イントロダクション
ジャパン・ソサエティーは、「リトルボーイ-爆発する日本のサブカルチャー・アート」展をオーガナイズした組織であり、会場である。2005年に村上隆がキュレーションしたこの展覧会は、ニューヨーク美術館開催の最優秀賞展覧会第1位を受賞している。
1907年に創立し、日米間の相互理解や友好親善を目的に、日本語の普及および芸術文化活動を行うアメリカの民間非営利団体で、マンハッタンのミッドタウンの東側、国連の近くにある。エントランスには竹が植えられ、潤いのある日本的なしつらえが施されている。
音楽を専攻した塩谷陽子氏は、2006年にジャパン・ソサエティーの舞台部門と映画部門を統括する芸術監督に就任した。ここのオーディトリアムでの舞台公演や上映の事業だけではなく、日本をテーマにした新作の舞台公演の企画なども手がけ、マンハッタンのさまざまな劇場を使って演劇やダンスの後押しをしている。
2007年は創立100周年記念事業の年に当たり、約18か月間、多岐にわたる講演会、シンポジウム、舞台公演、展覧会などが行われた。その一環として招聘された、伊藤キムと金森穣の振り付けによるダンスや珍しいキノコ舞踊団など、日本の若手のコンテンンポラリー・ダンスの公演を私もニューヨークで見せていただける好機となった。
だいぶ前に『ニューヨーク 芸術家と共存する街』という塩谷氏の著書を読み、9.11以降、異文化への寛容さを失った感のある米国の芸術支援の変化やアートの現状について、ぜひ1度お話を伺ってみたいと思っていた。いまだに個人よりも団体や組織を優先しがちな日本社会を痛烈に批判し、「個人としての自分の軸をしっかりもつこと」を提言する塩谷氏だが、芸術の分野にもマーケット至上主義がはびこりつつあるアメリカに対しても、近年は批判の矢をゆるめない。
経済原理を越えて、新しい実験的な芸術への援助が文化政策には不可欠であることを、つねに信条にする卓越したアートアドミニストレーター。現場の嵐に鍛え抜かれた頑強な信念と明晰な分析力は、芸術への深い愛に根ざしている。
(岡部あおみ)