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mecenat ベネッセアートサイト直島/Benesse Artsite Naoshima


ベネッセハウス
© Aomi Okabe








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イントロダクション

直島ユートピア。自然とアートと日常が無理なく融合した理想郷。穏やかな瀬戸内海の3700人の島で、古い家々や路地、床屋、精錬所の旧診療所などを舞台に、13人のアーティストが昔ながらの生活空間に静かな波紋を投げかけた。岡山市に本社をもち、ベネッセハウスと国際キャンプ場を運営する直島コンテンポラリーミュージアムの開館10周年記念の企画展(2001年9月から12月まで開催)で、アーティスティックディレクターの秋元雄史氏は「あるものを生かして、ないものを創れ」という社長福武總一郎氏の示唆で、1997年から直島の古い家屋を改造して現代美術を常設設置している。室内の水の土間でカラフルなデジタル・カウンターが動く宮島達男の「角屋」、瞑想空間にガラスのきらめきが散りばめられた内藤礼の「きんざ」、漆黒の闇に10分ほどたたずむと新たな闇が見えてくるジェームス・タレルの「南寺」。懐かしい日常空間のただなかで、身体を通して新たな世界の認識がたち現れる。
今回の「スタンダード−直島・私・社会−」展では、加納容子が13戸の家々にそれぞれ特徴的な草木染めののれんをかけた。朝のれんを玄関にかけ、夕方しまう「世話」を孫の「幼稚園の送り迎え」だと語ってくれたたばこ屋さんの老夫婦の笑顔が心にしみた。訪れるたびに広がる心のアート、瀬戸内海の光がまぶしい。
倉敷には日本初の近代美術館、大原美術館がある。創立70周年を迎え、モダニズムの歴史をコレクションの成立とその時代背景から検証する紀要第一号を去年の暮れに出版した。岡山でアートのNPOミーツを主宰する小石原剛氏は、近代美術館の設立を支えた大原家の精神が、地域社会に根ざした社会貢献を含む岡山の独特な文化圏の基盤を形成したと指摘する。岡山市には2008年、林原所蔵の化石やモンゴル国との共同発掘の恐竜を中心とする博物館も出現する。文化力の衰えを嘆くこのごろだが、湧きつづける文化の泉とその源を忘れてはならない。

(岡部あおみ、『中央公論』2002年1月号 カルチャー・クラッシュp.303)