封印した芸人の血がさわぐ
〜研究者のクリエイティブ〜
●今岡先生
○関根さちこ(インタビュアー)
Q-1 早稲田二文の演劇ご出身だそうですが、大学で中心として学んだことはどんなことでしたか?
●大学の頃はこれを中心に学んだ!というよりも寄席演芸研究会のサークルに夢中でしたね。
本当に勉強をし始めたのは大学3年の終わり頃卒論を書き始めてからです。
◯卒論はどのようなテーマをお書きになられたのですか?
●「初代 林家正蔵についてです
原稿用紙100枚くらい書きましたね。
落語はアマチュア仲間の間では上手でしたよ。大学に入る前はプロの落語家になるか迷いました(笑)
(右画像参照)
●これ先生ですか!?笑 てやんでい しゃらくさい?笑
Q-2 どうして落語家にならずに大学進学を選んだんですか?
●自分には才能がない と諦めたんですよね。
私の憧れていた師匠に金原亭馬生(きんげんてい ばしょう)という人がいるんですが、
その人のような いわゆる職人的な、落語に憧れていたんです。
でも自分は小さい頃から入門しているわけでもない、どうしても落研くささと言うのでしょうか。
そういうのが抜けなかったんですよね。だから やはり落語家の道は選ばなかった。
でもそばにいたかった。だからそれが学べる早稲田を選んだのです。
そして学んでいるうちにだんだん研究が面白くなっていった。
それで大学院にまで行きました。
Q-3 大学院で学んだ研究の面白さ とは?
●そうですね〜。まず、本気で落語を勉強していくには 歌舞伎知識も必要になっていくし、
そうなるとまた今度は浮世絵の知識も必要になっていく。
落語として残らなかったもの、例えば講談としてだけ残った作品なんかを調べなくちゃならない場合もある。
そうやっているうちに落語を中心に派生していく研究の広がりの面白さ
というのでしょうか。そういうものに出会い、そのまま今に至っているような気がします。
同じ作品でも落語だと長いセリフが講談ではさっぱりしていたり、
逆に歌舞伎なんかで音と一緒になったりすると、それぞれのジャンルの特徴が浮かびあ
がったり、発見があったりと、面白いんですよね。
Q-4 自分で古典芸能の脚本を書いたり、舞台を制作したいとは思ったことはないのですか?
●ない!笑 今のところは、ないですね。
というよりは「研究論文」を書くことで私の創作欲は十分満たされるのです。
細かい事実を積み重ねて、資料を分析して、その上にさらに私なりの発見や、私の意見というか、オリジナリティが付け加えられている。
批評と違って一般の人向けではない分、内輪っぽいんですけれども。
○例えば 批評がアーティストなら、研究は職人よりですよね。笑
●そうですね(笑)批評や研究に上も下もないですが、そういう違いはあります。
○面白いですね。客観的な研究の中に存在するクリエイティビティというか。
そこに研究者の個性が出る。
● オリジナリティでいえば、シェイクスピアだってまるっきり作品をゼロから
作ったわけじゃないですしね。
彼は伝説をもとにして作品をつくったりもしてますし。
古典芸能もそうです。他の作品をもとにして作ったり、それをアレンジして全然違うものに作りかえたりしてきましたから。
・・・・・例えば義経記の中の「義経伝説」が能の作品になると「※安宅」
それを歌舞伎でアレンジすると「勧進帳」、また映画版のアレンジになると
黒沢明の「虎の尾を踏む男たち」となる。・・・・・
Q-5最近はどのような研究をなさっているんですか?
● 「三題ばなしの会」という 幕末の時に起きた庶民の遊びについてです。
例えば俳句の会のようにテーマを決めて小話を競うんです。
例えば「手ぬぐい/ふすま/扇子」とテーマを決めたら必ずその三つを話に盛
り込んでいくという。
その「三題ばなしの会」は何故起こったのか、資料のもとになった出版を行ったのは誰か、そのスポンサーは誰か、そして何のためにか・・と
そういうことを研究しています。でも最近は忙しくてここ1年書いてないんです。
だから手が動かなくなってきてますね。
○論文も毎日書いた方がいいというか、手がにぶくなったりするんですか?
● もちろんですよ。それはなんでもそうですけど、やっぱり普段から書いてな
いと。
○論文って、事実や分析を構成していくので、なんというか書きづつける、と
いうより研究が溜まったら書く、というものだと思っていましたが。
● いや、書きながら思考していくことが多いですよ。書いているうちに
「ん?やっぱり違うな」と意見が変わっていくこともあるし。
書きながら自分の無意識の主張や考えが見つかることが多いですね。
だからまず手を動かす、やっぱり制作モードに入らないと論文は作れない。
Q-6古典芸能と現代の芸能 舞台や数々の作品がありますが、その面白さというのは古典作品と現代作品では違いますか?
●いや、基本的に同じだと思いますよ。現代だからわかりやすい、古典だからわかりにくい、ということはないと思います。
原作を読んでからいくと舞台にす〜っとなじめる なんてことは古典も現代も同じです。
○たしかに!なにかしら事前知識があるとやっぱりすうっと入れますよね。逆に現代の舞台でもいきなり行くとわけがわからない笑
● それに、基本的には人間のドラマというか、そういう筋は変わってないので、古典の作品でも共感できて面白いところがいっぱいありますよ。 古典で笑えるところは現代でも笑えるし、要は見る側の姿勢次第です。古典も現代も 実はたいしてへだたりはないと思います。
「わからないまま楽しむ」っていうのもまた人それぞれですしね。
私なんて退屈だったら興味があって行った能でも寝ますよ笑
○えー!?寝ちゃうんですか!?笑
●寝ます寝ます。笑
Q-5 授業の際に心がけていることなど ありますか?
