OPEN CAMPUS 2017武蔵野美術大学 旅するムサビプロジェクトカルチャーパワー
  • [教材研究]

芸術文化学科での学びの基礎となる「聞く」「話す」「書く」「読む」の実践例として、本学の講師である河原啓子先生と<インタビュー企画>を考案し、教材として制作しました。


手の思考/河原啓子×是枝開

インタビュー・構成 河原啓子(同非常勤講師・アートジャーナリスト)

インタビュー・構成 河原啓子(同非常勤講師・アートジャーナリスト)

アーティスト、アートスペースの企画・運営、キュレーター(学芸員)と、多彩な経験をベースに、制作と理論の両輪を駆動させた授業を芸術文化学科で担当する是枝開氏。教育、そしてアートについてお話をおうかがいしました。

ものの見方を刷新

芸術文化学科2年生の必修科目「造形基礎」で独自の実技課目をなさっていますね。

 この実技科目は、実技制作の経験があまりない、大学に入って初めて美術制作にチャレンジする人も、すでに経験のある人も視野に入れています。そして、美術の道に進みたい人ばかりではなく、社会人になってさまざまな活動をする際に生かせるよう意識しています。美術作品の見方のみならず、ものの見え方全体を変えてゆくような…。僕がアメリカで学んだ絵画、造形の基礎的な技術修得法を、オリジナルでアレンジしたプログラムです。

具体的にどのような内容ですか?

 7つの演習に取り組みます。色彩、模写、異種統合・立体造形、ピクセル・デッサン、中心軸のある立体造形とアイディア・スケッチ、線の速度(リズム)、明暗の分析です*1。赤にもいろいろな赤があるとか、どのようにカタチが表現されているかとか、実習しながら把握してゆきます。色への感覚を敏感にしたり、道具の使い分けを学んだり、空間的な感覚を研ぎ澄ましたりと、手を動かすことによってこそ磨かれる能力を伸ばします。

*1 「造形基礎」授業紹介

作り手になってこそ見えてくる世界が広がりますね。

 終盤戦では、里見勝蔵*2のカラフルな作品を、15分、3分、30秒といった時間制限を設定して写生します。同じ絵でもさまざまに表現できることを自分の手で学ぶわけです。「スポーツみたい!」という声もあがりますね。人によって、とらえるポイントに違いが出て、面白いんですよ。

*2 1895~1981年、日本。洋画家。渡仏しフォービスムを学んだ。豊かな色彩と自在な筆致で知られる。

見て、そして手を動かす…。アタマとカラダを柔軟に使うわけですね。アーティスト、そして学芸員としてのご経験が反映されているのでは?

 制作的な感覚7割、造形思想や美術史やミュゼオロジーなどの理論的な感覚3割ぐらいの割合で、話をしたりしながら、各自の持っている力を育んでゆきます。ですから、単に描く技術ではないんですね。思考の技術なんですよ。僕も若いころから絵を描いてきたから、なんとなく彼らが絵を制作しながらやっていることや気持ちがわかるんです。制作中にポイントなどを適宜アナウンスしながら進めることによって、全く絵を描いたことのない学生でも、本人が驚くほどうまく描くことができるようになります。まずは経験することによってしっかりとものを見つめられる力を養えるんですよね。2時間、3時間、しっかりとものを凝視する経験って、日常ではそんなにしないでしょ? そして、全体から部分へという視点を、トレーニングによって獲得するんです。

アトリエにて制作のプロセスについて語る是枝氏 

さわやかな合理主義

80年代にアメリカに留学され、コロンビア大学大学院で制作を学ばれました。

 アメリカには、既存の表現ジャンルや概念に縛られずに、作品づくりに必要なものごとを効率的に選択してゆく、“さわやかな合理主義”みたいなものがある。木工や金属などの異素材や、建築やデザインなどの異ジャンルであっても余計な気遣いをしない、回り道せずに必要だったら取り入れてゆく。制作する上で自由になることができました。

印象に残る出会いはありましたか?

 当時コロンビア大には、特別講義でジョン・ケージ*3が教えに来ていて、美術とか音楽とかといったタテ割りの専門領域を超えて、「世界をどうとらえるか?」という大きな問いかけに対する彼の考え方に影響を受けました。チャンス・オペレーション*4、偶然をどのように選び取るか、その面白さです。規則的なプロセスとその統合を繰り返すといった制作方法の対極にあるものです。僕の制作にとっては両方とも大切な要素になりました。

*3 John Milton Cage Jr. 、1912~92年、アメリカ。 前衛芸術全体に影響を与えた作曲家。西洋音楽の概念を大きく変容させた。音楽における沈黙の意味を問い、演奏の新しいあり方を提示した作品《4分33秒》(1952年)などで知られる。
*4 ジョン・ケージが考案した、偶然を利用して作曲する手法。《易の音楽》(1951年)など。

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修了制作作品《とはいえ Ⅱ》

コロンビア大での修了制作は?

 立体作品でした。ニューヨークの自分の部屋のベッドをアトリエまで抱えて行って、それを亜鉛メッキ板で梱包して、たまたまその時、使っていたのはパステル系のピンク色の毛布だったんですけれど、そのベッドに切り裂いた金属板を立体的に組み合わせて、パステル系のピンク色の毛布がちょっと見えているっていう…。考えてみれば、少し色っぽい感じ(笑)。

(笑)コンセプチュアルですよね?

 コンセプチュアルなんだけれども、造形チックですよね。

タイトルは?

 《とはいえ Ⅱ》(1989年)でしたね。

う~ん、通常遭遇し得ない素材を組み合わせて、柔軟さと硬質感が同居して、しかも硬い素材が隆起することによって独特な空間が生ずる…。面白いですね。ベッドが別のものに見えてきたりして…。《とはいえ》のあとに続く世界を想像させられますね。