culture power
artist 淺井裕介/Asai Yusuke
contents

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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
ALL RIGHTS RESERVED.
©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
掲載情報の無断使用、転載を禁止致します。

インタビュー前編

淺井裕介×林絵梨佳(芸術文化学科4年)

日時:2007年12月16日
場所:横浜美術館カフェ

01 はじめての美術館 カクレンボを丸見えにできるまで

淺井裕介(以下:淺井):今回の展示はまったくのゼロからの挑戦で描いて植物を伸ばす期間と最後の1ヶ月は標本の展示という2クールがあったんだけど、僕はやっぱり描き続けたいって気持ちが強くて4ヶ月間描き続けたほうが良かったんじゃないかとも結構思ったりした。けど今回は今までやったことのないことができる機会でもあるし最後に標本メインの展示をやってみました。これまでにやらなかった記録映像などにも美術館の協力を得て挑戦してみたりして発見もあり良い物が出来たと思います。標本というのはこの作品を収穫して(※)別の形に再構成した作品のことなんだけど描いてる時にはもちろんどう標本にしようとは考えてなくていつもその場の思いつきでやっちゃう。今回一番大きな作品は美術館のホールにある大きなオオカミ形の標本でこれは実は裏側が地図みたいになっていて一本のMaskingPlantがどの辺に使われてるかわかるようにナンバーが振ってあって気づけば国境みたいになっている。あの大きい鳥は近づいて見ないとわかんないんだけど美術館中に飛んでいた小さい鳥30匹くらいが中にいっぱい入っていて小さい中の鳥と目が合うと全部見えてくるっていう感じで。そういうのって作りながら発見していくのが劇的で一番楽しい、結果それが自分にとっても無理が無い方法なんです。
(※ MaskingPlantを剥がすこと、搬出兼制作作業)

林絵梨佳(以下:林):あんなに鳥が飛んでたんだ。こういう動物の形で標本をつくるのは初めてですか?わりと四角いイメージがあったので。


横浜美術館「根っこのカクレンボ」での展示 鳥の標本作品
photo:Yuusuke Asai

淺井:初めて初めて。というのもね、いつもは搬出の時だからいろいろなものに追われて作るわけ。そこで今回のような動物の形とか作り出しちゃうと時間かかるから責任者が怒る。

林:早くしてって(笑)でもずっと前からやりたかったんですか?

淺井:うーん、いやそうでもない。期間を与えられたから。4ヶ月間あるならやってみようっていう。空間や状況を与えられてみればこういうことやれば良いんだなって見つかる。ちなみにカフェの標本の展示してある場所ってのは標本一枚一枚が一本分のMaskingPlantを収穫したテープで出来てるんだけど、それらは標本の今展示してある場所にあったMaskigPlantで出来てる。ここは大きな根っこがあったやつだから大きい動物が出来た。もしあと倍ぐらいの壁があれば本当は(元のMaskingPlantの作品)写真と並列して見せたかったんだよね。この樹(MaskingPlant)一本がこの一枚の標本です、って。


同展覧会 美術館内カフェの作品
photo:Ikuko Tsururmaki

林:今回は室内だけですか?

淺井:本当は桜木町駅やみなとみらい駅周辺にも交渉して伸ばしていくつもりだったんだけど無理だった。なんでだろうな?たぶん横浜美術館だけでも十分広いし隙間はいくらでも見つけられちゃう。実は隙間を見つけてもこんなに沢山かけるかどうかは始めてみるまで分からなくてグランドギャラリーの柱とか、このロビー自体も自分の担当の人と交渉してそれから担当者が美術館サイドと掛け合ってくれてある意味勝ち取った場所で。本当はカフェとか廊下とかのはじっこって話で始まったんですよ(笑)最初はそれでカクレンボって名前が付いてたんだけど。

林:確かにもうカクレンボじゃない(笑)。入って来たらすぐ見えますね。


同展覧会 美術館入ってすぐに見えるロビーの作品 柱に蛇の標本作品、地面に狼の標本作品
photo:Yuusuke Asai

淺井:丸見え(笑)。でもここで(横浜美術館で)MaskigPlantを頼まれたらまずこの柱にやるべきでしょう。だから「ここはどんなことがあってもやりたいです。やるべきだと思います」って交渉して。そういうことをしてるとこの作品はどうやら可燃物扱いだとか、ここは展示空間じゃないから何とか法に引っかかるとか、自分の知らないいろんなルールが見えてくる。でも何より驚いたのは美術館の人ってそういうとき交渉中とか難航しているとかそういう細かいこと言わなくてOKになったらやっていいよってそれだけ言う。だから直前までわかんないんだよね。
ポーンと場所だけやってくる、あー、仕事してるなーって感じ。あれはなんだか気持ち悪かったなー。

