留学レポート 4月号
2018年4月25日

芸術文化学科4年(杉浦ゼミ)  伊藤 ルイ

       
 私は、協定留学制度を利用し、フランスのパリ国立高等美術学校(通称:ボザール)に1年間の交換留学に来ています。ボザールは、1648 年に建築物の美術工芸や装飾を担当させる人材の育成のために作られた芸術アカデミーが前身としてあり、現在では、彫刻や絵画に加えて、映画やメディアを専攻など幅広い分野で学ぶことが出来ます。学科は無く、生徒が教授のアトリエに所属する伝統的な教育カリキュラムが取られています。

ボザール内

ボザール内

 芸術文化学科に所属する私がこの学校に学びに来た理由として、「キュレーションを制作から展覧会を通して学び、アートが大きく影響を与えてきたパリの文化と社会の構造を考察したい」という思いがありました。

アトリエの様子

アトリエの様子

 10 月の初め、希望のアトリエのドアに貼られたボロボロの白い紙皿の裏に書かれた面接時間の日時を頼りに向かうとそこには、長蛇の列が出来、いざ中に入ると先生+アトリエの生徒5人 対 自分。学校で、アトリエに所属して制作する環境は、日本で得てきた経験とはあまりにかけ離れ、最初の半年間とても戸惑いました。しかし半年間、2つの工房とアトリエに通い「表現と技術」に向き合った今「ボザールには、最初に、表現・アイディアがあり、それを制作する上で必要な技術を学びに行く」という、日本とは真逆のプロセスだということを知り、そこから様々なアプローチ方法で制作しています。

交換留学生との展覧会にて

交換留学生との展覧会にて

 こうした中、キュレーションを学ぶ私にとって一番刺激的なのが、学内のギャラリーで展覧会がほぼ毎日行われていることです。展示期間約2日間という短いスパンでアトリエ単位、時に学生2.3 人で企画され、初日にはオープニングパーティーが開かれ、生徒だけでなく教授や外部からの一般客も集まり、作品を取り囲み夜まで作品について語り合います。そんな中、私も前期と後期の1月と今月4月に、交換留学生との展覧会を企画しました。前期では、お互いの母語が違い、英語・フランス語が儘ならない私にとって、同等の立場で考えを主張することの難しさ、悔しさを感じました。さらにバックグラウンドが違う交換留学生、アーティスト達から生まれてくる様々な形態の作品、混沌とした中、どのようにコンテキストを持たせ面白い展示が生み出せるかに頭を悩ませていた私は、先生に自分の作品と展覧会の様子を見せると、煮詰まりすぎてしまう私を見透かして、”Cooking without recipe” というアドバイスをくれました。これは、「人の作品、考えから影響されすぎて考え込むのではなく、まずとにかく手を動かして、生まれてくるものから学びなさい」という意味で、一生涯現役アーティストでもある教授達は、独自の感覚や視点から生徒に助言をくれます。後期の展覧会では、2 週間前に展覧会日程が変わり、当日には、やむなく展覧会会場の変更を強いられるハプニングだらけの中で、逆境に強い交換留学生の仲間と無事展覧会を開催できたことは、大きな収穫になったと感じます。

 普段の学校生活では、様々な遊び心や洒落が効いたことが目に留まります。例えば、ダビデ像に食べかけのバケットを持たせている彫刻が立ち並んでいたり、時には、生徒が運営しているカフェがギャラリーやライブハウスになったり、庭では、派手なコスチュームを身にまとった人たちがパフォーマンスを始める光景をよく目にします。そういった遊び心もアートにおける想像力や創造力を感じることができます。
 “Cooking without recipe” は、何事にも通じ、まずは動き、飛び込み経験から学ぶ。これからの残り3ヶ月間、たくさん挑戦していきたいと思います。

MUSABI 100武蔵野美術大学 旅するムサビプロジェクトカルチャーパワー