武蔵野美術大学 芸術文化学科

ユーリー・ノルシュテイン氏 ワークショップレポート
ユーリー・ボリソヴィチ・ノルシュテイン / Юрий Борисович Норштейн
Yuri Borisovich Norstein / Yuriy Borisovich Norshteyn

1941年ロシア、アンドレーエフカに生まれる。1943年よりモスクワ在住。
1961年ソ連国立アニメーション連盟のスタジオでアニメーションを学ぶ。ロマン・カチャーノフに師事。エイゼインシュティンの作品に触れ、アニメーション監督の道を志す。
1967年に初めての映画「25日・最初の日」を制作。73年「狐と兎」で初の単独監督作品発表、代表作に「あおさぎとつる」(1974)「きりのなかのはりねずみ」(1975)「話の話」(1979)等。国内外の受賞は30以上に上り、高い評価を得ている。現在は、24年前に開始したゴーゴリの「外套」を制作中。
1979年から1996年国立モスクワ映画大学監督上級コース教授。
世界で最も創造的なアニメーション作家の1人。1979年度ソ連国家賞、1981年度A・タルコフスキー記念賞を受賞。1991年フランス芸術文学勲章受章。1995年ロシアトライアンフ賞受賞。2004年には、ロシアにおける日本文化紹介とアニメーション発展への貢献が認められ、旭日小綬章を受章。

来校期間 2006年11月27日〜12月1日
芸術文化学科、映像学科、視覚伝達デザイン学科共催
ワークショップ参加学生15名、見学学生30名

11/27
ワークショップ:浮世絵を動かす/その1

アニメーション制作を行う際の重要なテーマが前提講義として行われた。 内容は以下の3つに大きく分けられる。

  • 作品制作の構想はどのように生まれるか?
  • 『食べる』というテーマ(ワークショップのメイン課題)にどう向き合うか?
  • 広重の版画を映像的視点で見る

いずれのテーマも、ノルシュテイン氏の体験に基づく深い洞察力と、表現に対する方法論が丁寧に語られた。 その場でドローイングを行いながらの解説など、具体的なビジュアルが用いられ、非常に興味深い内容となった。

11/28
ワークショップ:浮世絵を動かす/その2

前日の講義に引き続き、イメージの構築とその読み取りをテーマに、広重の版画分析が行われた。 1枚の絵に込められた作者の感受性と世界観を映像化(アニメーション)する試みが、実際にノルシュテイン氏によって行われた。 画面内をフレームによって区切り視覚を制限し、フレーム(視点)の移動によってイメージが発生するシンプルな表現には、氏が強調する<ディティール>と<物語>の関係がみごとに反映されていた。 後半は、参加学生達が広重の版画を使いアニメーションを制作し、ノルシュテイン氏より講評を受けた。

11/30
課外講座「絵本とアニメーション『きりのなかのはりねずみ』を中心に」

アニメーションと絵本は、いずれも時間を表現する点で共通しているが、情報量の違い、動画、静止画、イメージの伝えかたの違いなどメディアの特性はかなり違う。
イメージとは、動くとは、空間をつなぐとはなど、この講座ではアニメーションとアニメーションをもとに絵本化された「きりのなかのはりねずみ」を通して語っていただいた。
アニメーションの制作にあたってまず「出発点に言葉を置く」。言葉の重要性を指摘することから始まった講演は、言葉とイメージ、音の問題、映像と本のメディア特性の違いへと発展していった。
それぞれ表現できること、できないことがある。例えば「はりねずみ」が霧の中に消えていくシーンは、音楽が案内人のように響き時間が流れていくが、本の中ではつくれない。 一方で映像表現は、鑑賞者に見ることを強制する上監督の方向づけを追っていかなければならない。その点、本=言葉は自分で読むことをコントロールできるし、強制しない。表現手段の違いはどちらが上か下かではない。 「映像表現に言葉があふれてしまってはしょうがない、本でできないことを映像で行うのだ」。具体的な提示は、表現者の言葉として説得力があった。 「私たち自身が周辺世界に対する感覚を獲得できなければ芸術作品にならない」。刺激的で示唆的な言葉で組み立てられた講演は、予定の90分をはるかに越える熱気に包まれ、約500人聴衆を魅了した。

12/1
『食べる』の発表と講評

参加学生に課せられていた、『食べる』をテーマにしたアニメーション作品の講評が行われた。 プロット(物語の筋立て)の重要性と、それを可視化する絵コンテの作成について、学生の作品に対し、具体的な指導が行われた。 講評の中心には、事物の観察によって得ることの出来る「ディティール」からの発想があり、それがプロットに結ぶということが、具体的なアイデアの提案を含めて詳細に語られた。 学生にとってイメージを作り上げる際の基本的な姿勢が示された意義のある機会となった。

文:今井良郎(芸術文化学科教授)・米徳信一(芸術文化学科助教授)