2022年度作品

まちを象ること

武蔵野美術大学 芸術文化学科 佐々木ゼミ

Sasaki Seminar, Department of Arts Policy and Management,
Musashino Art University

西荻窪の骨董通りをフィールドワークし、日常の情景に見え隠れした様々な事象を、12人のゼミ生が作品として象りました。 骨董通りのお店にご協力頂き、古き良きモノを丁寧に引き継ぐこと、人とのつながりを生み出す場を出現させました。 

また、善福寺公園には、骨董通りに設置された作品を運搬した時に使用した自作のクレート(木枠梱包)を配置し、人々が集うことのできる場をつくりました。様々な形のクレートを配置することで、子供の遊び場になったり、癒しの空間になったりと各々の時間を過ごす場となりました。 

 

国際野外芸術祭トロールの森2022

日時:2023.11.3 [Thu.]-11.23 [Wed.]

展示会場:都立善福寺公園上池脇、西荻北四丁目エリアに点在展示

the shop

骨董玩具とりとり No. y2022-01

骨董玩具とりとりさんは、土日のみ営業されているお店です。平日にここを訪れた方は、今の皆さんの位置からショーウィンドウを覗いています。日光に照らされたガラス細工にお店への想像を膨らませていた私も、その一人です。自分を映し出す暗い店内のガラス窓。だけどお店や街に拒絶されているような感覚はなく、背後に潜む人の生活を想像して暖かくなる。そんな不思議な体験を通し、この街の二面性を表現しようと考えました。

この作品は、人の営みや骨董品を形作ってきた「手」、そして「骨董玩具とりとり」さんとの関係性を抽象的に立体に落とし込んだものです。

体温を持つ柔らかなモチーフをあえて木の角材で表現したり、覗き込むという行為の高揚感の再現などを試みました。

物語とつながり                        

Boîteぼわっと No. y2022-02

骨董通りを木枠で捉え、組み合わせることで、骨董通りの人々のつながりを表現しています。骨董通りは、人やものにこれまでとこれからの物語が含まれ、それらが温かいつながりを生み出していると思います。フランス雑貨&アンティーク&カフェである「ぼわっと」さんは、私が作品で表現したい物語とつながりが詰まったお店であると考え、今回この場所に設置させていただきました。作品に当たる光とそこから生まれる影はこれまでの物語とこれからの物語を意味しています。光や影が全く同じ条件にならない姿がものや人の持つこれまでの物語と今後どうなっていくかわからないこれからの物語を表します。作品に触れないようお願いいたします。

Habitrace

もりのこと No. y2022-03 

実際に訪れることで触れることができた温かさや柔らかな雰囲気。

それらを抽象的な形として表現することによって、想像力から広がっていく物語があると考えています。

雰囲気とは「Habit(癖/習慣)」「Trace(跡)」を合わせたものであると感じ、「Habitrace」という造語をタイトルにしました。

日常の中に作品が出現した時に起こる変化とは何か、人々の眼にはどのように映るのか、その想像の先に物語があると思っています。

場所や環境、心情から作品を自由に楽しんでもらえたら嬉しいです。

往来 

ほっぺるランド No. y2022-04

骨董通りの物語の移り変わり、人の往来の流れを見える化し、人の温もりを感じられる仕掛けを骨董通りの入り口付近に作りたいと考えた。そこで、時代の移ろいや月日の経過と、そこに居た人の存在のものの増加量で表現するため、通行者に自身で回してもらう砂時計を設置した。この砂時計は、時計は動いているにもかかわらず、人の姿は見えないという状況も演出できる時間に設定されている。室外機に模した箱型の砂時計は、普段の骨董通りの日常の延長に、「移ろい」を意識してもらう仕掛けとして作用するのではないだろうかと考えた。

この砂時計を設置することで、骨董通りの道に通行人が何か作用する関わり合う時間を創造したい。

毛糸回答箱 

BAHAR No. y2022-05

これはみなさんの回答によって完成する参加型の作品です。下の毛糸玉を1つ取り、回答する方の穴に入れてみてください。毛糸玉を入れている部分は斜めになっているため、手前の玉を取ると、後ろにある玉が転がってくる仕組みになっています。

この作品の制作意図は、この通りが「骨董通り」であるということを知ってもらうため、そのシンボルとなれるように、というものです。

「知ってるよ」、「知らなかった!」という二つの選択肢を用意することにも意味があります。この二つの選択肢から、多くの人に通りの名前の意味を考えてほしいという思いがあります。回答する際に、ふと、考えてもらえるだけでも十分だと思い、参加型の作品にすることにしました。

透き間を縫う 

BAHAR No. y2022-06

まちを知ること、ひとを知ることを縫う・織るという行為や糸に重ね合わせて、まちを訪れた人が作品をきっかけにいつもとは違う視点で骨董通りを歩いてくれたらと考えている。また、2つ以上のものや人、建物の間に存在するつながりや音、気持ち、温度、時間などが通りを作っていると感じ、タイトルは「透き間を縫う」とした。

