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辰野は自分の画面と向き合い、そこで立ち上がる形と色の世界を可能なまでに広げ、自身の問題として自己評価をくだす。すべてを良しとするわけではなく、絶えず自分の中にある理想とするモノへと進化させ、そのためには自らの表現を変化させて描き続ける。その時々の自分のリアリティを敏感に感じて、それを表現する力が彼女には十分すぎるほど備わっているのではないだろうか。辰野と同世代の抽象画を展開していた作家たちが過去の栄光となっているにも関わらず、ひとつの形式に自身を縛ることなく、時代とともに描き歩む辰野登恵子の画業の軌跡は見事である。辰野は常に現実を楽しんでいる。
(白木栄世 武蔵野美術大学大学院修士課程修士論文『しかし、「絵画」は在り続ける。』より)