●「研究成果を反映させること」です。
○でもそれはすごく難しいことですよね。細かい事実の積み重ねた最新の研究をほぼ古典芸能初心者の学生に教えるのは。
●そうなんですよね笑 。でも「教える」というよりは、話にひっぱりこむような感じです。
封印した芸人の血が騒ぐというか、今は教室を舞台として面白く、知的にも面白く、授業をやるというよりは1席やるという感じなんですがね。笑
○funnyでもあり、interestingでもある、ということですね。
●そうですね。
Q-6先生はむさびの学生の他にと早稲田にも授業をお持ちですが、先生の目から見たむさび生と早稲田生の違いは何かありますか?
●むさび生はいつもなにか「つくる」ことを意識しているような気がしますね。
そこに親近感を感じます。 私も論文の制作をしていますから。
それに、私はどちらかというとムサビの空気があっている気がします。
私もいつも授業や研究のことを意識しているので(笑)
○確かにムサビ生は ジャンルは違ってもみな何か「つくる」ことを意識してますね。
それに関して学科間に垣根はないし、アットホームな学校な気がします。
●そう!私もそこがむさびのいいところだなと思いますよ。
Q-7 ムサビと早稲田の授業、研究以外に先生が最近力を入れていること、趣味などはありますか?
●う〜ん、、趣味で古典芸能の研究をしているようなものだから。笑
下手すると常に力を入れてますよ。
ぼおっと本を読んでいて「お!これは授業に使えるかもしれない!」と。 芸人の稽古と一緒で、授業の準備の時間も、そうでない移動時間も常に意識は若干仕事というか、趣味に向いてますね。
ストレス解消に、晩酌のつまみの料理をするくらいで、あとはいつも趣味の時間です。笑
○それって素敵ですね〜笑
Q-8 今後の目標はありますか?
●「いい教育といい研究」を通してむさびを発展させていくことですね。
○むさび意外の場での目標などはあります?
●「きちんとやっていくこと」です。
○きちんと・・・というのは きちんとお礼状を出すとか そういうことですか?笑
●そうです。大事なことです。笑 ほかに、パっと世の中の役に立つもの、というか、フィールドがこれから変わっていくかもしれませんね。今までは研究者同士、内輪のフィールドでしたが、これからは社会というか 一般の人々へ、今まで吸収してきたことを還元していきたいなあなんて思います。
■おまけ・・・■
それからコーヒーを飲みながら先生とある落語家のエピソードを伺った。
教授は大学3年生の時、落語家であり落語の研究家もある先代 柳亭燕路(りゅうていえんじ)さんに手紙を書いたことがあるそうだ。
当時早稲田大学の学生であった今岡教授の手紙にすぐに電話をよこしてくれたそう。
「別荘のほうに遊びにこないか」とのお誘いに教授は舞い上がったという。
そしてのちのち その柳亭燕路さんのご縁できた研究仲間もいたそうだ。
「今となってはよくやったものだと思う。笑」と当時を振り返る今岡教授。
■最後に・・・■
「自分が好きなものに行き当たってばったりして進んで来た道です。何が好きかどうかわからない学生もなかなかいるようですが、じゃあ自分の手足を使って「それを好きかどうか」をまず知らないと。
待っていてはだめです。頭で考えるのはそのあと!まずは体を使って知っていくことですね。
「人生に無駄ヅモはない」
これはとんねるずの言葉なんですが、(無駄ヅモ=マージャンで捨てる牌のこと)
人生には無駄ヅモはない、無駄になるものはない、そういうことをみなさんに伝えたいですね。
何をやっても吸収できる時期です。難しいと思いますが焦らず、好きなことを積み重ねていってください。 自然と続けていける何かにあたるはずです。」
・・・
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助教授●今岡謙太郎 専門分野:日本古典演劇
特に近世末期から近代にかけての諸芸能の交流、
河竹黙阿弥作品の研究。
2003年4月1日着任
早稲田大学大学院博士課程満期退学
共著:歌舞伎オン・ステージ11『天衣粉上野初花』
('97年、白水社)
図録編集・執筆:「没後百年 三遊亭円朝とその時代」
('00年、早稲田大学演劇博物館)
論文:「幕末の歌舞伎 江戸」
('97年『岩波講座 歌舞伎・文楽』第3巻)
「南北の悪 黙阿弥の悪」
('00年『演劇界』第58巻第10号)
「七代目団十郎と歌舞伎十八番」
('02年『歌舞伎―研究と批評―』第27号)
受賞:歌舞伎学会奨励賞
外部団体などでの役職等:歌舞伎学会企画委員
今岡教授の大学生時代

天庵亭写楽斉(てあんでい しゃらくさい)
関東大学対抗落語選手権にて優秀賞を獲得した際の写真。
インタビュアー●関根さちこ 1986年東京都生まれ
文京区立第三中学校卒業
私立 明星学園高等学校入学
翌年 都立新宿山吹高校に編入学
古典芸能論の授業を05'から学ぶ。趣味は料理と読書。
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