artist 鴻池朋子/Konoike Tomoko

第3章 遭難 2005
©Tomoko Konoike









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イントロダクション

2005年1月から2006年5月にかけて鴻池朋子の作品は、非常にゆっくりとしたペースで、まるで絵本のページをめくるように「物語」を紡いだ。2005年1月から開催された東京都現代美術館でのMOTアニュアル2005「愛と孤独、そして笑い」で『第4章 帰還―シリウスの曳航』(2004)を、3月から開催の森美術館「ストーリーテラーズ: アートが紡ぐ物語」では『第3章 遭難』(2005)、5月開催のミヅマアートギャラリーにおいて『第2章 巨人』(2005)を次々に発表した。そして、第4章から第2章の全ての作品の展示に加え、『第1章』(2006)、地図「Chapter#0」(2006)を発表した大原美術館での「鴻池朋子『第0章』―世界はいつも密やかで 素晴らしくて なぞめいている―」の開催。六本脚の狼、漆黒の森、赤いスニーカーを履いた華奢な足、飛散する無数のナイフなどの鴻池の卓抜した「物語る」仕掛けによって、1年以上の長きにかけて、われわれは物語ることを余儀なくされた。

作品タイトルに「章」という文字が付けられることで、作家が意図した「物語」の脈絡以上に、それが外部からの触発か、または無意識の欲望か、作家の意識と共感できたという虚構の喜びなのか、「物語」の主体を作家より譲り受けた私たち鑑賞者は、その起源を知らぬまま「物語」の構成を紐解いていく。さらに、作家のいたずらにより、発表される作品のタイトルは第4章(最終章)から順にさかのぼる。緻密な線によって描かれた事象は、描かれた「物語」としてのフィクションを示唆しながら、謎解きの一助になるどころか自らもその終わりを知ることもなく、ひとつの円のごとくつながっていく。

描かれた「物語」の起源は何処に存在するのか。その問いの応えは私たちの日常の中に潜んでいるのだろうか。私たちは鴻池朋子が描く世界へといざなわれる。
(白木栄世)