イントロダクション
空恐ろしいイメージング・コレクター。
都築響一は、世界の津々浦々でイメージをサーチし、写真を撮り、撮り続けるという持続的なまなざしのあり方を通して、既成の博物学を突き抜け、知の根底にある構造を浮上させる。それはまなざしそのものをまな板に乗せる「確信犯」的行為だ。もし、イメージ・コレクターを、ありとあらゆる図版を駆使して、ゴージャスな世界観を提供する博覧強記の学者たちと定義するならば、イメージ・コレクターとイメージング・コレクターの違いは、自らの眼を傷つけるリスクを負うかどうかにあるだろう。
都築響一によって犯し犯される構造とは、まず中心と周辺、ハイとロー、聖と俗といった二項対立の価値観であり、そもそも西洋中心の博物学、博物館、美術館、芸術至上主義のヒエラルキーだ。つまり、モダニティの名のもとに構築されてきた日本の人工知の撹乱だろう。そして、『TOKYO STYLE』では、凡庸なる都会の雑然とした日常性がリアリティの輝きとともに起立し、『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』では、キッチュ、エロ・グロ・ナンセンスの見捨てられた秘宝館が蘇る。ときには、波たてず、地下にもぐって、ときには、大嵐を引き起こす「確信犯」。
「編集者」というのは隠れ蓑であって、「トップダウン」とは逆の、いってみれば「ダウンロード」の実権をにぎる人である。目線の決定権をもつ、その選ばれた位置は、もっとも有力なヴィジュアル・コレクターのそれでだ。
70年代から『ポパイ』、『ブルータス』などの雑誌で活躍、今でも食い口は編集というが、サブカル大衆路線に身を潜めながら、都築響一はじつは真なる「メセナ」でもある。アート・サポーターとしてのプロフィルは、89年から手がけた全102巻の現代美術全集「アートランダム」の刊行が実証している。国際的なアーティストの生半可ではない紹介本で、日本の作家は少ないが、80年代のフランスのフィギュラシオン・リーブル系、アメリカのニュー・ペインティング、イギリスのニュースカルプチャーなどを網羅し、アウトサイダー・アート、バローズ、ピ−ター・グラスなど、ランダムで異色な取り合わせが都築ワールドを示唆する。こうした「メセナ」メンタリティは、ソネットと組んで始めた「インターネット・ミュージアム・オブ・アート」に継承されている。
文庫本ともなった『TOKYO STYLE』、『珍日本紀行』などで、一躍大衆的人気を博した「アーティスト」は、横浜トリエンナーレ2001には秘宝館『精子宮』を、2002年のサンパウロ・ビエンナーレには、『賃貸宇宙』の参加型見世物ワールドを出品した。
過激さはエスカレートし、『珍世界紀行―ヨーロッパ編』は見事におぞましく、本を開いてページを繰るのも人目をはばかる。とはいえ、西洋の拷問博物館などに展示されている残酷シーンは、夏の日のお化け屋敷心をくすぐるらしく、写真集としてはまさにベストセラー格。日本のエロに西洋の残虐嗜好を対抗させたイメージング・コレクター自身も、あまりの血生臭さに唖然としたようだ。宗教の排他的暗黒史を通して、えげつない人間の「オバカ」を暴く一品。
マルチな才能のラディカルな軌跡は、まだ始まったばかりである。
(岡部あおみ)