イントロダクション
霧島アートの森ほど、アクセスの悪い場所はない。鹿児島空港から数時間に1本しかない路線バスに乗れる人は相当にラッキーだ。はじめて訪れるミュージアムの場合、公共アクセスを体験するために、できるかぎり現地のバスなどを利用してみる私もギブアップ。往復タクシーを使った。ほとんどの来館者がマイカー族なので仕方がないが、飛行機族泣かせのミュージアムである。
はるばる訪れてみると、見渡すかぎり広大な霧島国立公園の自然が心にしみる。さわやかな高原の風に洗われて、メキメキ元気になってくるから不思議だ。その自然の醍醐味に抱かれて、アートが点在している。ランドスケープとアートが完璧なまでに調和し、互いが独立しつつその輝きを放つ。設置する際に、実物大の模型をクレーンで吊って位置を何度も厳密に調整したという努力のせいだろう。
野外彫刻のなかでは、入り口に置かれて、最初に出会う草間彌生の『シャングリラの華』がすばらしい。ダニ・カラヴァンの『ベレシート(初めに)』、チェ・ジョンファの『あなたこそアート』、若林奮の『4個の鉄に囲まれた優雅な樹々』なども、各作家の傑作といえるものではないだろうか。2004年にはフィンランドのカサグランデ&リンターラが真っ白な壁面で音を収集する『森の観測所』の新作を披露した。
室内作品も充実している。青木野枝、アー・シャン、奥傳三郎、チェン・ゼン、トニー・クラッグ、長沢英俊、ナムジュン・パイク、村上隆、ラヴィンダル・G.レッディなど、西洋に偏らないラインナップがすてきだ。
岡本太郎、草間彌生、中川幸夫、河口洋一郎、荒木経惟の企画展も力がこもっていて、図録の内容もじつに濃い。
美術館の冬の時代にもかかわらず、開館以来、この不便なオープン・エア・ミュージアムに予想以上の来場者があるのは、自然とアートの豊かな対話が、心を刷新してくれるからなのだろう。ここにはゆったりとしたスペースのゆとり、自然のリズム、多彩なアートの楽しさと、なんでもある。どんなにアクセスが悪かろうと、ついみんなに薦めてしまう魅力的なミュージアムなのである。
(岡部あおみ)