汲む 

Northwest-antiques No. y2022-07

ここ骨董通りから善福寺公園に向かう途中には、今でも長屋文化の残る桜横丁という場所がある。そこにはかつて3軒に一つずつ井戸があり、水を汲みに来る人々がそれぞれの仕事をしながら顔を合わせることで、交流の場となっていた。しかし時代が進むことでやがてその井戸はなくなり、その交流の場も無くなってしまった。

今回、私はかつてこの街にあった井戸を出現させることで自然発生的に起こっていた人々の交流を再現することを試みる。井戸という現在では異質な存在と対面することで、私たちは対話を通して改めて誰かとつながる行為を体験する。

井戸から水を汲む。

相手から話の意図を汲む。

二つの「汲む」という行為は、私たちに何を教えてくれるのだろうか。

 

鍼灸ヒトハリ No. y2022-08

骨董のこれまでの物語とこれからの物語というイメージより、境目を意味した扉を制作した。扉は本の表紙を開いていちばんに現れるページのことも指している。また、トロールの森全体テーマの「きざし」を、「新しい物語の始まりの兆し」として捉え、扉を完全に開けることのできないように少し開けた状態で固定した。開きかけの扉の中を覗くと様々な捉え方ができるオブジェクトが見える。今作品を置かせていただいた「鍼灸ヒトハリ」さんとかけてハリのようにも、冬の雪の結晶のようにも、春に咲く桜のようにも捉えられるオブジェクトだ。

骨董通り器

グリーンハイツ No. y2022-09

この作品は消火器をモチーフにしています。現在、骨董通りや西荻窪駅周辺には二種類の消火器入れがあります。それらはまるで、だんだんと新しくなっていく西荻窪の移り変わりを見ているような気分にさせられます。そしてここ、骨董通りの入り口には古い形の消火器入れ、そして進むと新しい形のものがあります。今回はそのうち、古い形のものを古き良き雰囲気を醸し出す西荻窪の象徴として取り出してみました。

ぜひ開けたり閉めたりしてみてください。触ってよく観察してみた後だと。道端の消火器は変わって見えるかもしれません。

せいくらべ

小鉢と日本酒 たとえば。 No. y2022-10

様々な人や店が入れ替わり立ち替わり現在まで続いてきた骨董通り。

様々な人のもとを渡り愛されてきた骨董品。

そんな歴史の重なりを背くらべで表現します。

この作品は、まちゆく人々に自らの印をつけてもらうことで完成します。

柱の印はその人自身であり、これまでの生きてきた歴史です。

骨董通りで見知らぬ誰かと背くらべをしていきませんか。

こと葉

小鉢と日本酒 たとえば。No. y2022-11

西荻窪を探索するなかで、人と人が交わすことばがこのまちの輪郭を作っていると感じました。「言葉」という単語に「葉」という文字が用いられているのは、葉が木によって特長があるように、ことばもそれを使う人によってそれぞれ特長があることが由来とされています。

私は今回展示しているのは、まちを行き交う人々のことばを葉に見立てたオブジェです。小さな作品ではありますが、私たちが交わすことばもひとつひとつはとても小さなものです。このまちを形作ってきた、些細でたわいもないことばをさりげなく表現できればと思い、制作しました。

かさなりの境界

棗、駱駝 No. y2022-12

「棗」「駱駝」、二つの店舗は、同じ建物を等しく分つ形であり、店と店との間に境界があります。その境界に、お店の形を再構成した木材を設置しました。

ここは紛れもなく一つの建物ですが、二つのお店がそれぞれ存在し、それを分かつ境界が確かにあります。長屋として壁を共有しながらも、壁、窓、扉、素材や在り方が異なる二店舗の境界に、ふと足を留めることで、西荻窪らしさの一端に触れてほしいと考えています。

いくつものお店や人々が入れ替わり、現在に至るこの場所は、「にしおぎ」の在り方の表出のひとつでしょう。お店や住む人々が去り、新たな人々やものがやってくる、その繰り返しで営みは更新されますが、消える訳ではないのです。かつての営みは、西荻に根付く空気そのものとして、かさなり合っていきます。それが「にしおぎ」らしさなのでしょう。

特別協力:
骨董玩具とりとり、Boîte ぼわっと、もりのこと、ほっぺるランド、BAHAR、Northwest-antiques、鍼灸ヒトハリ、グリーンハイツ、小鉢と日本酒 たとえば。、棗、駱駝

主催:
トロールの森実行委員会

後援:
東京都東部公園緑地事務所、杉並区、杉並区教育委員会

協力:
都立善福寺公園、杉並区立桃四コミュニティスクール、JR西荻窪駅、Daily Table KINOKUNIYA、西荻窪駅店、遊工房アートスペース、関東バス株式会社、ゆうゆう善福寺館、中央線あるあるプロジェクト

助成:
企業メセナ協議会 助成認定活動
公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】
杉並区文化芸術活動助成事業