イントロダクション
青森県美術館整備・芸術パーク構想を推進している立木祥一郎氏は、映画狂の学芸員でもある。彼の大いなるチャーム・ポイントは、立ち振る舞いや顔の表情をただ眺めているだけで、なんとなく顔がほころんでしまうところだ。チャップリン以上かもしれない。演技なのか、自然なのか、不分離なところが、これまたすごい。
1998年に国際交流基金が企画した「芸術と社会を結ぶ」地域・草の根交流欧州派遣事業で、イギリスとドイツを2週間ほど、ともに旅をさせていただいた。同行した東京在住の若手学芸員の一人が、ある日、耐え切れずに、「おもしろすぎる〜」と立木氏に向かって悲鳴をあげた。
情熱と虚構を食材とする映画などの世界と違って、美術館は作品というモノの現実を行政管理する運営組織である。前者がエンターテイメントという娯楽を生み出す一方、後者は多角的な感性の刺激を通して思考や認識を育むという教育的機能が強い。
最近、ゲームやアニメなどを含めた映像文化が広範囲に浸透したせいもあり、美術館にもアミューズメント的側面が必要になってきた。かつてはクロスオーヴァーできなかった要素を、総合的かつ日常的に練り上げること。対話するだけで笑みをもたらす立木氏が重鎮スタッフの一人なら、最後の県立美術館のひとつとして期待されている新青森県美にも、魔法の笑みが立ち上がるかもしれない。
美術館建設予定地に隣接する三内丸山の壮大な縄文遺跡は、はるかなる太古の時間へと想像力を飛翔させ、人間の生活の実感を伝えてくれる。ともかく圧倒的。今でも下北半島の恐山には死者の御霊を呼ぶイタコがいるし、心を刻む津軽三味線の鋭利な響きは、この本州の最北の地に、えにいえぬ魔術的トポスを授けている。工藤哲巳や棟方志功や奈良美智など、郷土ゆかりの作家が放つ多様なパワーにも、ある種の怖さが潜み、それが離れがたい磁力になっているのかもしれない。
待ちに待った県美がオープンするのは2006年。青木淳氏の建築デザインも、黒岩恭介氏率いる強豪学芸員の企画もとても楽しみ。さらに、のべ3500人のボランティアによって始動した奈良美智展を母体とするNPO法人harappaの活動も、地域を巻き込み、地域を越えて、ダイナミックなエネルギー源になっていくことだろう。
(岡部あおみ)