イントロダクション
NagiMOCAは町立のなかでもひときわ群を抜く「第3世代美術館」。荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子の3組の現代作家の作品を、建築家の磯崎新とのコラボレーションで本館の常設展示にした個性的な美術館である。
岡崎和郎の展示室は「月」。その『補遺の庭』と『補遺するもの』は、金色の官能的な庇とカーヴした石のベンチがあるだけのミニマルな空間だ。三日月型の室内で、手を叩いたり足を踏み鳴らすと、その音響効果に耳を疑う。荒川+ギンズの展示室は「太陽」。龍安寺の石庭を円筒形のシリンダーに納めたビックリハウスのようなインスタレーションで、この『偏在の場・奈義の龍安寺・建築的身体』が完成した翌年、岐阜の養老町の公園に、意表をつく大傑作『養老天命反転地』(1996)が出現した。岡崎、荒川たちのコンセプチュアルな空間をつなぐのが、宮脇の「大地」。水面と黒じゃりに揺らぐ『うつろい』の対比が清清しい。
町の住民は、普通の展覧会を開ける「ハコモノ」美術館を欲していて、その欲求と、常設中心の「第3世代美術館」の有り様に、軋轢があった。だが小型ながらここの市民ギャラリーの展示室は大変美しく、磯崎氏の配慮が伺える。岸本氏など、学芸員が精魂を込めた企画展を積み重ねた努力もあって、町民との溝は緩和されてきているようだ。今後、もし可能であれば、展覧会が開催できる企画展示室を増設するか、市民ギャラリーを拡張する方針を立てたらどうだろう。
(岡部あおみ)