イントロダクション
椿昇氏は室井尚氏とのユニットで、横浜トリエンナーレの『インセクト・ワールド 飛蝗(ばった)』巨大バルーンの作者となった。空にバルーンをあげるという通常の方法ではなく、港のそばで風圧が強大であることが予想される高層建築にわざわざ登らせるという発想自体が、予定調和を裏切る「アート」なのだ。それはキングコングの映像のように、想像の昆虫が、都市の象徴としてのビルに対峙するというイメージがどうしても必要だったからだ。なんとか実現したが、もともと簡単に成功するようなプロジェクトではない。多くの人々を巻き込み、不可能に近いからこそ挑戦し、燃えたところが、椿氏らしい。
もうだいぶ昔のことだが、インターネットがまだ普及していない頃、コンピュータのフロッピーを送ってくれた。はじめて届いたデジタル・プレゼント。大阪で話のついでにでた、噂の椿キャラが入った玉手箱。だが、当時私が使っていたフランス製のMacでは、どうしても開けられなかった。
人懐こい職人気質と、メガロなベンチャーを同居させ、今や最先端のNPOアートをめざす。アートのリトマス試験紙のようなまなざしをもち、誰からも許される毒舌さわやかな変動期の勇者。世界への揺らぎのない愛を謳う椿ワールドには、きっと今でも不開の門(あかずのもん)が秘められているような気がする。
(岡部あおみ)