イントロダクション
神奈川県立近代美術館は私の大好きな美術館である。
所蔵されている作品、鎌倉という歴史ある街にあるというだけではない。鎌倉館(本館)、鎌倉別館、葉山館と三つの建物で構成されているのも日本の美術館の中ではとても珍しい。鎌倉館の設計は坂倉準三で美術館建築としても高い評価を得ており、旧有栖川宮別邸と旧高松宮別邸の跡地に建てられた葉山館は、珍しく海の見える絶景の美術館でもある。
斉藤純の小説『暁のキックスタート』という小説の中に神奈川県立近代美術館が登場する。その小説の主人公は、ニコラ・ド・スタールの展示を見るのだが、そのイメージが鎌倉の冬のイメージとよく重なる。
神奈川県立近代美術館は戦後から日本の近代美術をリードし続け、多くのメッセージを発信してきた。そしてその中で水沢勉氏の培ってきた功績はとても大きい。横浜トリエンナーレ2008の総合ディレクターを務めたのもその一つであろう。これまでのトリエンナーレとは違い多くの海外出身のキュレーターをまとめあげ、成功に導いた。芸術への感性をはじめ、日本人には足りないと言われているマネージメントの力もすばらしいと思う。水沢勉氏もまた、神奈川県立近代美術館のように様々な方法で芸術をとらえ発信する。水沢氏のこれからの活動が日本の美術館や芸術の在り方を大きく変えていくのかもしれない。
(飯田学人)
今日の国際展とはいかなるものか。最近、ビエンナーレやトリエンナーレという言葉が頻繁に用いられるようになった。それは国際的な美術展を2年間、3年間に一回開催することを意味し、国際的という言葉にふさわしい世界各地の様々な美術を紹介するイベントである。もちろん国際展は今始まったわけではなく、ヴェネチアでは19世紀末から行われてきた歴史ある大規模な展覧会だが、急増する国際展の概要を調べると、内容や方向性などが明らかに変わり続けてきたことがわかる。ジャンルが広がり、美術だけではなく、美術以外の領域ともさまざまな形で連結し、さらに効果的な創造的生産物の展示へと発展している。その結果、様々な視点から美術を眺めることも可能で、また、人、環境、経済、制度など美術と関連した分野において、種々の物事を肯定的に変化させる要因ともなっている。しかし、現在の国際展により重要なことは、世界や社会においてその肯定的な変化を主導する主役ともなる観客をその中心に置くことができるかどうかでもあるだろう。そうした課題を含めて、2008年に開催された第三回横浜トリエンナーレについて、そのディレクターを務めた水沢勉氏にインタヴューを行った。
(パクジュン)