林:今までは歩道橋とかも自分で交渉してたんですもんね。

淺井:だから自分で育てていった感じだけど、美術館は忙しいし多分いろいろ管轄が違うんですよね。カフェもトイレも、ホールも。それを僕の担当の人がそれぞれみんなに交渉してくれて。でもやっぱりかしこまっちゃうというか、いちいち契約書とか書いてると今まで名前で呼び合ってたのがいきなり甲と乙って呼ばれたりさ。そんなに気にする必要ないんだろうけどやっぱりテンションが下がる時があるよね。のびのび伸びる環境ではない、縮こまっちゃう。

林:そういうことがあってもテンションを保ち続けられるやり方を見つけなきゃならない。確かに有名なアーティストってそういう手を持っていますよね。ヤノベさんのトらやんファイヤーとか普通は美術館の中で作品が火吹くとか絶対ダメですよね。それを彼なりのやり方で説得をしてるんでしょうね。

淺井:こっちが先手を取って契約書作ってサインさせるぐらいの手があれば良いけど。制作プロセスの中でそういう事務的な作業が制作にどれだけ影響するかわかってもらえるような「ちょっとめんどくさいですよ僕は、ゆるゆるだからいろいろ突然変えますよ」みたいな、そこを分かった上で覚悟して一緒に仕事してくださいっていう契約書(笑)でも何よりもまず、自分がもっと先を見る力を養うべきですね・・

02 制作場所を探し求めて 高校から北仲へ

林:淺井さんは高校では陶芸コースなんですね。

淺井:うん、結構長いよその話(笑)。僕は高校入るまで陶芸に全く興味なかった。たまたま中学のとき後3ヶ月で受験っていうときに突然親が横浜に引っ越すことになって、神奈川県にきてどこ行っていいかわかんなくて家から一番近いとこに陶芸コースがある高校があって、あるんだったら入ろうかなって。それで陶芸を始めました。もったいながり精神(笑)。入ってみたら勉強しないでいいのかと思ったら意外と普通科とそんなに変わんないんだけどさ。ただ変わってたのは陶芸に関しては当事神奈川県の高校の中では間違いなくトップレベルで。高校の中に今までの在校生が作った作品が並べられている陶芸館というのがあるんだけど、もうそこにある作品がやばいわけ、本当に渋ーい大きな青銅壷とか、練り上げの花器とかさ、とても高校生が作るような作品じゃなくてあれにはびびった。でもあの部屋何かある度によく見に行ってたなー。本当、みんなに見せてあげたいよ。でもそのためか高校は陶芸部の先輩後輩関係が意外と強くて僕が粘土で動物とか作ったらさ、怖い先輩に呼び出されてさ、どう見ても壷じゃないじゃん。なのにろくろで回してさ、「ブレてる」とか言うんだよ。ブレてる!?(笑) 回転体をきっちり作れないと窯に入れさせてもらえないこともあった。でもやっぱり土いじりは楽しくて今でもやりたいって思う。だからその当時は絵を描こうってつもりは全くなくて。高校二年生の文化祭で先生から突然、壁画を描いてって頼まれて、僕はヤです、めんどくさいからって断ったの。でもあまりにしつこいから手伝いってことで行ったら「ハイ全員集まりましたね」って言われて、僕と先生しかいないの。ハメられた!!と思ったよ。結局それで置かれていた材料ベニヤ板12枚とペンキを使い3.6×6.3mのすごいでかい絵を描いたの。そしたらもーそれが楽しくて。何だこれは!って思った。誰にも怒られないし、当事美術の授業で始めて描いた油絵や粘土みたいに乾かないと次ができないっていう時間的なルールもない。広いからどんどん描けるし。それでその頃陶芸部部長だったんだけど当事黒板に勝手に毎日の目標を書いていた場所があって、そこに「雑巾はきれいに洗う」とか書いていたんだけど、確かなことは忘れちゃったけど「陶芸辞めます 淺井」って書いて、また先輩に呼び出された。当事はすごくせっかちなところがあって、決めたらすぐにやりたいところがあったから。あ、それは今もか。

林:(笑)せっかちというよりは手が止まらない感じですよね。描いてないと落ち着かない?

