イントロダクション
京都の祇園祭の前日に行われる宵山の「屏風祭」を訪ねたことがある。家に代々伝わる屏風、掛け軸、人形などのお宝が飾りつけられ、その間だけ誰でもが外の通りから覗けるようになっている。ときには深い路地や奥の間までが見られるように格子や障子がはずされ、京の町家の伝統と魅力を存分に味わうことができる。いわば町内全体が華麗なミュージアムになったような雰囲気で、古都の文化の奥深さと、おもてなしの意味をしみじみ考えさせられた。 1995年頃だが、下京区にある由緒ある町家に、ミラノ在住の長沢英俊の個展を見に出かけた。すでに寺社でのアートの催しはあったものの、伝統的な生活空間に現代アートが展示公開されるケースは、当時ではまだ珍しかった。しかも大理石を使いこなすイタリア在住作家と日本家屋の組み合わせは、すてきなミスマッチ感があり、期待に胸を躍らせた。
ギャラリー・オーナーで京都在住の小西明子氏の自邸を会場とした長沢英俊の個展は、期待以上の感動を与えた。会場となった町家を取り壊す可能性があると伺ったときには、寄付を集めて買いたいとさえ思った。海外からやってくるアーティストのレジデンスにできないだろうかと。二度と作ることのできない、すぐれた伝統建築が消えてゆくことへの無念さが、当時、長い海外生活から戻ったばかりの私には、胸を刺す痛みとなって感じられた。
だから、現代アートの展示空間として、アーティストの重森三明氏が著名な庭園家の祖父、重森三玲旧宅を用いて、Shima/Islandsプロジェクトの共同企画に乗り出した気持ちが痛いほどよくわかる。パリ留学時代以来の豊かな人脈を駆使し、友人のキュレーターたちとともに、2000年9月に開催した最初の展覧会は、今では世界に名だたるメキシコの若手アーティスト、ガブリエル・オロスコの個展。さらにパリで活躍する韓国出身のクー・ジュンガ、ダン・グレアム、ハイモ・ツォーベルニクと、場と空間の変容を通して新たな認識を促す画期的なアーティストの個展が2001年1月まで開催された。
重森三玲旧宅は、奥ゆかしい意匠の邸宅のみならず、庭園がともかくすばらしい。個人の住居なので展覧会期間以外は非公開、写真はShima/Islandsのサイトでご覧ください。: http://www.est.hi-ho.ne.jp/shigemori/
重森氏は作家として自らの作品制作を進める一方で、こうした稀有な場の経験をもとに、この美しい重森三玲旧宅を保存し、現代に生かしてゆける道を模索し続けている。
(岡部あおみ)