Cultre Power
artist 辰野登恵子/Tatsuno Toeko

辰野登恵子 個展情景写真 「辰野登恵子 1986-1995」 東京国立近代美術館 1995年 9月15日 〜 10月22日
© Tatsuno Toeko








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イントロダクション

だれにでも安心感を与える老練ともいえる形態と構図の充実感。

そこに、画面が狭くてたまらないと口をふくらませた闊達な色彩が、時間を超えた華やぎを添える。

辰野登恵子の絵画には、西洋に根差した油彩の伝統、つまりキャンヴァスとの対話によって研ぎ澄まされてきた熟達の知恵と、絵画の原初に向かおうとする抗いがたき欲望のせめぎあいがある。

それはまるで正反対の二人の人物の格闘のようだ。土俵となる類まれな画面では、両者の競合と奪取が繰り返され、全力の奮戦を経た後で、緊張に満ちた一時の休息と秩序が整えられる。

捨象され、選りぬかれ、ミニマルに造形された形態は、けっして同型がありえぬ反復の妙技を展開し、生まれ出でた形象は、色彩の海に抱かれて航海へと旅立つ。

平面絵画を、「摩訶不思議な顔料と筆を介しての、無からの創造、<立てる行為>である」と語る作者の言葉が示唆するように、形態と構図のイリュージョンが、ありえぬ立体そのもの実在感へと迫っていくものもない。

彼女の絵画の醍醐味は、描く行為と生が融合した重量を受け取るところにあり、東西や性差を超えて、セザンヌの教えを追及しつづける生粋のペインターの真髄を感じるところにある。過去を参照し裏切りながら日々新生する作品。

だから当然、辰野の絵画は今がつねに最高である。
(岡部あおみ)