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studio & residence 神山アーティスト・イン・レジデンス/KAMIYAMA Artist In Residence

ノベルト・フランシス・アタード「ダブル・スパイラル」細部
© photo Aomi Okabe








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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

神山のように地元主導で、毎年国内外から重要な作家たちを迎えてアーティスト・イン・レジデンスを開催しているところはとても少ない。神山は、古来「大栗の里」と言われる四国徳島県の山懐にあり、交通の便がけっしていいとはいえないが、秘境ともいえる深い山奥の美しい町である。頭文字をとって「KAIR」と呼ばれるレジデンス活動は1999年に開始し、90年代末にはじまった武蔵野美術大学芸術文化学科と神山の交流を通して、KAIRの審査に教員が協力するという形で継続され、私自身も2004年と2005年に審査にかかわり、レジデンスの成果を見る機会を得た。

何度も懲りずに応募する熱心な作家もいて、世界各国からの応募者が50倍にものぼる選考審査は容易ではない。レジデンスの幸運なチャンスを得た作家たちはみな、神山からインスピレーションを得て、すばらしい作品を手がけている。2004年度に参加したマルタ島出身のノベルト・フランシス・アタードは、スパイラルをモチーフにした水面に景色が映るセメントの野外常設作品、徳島産のスダチを使った香り高い仮設インスタレーション、さらに神山からすべてのスリッパがなくなったといわれるほど、スリッパを大量に使った作品を実現した。パリ在住の北原愛は、透明なパイプで、人ひとりがやっと通れるような大きさの神山の地図を囲むインスタレーション『Stronghold-Kaminakaya』を常設し、『Moving Territory』では、同じ神山の地図を魔法の絨毯=スケボーに仕立てた彫刻を制作した。江戸後期から町内で制作され続けたという1500点の襖絵の伝統を生かして、シャーロット・マクゴーワン=グリフィンは、障子に映し出される見事な影絵の切り絵を残している。

2005年度の3人の参加者は全員女性に決定したが、内山睦は地域の人々を巻き込む充実したワークショップを実現し、コーネリア・コンラッズは山林に大規模な環境芸術を創り上げ、シャーロット・ブリスランドは神山を題材とした新たな絵画を制作した。「地域・自然環境・ヴィジョン」という今後の神山のレジデンスを象徴する三つの柱が明確化した輝かしい年といえた。  

特別な「ハコ」はなくても、地域の人たちの暖かい熱意と心にしみる美しい自然が、滞在制作をするアーティストたちのエネルギーを倍化させる。残されたすばらしい作品の数々が、コラボレーションの醍醐味を伝え、共生というユートピアを夢見させてくれる場所である。

アーティスト・イン・レジデンス事業を推進するための文化庁からの公的支援などがなくなった2005年以降、実行委員の人々の熱意で、KAIRはNPOの住民グループ、グリーンバレーが運営する事業として位置づけられた。町内各所だけではなく、近隣の山も環境アートの常設スペースとして徐々に開発されてきた。町民や有志たちが、環境整備のために大木の伐採に力を合わせ、新たに開かれたスペースで、シンガーソングライターの奏でる演奏に耳を傾ける。現役で活動するアーティストやミュージシャンたちが、神山を心の故郷として訪れるだけではなく、今では理想のアーツ・コミュニティを夢見て在住するようになった。

神山の輝かしい実践と成果は、過疎・少子化・高齢化へと突き進む日本の地方の現状に、大いなる希望と光をもたらしてくれることだろう。
(岡部あおみ)