淺井:もったいないから時間が。何かが生まれてくるの知っちゃってるからね。描いても良いし自分も描ける時間なら礼儀がどうこうのなんて我慢はしない。もしエネルギーをとっといた方が良いならそうするけど。電話とかしてる時になにげなく描いてる絵って面白いじゃない。誰もが知ってるのにどうしてもっとそこに特化させた仕組みの作品を作れないんだろうって思う。

林:そうですね。でも淺井さんの絵は子どもにも人気だし動物とか可愛いけど、TAP2006のときの終末処理場(※)の絵を見て怖いなって思ったんですよ。植物が人間を飲み込んでいくような力が。淺井さんの絵は淺井さんを媒介にして何かが勝手に伸びていくような感じがします。
(※茨城県取手市内で行われた取手アートプロジェクト2006の展示場所の内の一つ、廃墟となった下水処理場の名称)

淺井:いろいろ考えてる自分がいるけど、手は意識から外れていこう外れていこうってしてるんだと思う。その辺が観る人にとって怖く思うのかも知れない、で、その手を僕が見て、あ~~、あっちに描けばよかったんじゃないの、こんなことしたら計画が台無しだって。でも台無しにしたからこそ次の計画が立つわけでしょ。で、また手が壊していって僕が次の計画を立てる。そうしてると最初に思ってた計画よりも一回り大きい計画になっていく。近頃作品が大きくなっている傾向があるけど自分自身は大きいもの作りたいって思ったことあんまないんだよね。与えられた空間や作品の性質自体が大きくなってくからそれに合わせてるだけで。できる事を必死でやってるだけ。

林:描いてるうちにどんどんはみ出していきますよね。どんどん外に、終末処理場だったら外の歩道橋もインフォメーションもという風に。

淺井:はみ出し方ってのは小さい単位でちょっとずつ、継ぎ足し継ぎ足しがいいんだね。要は大きいもの完成されたものって完全に揃ってないと作品にならない。僕のは作品自体がちょっとずつ広がっていく感じ。大きいものを作りたいって思わない自分が一番無理なく人に見せることも出来て自分も面白く大きい物を作ることが出来る。

林:略歴を見ると高校卒業してから4年間制作の場を探し続けてた時期があったんですか?

淺井:結局4年間通ってたの、その高校に。今は子供が減ってきているからいらない教室とかあるじゃん。そういう使ってないような部屋で絵を描いていた。廊下とか壁にもがんがん穴開けて絵とか飾ってた。用務員さんとも仲良かったしある程度学校の活性化になると思ってくれたんだよね。美術高校だから。絵とか掛かってる方が嬉しいみたいで。すごいよ、多分いっぱい残ってる。僕が高校生の頃から描いてた絵とか。捨てられちゃったのも大分あるみたいだけど・・・、それでも結構まだあると思う。

林:見に行ったら残ってますかね?

淺井:見れるんじゃないかな。普通の公立高校だから対応してくれるかわかんないけど。で、さすがに4年ぐらいいると仲のいい先生とかみんな転勤してっちゃうのね。良い加減居づらくなったその時にBankARTが出来た。それでスタジオ借りたりしながら何とか制作場所を探してたら、2005年に横浜のアーティスト共同ビル北仲WHITEの話が来てそこに移って、それで秋ごろに前回の横浜トリエンナーレに合わせて「北仲OPEN!」ていうイベントをやった。あれは結構頑張ったね。

林:そうですね。淺井さんは企画する人ってイメージがあるのはその辺が強いですね。「北仲OPEN!」はどういう発端だったんですか?

淺井:やったことは要は50部屋もあるそれぞれのクリエイターに合同のオープンスタジオをやりましょうってことなんだけど、僕はその中でもともとPoloniumという実験スペースにかかわっていてその部屋で作家5人でのん気にオープンスタジオや企画とかやってたんですね。せっかく北仲ビルの中にもアーティストがいっぱいいるし他のとこもやったらお客さん呼びやすいからと、誰かが言い出して、それで2,3部屋の人たちと一緒にみんなでやりませんか?って聞いたらビルを使ってるアーティスト50組くらいがみんな手あげちゃって。どうすんだよ、こんなの手に負えないよって。当初5組ぐらいで、DM代ぐらいの予算でやろうと思ってたの。それが話が進むうちにすっごく大きくなってみんなからお金集めて、協賛とって予算もウン百万ぐらいになってこれもう遊んでらんないよってなった。結果自分のオープンスタジオなんて全然できなかったからね。それが目的でやったのに。事務局で、チラシを郵送したりプレスリリースしたり協賛企業にお礼言いに行ったり。携帯持たされて他の参加者の対応したり。まぁでも一回ぐらいやっても良いと思ってたし。頑張ったねって周りが言ってくれて嬉しかった。まあもう二度とやりたくないけどね(笑)で存在がちょこっと知られて、一緒に仕事をした人がいろいろ話をもって来てくれるきっかけができやすくなって。本当面白いよね、人の繋がりって。

