる心温まる「ケア」が、もりや学びの里にはあると言った。立派な「ハコ」があっても、中身のないレジデンスは増えてほしくない。アートは中身で勝負する。

  (岡部あおみ)