イントロダクション
超大スケールの画面を難なくこなせる珍しい画家がいると、興味をそそられた。しかもホワイトアウト的な余白や淡泊な色調を得意とする日本の若手作家が多いなか、オスカール大岩の卓越した絵画は、「本場」の油絵がもつ複雑なニュアンスと内面の光、とくにまなざしを引き込む深く滑らかな触感さえも湛えている。
ブラジル出身の日系アーティストだと知ったときに、これらいくつかの疑問は自然に解けたように思えたが、出身地サンパウロを訪れたときに、豪奢と貧困、陽気と絶望の極端な振幅をもつこの大都市のダイナミズムが、彼の身体を透過して、絵画へと共振するさまも実感した。
オスカールの絵画に頻繁に登場する、まるでサイエンス・フィクションに出てくるような大都市崩壊の情景が、たんなる終末観とどこか違うのは、『ノアの箱舟』の作品に象徴されるように、壮大な創世記の世界につながっているためだ。だが、東京からニューヨークに拠点を移してからは、クリティカルなヴィジョンがより大胆不敵な構成で、ある種の余裕というかユーモアをともなって描かれるようになった。
たとえば、発想の奇抜さが度肝を抜く、国家を表象する肉の形がつり下げられた肉屋を舞台に展開する『U.N.マーケット』、バーベキューパーティでベッティをナンパするミッキーが登場する『イラクがお好き?』の洒脱な皮肉など、社会批判のまなざしはますます研ぎ澄まされている。
とはいえ、マーケット至上主義の当地で、絵筆だけで生き抜いていくには、相当したたかでなければならない。オスカールの預言者的な純粋さを愛する者としては、難関を切り抜ける彼の魔法の筆がさらなる神通力を発揮することを祈るばかりだ。
(岡部あおみ)