イントロダクション
神戸アートビレッジセンター(KAVC・かぶっく)の木ノ下智恵子さんから、企画展などに関する案内がメールで届く。ご自分がかかわった展覧会への情熱が、きめ細かな広報の行間に現れている。
1995年に阪神淡路大震災が起きたとき、その夏にフランスからジョルジュ・ルースというアーティストを招いて、被災し破壊される予定の建物のなかで作品を制作する「阪神アートプロジェクト」を組織して支援した。当時まだ学生だった木ノ下さんは、もっとも積極的にかかわってくださった仲間だった。
震災によって、開館が半年遅れた神戸アートビレッジセンターに、その後木ノ下さんがキュレーターとしてかかわることになり、あの忘れがたい「阪神アートプロジェクト」の志が、彼女のダイナミックな実践活動を通して、どことなく続いているような懐かしい思いを抱いていた。
今回、はじめて具体的にKAVC・かぶっくでの木ノ下さんの活動を知って驚いた。少ない予算を有効に使いながら、地域のマンパワーを最大限に活用し、新人アーティストの発掘と支援を徹底的に行う。それをヴィデオに記録して、無料で配布する。毎年、開催している「神戸アートアニュアル」の「オーガナイズ・マニュエル」は、すばらしいの一語につきる。束芋のようなアーティストが関西から輩出してくるのも当然だとうなずかされる。木ノ下さんは見事に「阪神アートプロジェクト」を超えていった。
神戸には新たに兵庫県立美術館も開館したし、神戸ファッション美術館もユニークな活動を続けている。しかし、もともとハイカラな土地柄にもかかわらず、現代美術を主として扱うアートの場は、ここKAVCとアーティストたちが自主的に立ち上げたCAP・キャップぐらい。そういう意味でも、KAVCの活動は重要だ。
戦災の前まで、新開地には映画の神様、故淀川長治氏ともゆかりのある映画館が軒を並べ、演劇が盛んな街だった。失われた戦前の文化基地をベースに、美術・演劇・映画の3本柱を立て、しかもジャンルを越えた企画がフレキシブルにできる場所は、日本でもあまり例を見ない。ちょっとしたミニ・ポンピドゥー。これからも、手のぬくもりのある充実した企画を続けてほしい。
(岡部あおみ)