コメント
杉本氏は自分の置かれている環境や周りで起こることに対して独特な見方をしているように感じた。その見方がどういうものなのかはっきりと説明することはできないが、簡単に言うとそれは「客観視」のようなものではないだろうか。杉本氏が今まで発表してきた哲学的とも言えるようなその作品群は、マルクス経済学、学生運動、ドラッグカルチャー、それらを含むカルフォルニア・ニューヨークのカルチャーシーンの様々なモノを客観視し、それを消化することによってできあがった作品なのではないだろうか。当時のカルチャーシーンなどはとても興味深かったが、そのときの事象が影響を与え、作品に結びついているということを知ることができたのが一番の収穫であった。
(赤羽佑樹)
後悔をしている。私自身、行きそびれた展覧会の中に2005年の森美術館での杉本博司さんの個展があるのだ。私が最初に目にした杉本作品は『ジオラマシリーズ』の中のひとつ、北極グマか何かを撮った写真だったと思う。最初はただのクマを撮った写真だと思っていたが、それが後にジオラマだと知った。 杉本さんの写真には必ず物体ではない何かが写りこんでいる。多分それは誰の目にも見えないものだ。でも見えないから撮るのではない。見たいから撮るのでもない。撮るから写っていることに気付くだけだ。既に存在しているその何かに。 地球上いや宇宙全体には私たちの知りえないもの、そんなものが当たり前に存在している。人間なんてちっぽけだ。どうしようもない。科学の力で動かせる部分なんてわずかだ。杉本さんの写真を見ているとそんなことを感じさせられる。人の考えられる範囲を超えた写真、それは杉本さん自身もどうしようもない部分を自分で撮っておられるのだと思う。 これからもそんな、私たちにはどうしようもない部分を撮り続けて欲しい。 見えないものをみるために、知るために、私は今後も杉本作品をしっかりとこの目に焼き付けたい。
(小橋未喜)