イントロダクション
大学院の文化政策の講義で、2003年度は東京の情報環境について考えてみた。REALTOKYOは、これまで展覧会をキュレーションした際や、講演会、シンポジウムなどの開催のときに、情報掲載や展評などでお世話になった身近な情報サイトだが、一体だれがどのように動かしている媒体なのか、その背景を詳しく知ることのできる機会はなかった。
編集者小崎哲哉氏との邂逅は、必然的ともいえながら、水の波紋がうねるような新鮮な刺激を与えてくれた。おそらく、それは編集とキュレーションという重なりつつも異なる二つの領域の強烈な牽引と差異の感覚だったように思える。
無限に広がってゆく小崎哲哉氏の話は、その領域の膨大さに眼が回るような感じを与える。まさに、巨大な情報社会の波をサーフィンしてゆくオールマイティな編集者の勘と覚悟に対する憧憬にも似た眩暈。だが一方で、ときには波を無視して海底へと向かわねばならないダイバーの決意を、キュレーターや評論家、美術史家はもたねばならない。必ずしも、宝物が埋まっているとはかぎらない広大な海底で、いつか光輝くアートという大魚に出会う日を待ちながら。
インターネットによる情報配信を、小崎哲哉氏は新たな「メディアとツール」に位置づけている。脱中心にして縦型のヒエラルキーを崩すこと、イベントの作り手と受け手に優しい仕組みであること、バイリンガルであること、日記風に書き手の顔としぐさが見えること、専門性をもちながら横断性をめざすこと、これらのウェブの鉄則を、REALTOKYOは果敢に実験し、たくみにリニューアルし続ける。フレキシブルでありながら、ユーザーの要望に応じておもしろいものを提供したいという欲求とこだわりが、REALTOKYOのかっこいいクオリティ・バランスである。
そうした日々の百戦錬磨の実践が、紙メディアに見事に生かされたのが、最近出版された『ARTiT』。 じつに読み応えのある刺激的な雑誌の登場で、若者たちに、したたかなる影響力をもちはじめている。
(岡部あおみ)