イントロダクション
1995年に開館した豊田市美術館は、設立してからまだ9年目の比較的若いミュージアムだが、コレクションの質と卓越した企画展のかずかずで、抜きん出た位置に立っている。
「劉生と御舟」、「トニー・クラッグ」、「川俣正 ワーク・イン・プログレス」(1999年から連続)、「ジョルジュ・アデアグボ アフリカと日本の出会い」、「黒田辰秋」、「タブル・リバー島への旅/曽根裕」展など、工芸/デザイン・日本美術・近現代美術の多元的で秀逸な展覧会を開催してきた。とくにジェニーホルツァーやジョゼフ・コスースらのコミッション・ワークによる現代美術の常設展示で知られている。
ダニエル・ビュレン、ソフィ・カルなど、フランスの作家の個展も行われ、訪れるたびに展覧会の内容だけではなく、サイトスペシフィックな展示のすばらしさにうなった。
実力派の学芸員を誇る美術館だが、なかでも準備室時代からかかわっている青木正弘氏(学芸担当専門監)は、凄腕のコレクション・メーカーとして有名だ。日本の一地方都市で、これだけの内容を備えたミュージアムの誕生を担ったキーパーソン。その出会いも興奮に満ちたものだった。
豊田市美の設計に当たった谷口吉生氏は、ニューヨークのMOMA新館も担当し、四国の丸亀では猪熊弦一郎美術館も手がけている。世界を見渡しても、猪熊弦一郎美術館ほど作家と建築家のコラボレーションが美しく結晶した心温まる美術館はない。一方、豊田市美術館は、学芸員と建築家のせめぎあいが大いなる緊張を生み出したシャープな空間といえる。
それにしても、現役の学芸担当専門監から、ここまで踏み込んだお話を聞けるとは思わなかった。つねにリスクに賭けることをいとわずに歩んできた果敢な人だからなのだろう。青木氏はコレクションする際、作品の真価の判断を、直感という言葉で表す。だが、研ぎ澄まされた洞察力で、億単位の資金を動かし、人を動かす勇気と行動力をもちえる人は少ない。
インタヴューはしかも、学芸員をめざす人たちに対するすばらしい名言・警句に富んでいる。
「作品は時代と地域を越えて、もっと交差し合ってもいい」
「市民に最大公約数的に満遍なく、享受してもらう、皆に喜んでもらうのが行政の本分。ところが、美術の本質はそういうものじゃない」
「子どもに媚びるような美術館教育が随分多い。美術館は大人の場、子どもの遊び場ではない」
「美術館はお金があっても出来るわけではない」
「美術館どうしの連帯以上に大事なのは、各館で自覚的に活動すること」
抵抗のキュレーターの名言と警句を十分に味わってほしい。
どんな領域においても、全身全霊でリスクに賭けられるということは、真の意味で、プロであることを意味する。
(岡部あおみ)