2014年度 卒業研究・制作 インタビュー

2014年度 卒業研究・制作の研究内容について4名の学生にインタビューしました。
 

論文「ラナはアメリカに帰る―ヒップ資本主義と現代の自然志向」

高島ゼミ 清藤千秋

本稿は、アメリカにおける反逆の精神文化「ヒップ」の過去と現在、未来について、ひいては「ヒップ」を飲み込んだ資本主義と、現代の表象文化全般について、アメリカのミュージシャン、ラナ・デル・レイを通じて述べたものである。
 マーク・トゥエインの『ハックルベリー・フィンの冒険』と、亀井俊介氏の著作『ハックルベリー・フィンのアメリカ―自由はどこにあるか』をもとに、筆者は、「『ヒップ』とはある個人が二つの世界の境界線を越えた時に起こる揺れのことであり、境界線を越えた個人のことを『ヒップスター』と呼ぶ」と定義づけた。もともとは、ヨーロッパからやってきた文明人たちが、無垢な自然の美しさに心打たれ、自然志向と文明志向の両方を持つようになったという、アメリカ人独特の精神性を踏まえた定義である。
ハックルベリー・フィンも、エルヴィス・プレスリーも、エミネムも、みなヒップスターである。この「ヒップ」のエッセンスは時とともに変化し、現在では創造産業を加速させる高度資本主義と一体になり、「ヒップ資本主義」と呼ばれるに至っている。
 ラナ・デル・レイ(1985年–)はそんな「ヒップ資本主義」を代表するミュージシャンだ。古き良き時代の女優風のルックスに物悲しげな雰囲気をまとい、メロウな歌声でラヴ・ソングを歌う。自身のミュージックアルバムに、ホイットマン、ギンズバーグ、エルヴィス・プレスリーを登場させ、『イージー・ライダー』や『ブルー・ベルベッド』へのオマージュをふんだんに取り入れる彼女は、燃える魂を持った反逆者、現代のヒップスターなのだろうか。本稿では、ラナの特異な表現を取り上げ、「ヒップ資本主義」の特質とからめて考察を進める。

作品表現「和菓子について、私は知りたい。」

今井ゼミ 野中志保

「衣食住」の中でも、とりわけ人間の生活とは切り離すことができない「食」に対する工夫や知恵。それはやがて楽しみ、遊び、そしてデザインへと発展して行った。中でも和菓子は日本の伝統文化の1つであり、本来は人々の手で身近につくられていた。現代では家庭でも馴染みが少なくなってしまった和菓子を簡単につくることができるレシピ本を、日本の食文化を伝えるツールとして制作。その中に日本伝統文化としての和菓子の歴史、種類、ルーツなどに加え、素朴な疑問や日常生活の中の和菓子の知識などをコラムとして少しずつ取り入れ、読者の和菓子への知識・関心向上を目指す。また、ゼミ全体のテーマである「地域性」にも注目し、全国各地のご当地和菓子に関する情報や、和菓子屋さんへのインタビューを行い、「人と和菓子」「地域と和菓子」のつながりについても考察している。

作品表現「瞬評—さらば曖昧なる『褒め殺し』評論たち 瞬描—絵でも文字でも『解読不可能』」

新見ゼミ 佐藤碧紗

本書は、美術と言葉の関係について、二つの方法で実験する。
 一つ目は、あたらしい展評をかくこと。会場、会期、テーマ、出展作家、出展作品、見どころなどといった、様々な情報を伝え、それらをふまえた上で展覧会の批評をするのが、展評である。このような、価値ある情報を、徹底的に排除した展評。これが、「瞬評—さらば曖昧なる『褒め殺し』評論たち」である。
 二つ目は、できるだけ何も考えないで描いたドローイングに、文章をつけること。しかし、キャプションにそえる解説文のようなものではない。作家のつくった作品でもなく、解説すべき技法もなく、美術史的背景も、歴史的背景もなく、これといった制作意図もない。ないもの尽くしのドローイングに、どうにか言葉をつける。これが、「瞬描—絵でも文字でも『解読不可能』」である。
 この二つの方法で、美術の文章のあり方を模索する。
 美術と言葉の関係について考えようと思い立ったのは、四年間、芸術文化学科で学んできて、いよいよ、美術のことがさっぱり分からなくなってきたからだ。学ぼうとすればするほど、混乱をきたした。『だんだん馬鹿になってゆく』というタイトルのマザーグースの絵本があるが、まさにそんな気分でおそろしかった。
 そして、美術は「分からない」ということが、四年間かけて、今やっと、「分かった」。「分からない」美術は、既存の文体では、伝わりきらない。書き手も、描き手のように、なりふり構わず書かなければ。作品をできる限り伝えるためには、評論が、作品になってしまうことさえ、恐れるべきではないのではないか。
 これは、美術と言葉の格闘、そして、私と美術、ひいては、芸術文化学科、武蔵野美術大学との格闘である。

プランニング「日本の芸術家が上海で評価される点を調査する。」

杉浦ゼミ ホウ カエイ

中国はこの20年程の間、高い経済成長を継続している。GDPが世界2位なったというニュースもこれを裏付けており、日本人や世界の人々の中国と中国人に対するイメージも、「購入意欲の旺盛な観光旅行者」といったものがあるのではなかろうか。経済発展の20年間に中国の芸術文化も大いに発展した。最近では、2013年10月の「サザビーズ・アジア・40周年記念イブニングセール」で曽梵志の「最後の晩餐」が1億8044万香港ドルで落札された。このような世界的芸術市場で高く評価される芸術作品の広まりを支えるのは、世界各国の富裕層といえよう。
私は日本と中国の芸術文化の交流を実現するための方策を研究するために来日し、大学で学んできた。日本で学んでいくうちに、日本文化の奥深さ、魅力をさまざまな形で体験してきた。このような体験を通じ、日本の芸術家やその作品を中国に紹介し、それが受け入れられて交流が生まれ、お互いの文化の発展に貢献するような展開を生み出したいという風に、来日当初の目的はさらに明確になった。
 現在の中国は発展した経済と日本文化受容の素地のある魅力ある場所である。このような中国だからこそ、今の中国を舞台に文化交流の新しい動きを作り出してみたいと考えた。そこでまずは実際に中国での展覧会を企画・実施し、現地で求められるものをリサーチすることとした。ここで得られたものをベースに、芸術文化交流のための効率的なルートを開拓したいというのが、今回の卒業制作の目的である。
日本の若手芸術家を中国に紹介すること、それは今までに検討してきたような行動を起こすことによってそれなりに達成できる。一人でも多くの人に、日本にはこんなに才能あふれた興味深い作家がいるのだ、ということを伝えられることができれば、それは喜ばしいことに間違いないと思う。

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