Cultre Power
art apace & alternative space ギャラリー ソープ/GALLERY SOAP









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イントロダクション

音楽イベントのライブ、展覧会、レクチャーなど、多角的な活動で知られるGallery Soapは、宮川敬一が運営するアーティスト・ラン・スペースである。夜はバーにもなる場所だが、一見、日本料理屋風に見える古い建物は元和菓子工場だそうで、1997年からその2階を借りて活動している。小倉の駅から徒歩で行かれる距離と聞き、一度訪ねたときはお昼過ぎ、まだオープンしていなかった。

ジャンクヤードで拾ってきたという家具類の独特なゆるい雰囲気が、薄暗い空間に不思議な居心地良さを醸し出している。話を伺えたのはさらに数ヶ月経てからだったが、ときに激しく緊張し、あるいはゆったりとたゆたう起伏に富むGallery Soapの軌跡そのものが、Miyagawa Worldなのだと納得した。

小倉といえば北九州、磯崎新のデザインで1974年に北九州市美術館が設立され、現代をめざす「リビング・ミュージアム」の概念とともに多くの期待が寄せられた。だが創立20年を越えたあたりから、学芸員が他館に移るといった空洞化が目立ち始め、2003年に第7回目を迎えた定評の高い「北九州ビエンナーレ」も以後中断。2007年秋には学芸員二人が退職して専門学芸員が一時皆無になる問題が浮上し、新聞記事まで掲載された。

北九州市美術館主催のビエンナーレに何度か参加した経験のある宮川は、長い冬に凍てつく美術館の危機を間近に見ながら、オルタナティヴな方法論を思索し続けていたのかもしれない。2006年にGallery Soapに集う社会学者、作曲家、アーティストなどの仲間たちとNPO法人AIK:アートインスティテュート北九州を発足、2007年秋に小規模ながら大胆不適な「北九州国際ビエンナーレ’07」をオーガナイズした。

レトロな門司港駅舎を出ると、目の前に広がる海峡から潮風が吹いてくる。招聘した9人(組)の作家による作品はすぐ近くの旧JR九州本社ビル会場に展示され、各所で大友良英らの音楽イベント、足立正生を含む映画上映やレクチャーなどが行われた。毛利嘉孝を中心としたシンポジウム「冷戦期の記憶と新世界秩序」の題名からも明らかだが、展示もヨンヘ・チャン ヘヴィー・インダストリーズなど、社会的政治的なテーマを扱う作家が多く、興味深かった分、展示方法の工夫と観客への配慮があればよりいっそう共感を広げられただろうと感じた。

朝鮮戦争の時期に黒人兵の集団脱走が起きた米軍小倉基地や門司港の歴史を踏まえつつ、美しい海峡の街の特殊な立地条件を生かして、小型ながらも、どこにもない国内外にインパクトを放ち得る国際展に育てていってほしいと思う。



レトロな門司港駅
photo:Aomi Okabe


(岡部あおみ)