Cultre Power
studio & residence 工房絵/Kouboukai

石黒敦彦氏と工房絵を訪ねる
©Aomi Okabe

川村紀子「はだかんぼ」
©工房絵



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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

だいぶ前だが、九州の湯布院にアートと地域のかかわりを調査に行ったとき、森のなかにひっそりとたたずむ小柄な美術館を見つけた。わたくし美術館という変わった名前だったと記憶する。そこで偶然、川村紀子さんの小さな作品に出会った。

多くの展示品の中に、何気なく、ばらばらに置かれていた2,3点。だが一目で同じ作家の作品だとわかった。明快な輪郭線に囲まれたプリミティヴなイメージの形態が、カラフルで、ややマットな色調でまとめられている。たくましさとナイーヴさが入り混じる独特な表現に秘められた、何かを主張する、とてつもない牽引力。まさに、眼には見えない光、音のしない声に、吸い寄せられていくかのように。

川村さんは平塚にある授産施設、工房絵のスター的存在。2007年夏、武蔵野美術大学芸術文化学科で、アートセラピーの授業を担当なさっている石黒敦彦氏と彼の受講生とともに工房絵を訪れた。施設長の関根幹司氏とは2005年にお会いして、インタヴューをさせていただいたが、1年近く渡米したりして不在だったこともあり、訪問の機会を逸していた。

工房絵の表現者たちは、みな溌剌としていて人懐こい。休憩と制作の時間の差がはっきりしていることにも驚いた。極上の材料を使って、思う存分表現する。描いたり、粘土でこねたり、オブジェを作ったり、その集中度がすごい。制作や描写で、やりたいことがこれほど明解な表現者も珍しい。描きやすい小型のサイズを好むので、展覧会の展示に必要な大作に挑むのは苦手なのだそうだ。なんとか大きな作品に挑戦してもらうために、スタッフたちが気を配る。
工房絵の作品に、自由で自然で素朴な風合いがあるのは、ダンボールに描いたり、ダンボールで額縁を作ったりすることが多いためだろう。川村さんの絵のしみじみとしたシックな渋さと豊かさは、ダンボールという素材の白ではないナチュラルカラーとの関係から生みだされたものに思えた。

芸術の枠組みがこれほど広がり、脱構築されている今日でも、日本では「アウトサイダーアート」と呼ばれる知的障害をもつ人々の作品への理解は、まだそれほど深まっているとはいえない。 フランスのアーティストのジャン・デュビュッフェは、これらの表現を含む、いわゆる美術史の主流ではない広義の芸術を、「アール・ブリュット(生の芸術)」と命名した。当時、彼の価値観や主張は理解されず、貴重な彼のコレクションは自国に留まる場所を見いだせずに、スイスに流出した。

生きることと同義の表現は、通常の美意識をつきぬける芸術としての価値観について、創作という人間の欲望や願望について、社会での認知や市場について、静かに問題提起し続けている。
(岡部あおみ)