03 音楽でもダンスでも相乗効果で木が伸びる

林:今回は美術館からオファーがあったと思うんですけど、昔はよくゲリラ的に公共の場、電柱とか道端とかでやっていらしたんですよね。

淺井:今でもそういうのはやりたいと思っている。基本的にこれまで僕は頼まれて断ることはほとんど無くて、きっとそこでも僕がやるべきことってのは何かあるだろうなと思うから。必ずしも頼まれた場所で頼まれたことをやるということじゃないけど。外に描くときは良い路地があってそこにもし自分が描けたらすごい楽しいだろうな、ここに描きたいって衝動に駆られて描いてしまうわけで怒りに来た人にも話せばなんとなくそれが伝わってくれるようでもう少し描いても良いよってなるわけで、闇雲にここだったら絶対ばれないからって、ここに描けるからって描いてるってわけではない。まあ怒られる時は怒られますけど(笑)

林:まぁ分かってもらえないことも(笑)結構ありました?

淺井:最近はそうでもないけど最初の方は自分も良くわからずやってたから怒りに来た人とうまくコミュニケーションとれなくて。最初は相手がマスキングテープに描いてるって気付いてなくて直接壁に描いてると思って怒りに来たことにも気付けなかった。これでも怒られるんだって落ち込んだりして。だいたい今は剥がれるんですよって説明して、それは美術館でやる時も交渉する時も相手の不安を少しでも取り除くように。まぁでも実際結構・・・

林:私も今ここのカフェの壁を見て、いや、でも残るよなと思いました(笑)。

淺井:そういうのは僕は結構楽しい(笑)。壁自体に影みたいな幽霊みたいなのが残ってるよね。

林:取手はエアレーションタンク(※下の写真参照)の方もまだ残ってます。もう下に降りる階段無いから降りれないけど。あれは来年上からだけでも公開できたりはしないのかな・・・


取手アートプロジェクト2006 終末処理場での展示
photo:Yuusuke Asai

淺井:取手の作品から依頼が来ることが多くて、まだ見てないって人もいっぱいいるし、僕そこでイベントをやり残してるんだよね。自分の作品に舞台美術としての機能もあるから毎回イベントもやってるんだけど、取手でやってなかったなと思って。展示公開ってすると大変だけど一日だけイベントやるっていうなら何とかなるかな。見るのは上からで。大勢の人で見るとしたらその方が安全。いつも気が合いそうな人を見つけて声かけて頼むんだけど向こうから来るってことは滅多にないな。

林:今回の横浜美術館でのイベント「―描いてる・みている―」の音楽やダンスの方々はどこで知り合ったんですか?


横浜美術館開館記念日に行われたイベント「根っこのカクレンボ−描いている・見ている」の様子
演奏とダンスとライヴペインティングのコラボレーション
photo:Yuusuke Asai

淺井:ダンスのホソイヒロコさん(※)は僕が北仲でアトリエを持ってた時に違う部屋でやっていて頑張って話しかけて今度展覧会をやる時に来て踊ってくれませんかっていきなり誘ったんだよね。僕ライブとかすごく好きで音楽とか踊りはある意味美術よりも強く影響を受けてる。その場でしか出来ないパッケージされないものだから。僕どんなつまんない音楽でも一見ノリノリになっちゃうからね(笑)。みんなこうやって(腕を組んでしかめ面に)聴いてるじゃん。アレすごいなー、と。自分が一緒にやるのは音楽でも何でもいいんだけど、土とか根っことか植物の有機的な要素を取り入れてる人を見つけてきて。お互いに影響しあわないでやる必要はまずないから、お互いを自分の中に取り込めるような相乗効果のあるような。見る人によってはホソイさんの中にはもう僕の植物が生えているし、その逆もあって彼女の踊りも植物の中に見えてくる。
(※横浜美術館でのイベントの他にも淺井が手掛ける舞台美術でのライヴや展覧会会場など数々の場面で淺井作品と共演しているダンサー)

04 チーム「プロジェクト淺井」結成計画

淺井:最近踊りや音楽じゃなくても一枚の絵を描いてる人でもそういう相乗効果は成立するんじゃないかって思ってる。僕がその人のためにMaskingPlantで額縁作ったりとか。例えばキュレーターとかギャラリストが企画してやるんじゃなくてお互いが自分の作品に合う人を呼んで、個展なんだけどその人の作品の中で別のものをやってるみたいな。中崎透さんの遊戯室みたいなシステムがあると良いな。笑っていいともみたいに、「明日来いよ」、「次は誰呼ぶんだろうあの人」みたいな。そういうのずっとやりたいと思ってるんだけど中崎さんみたいな良い名前がなかなかなくて。自分の作品の中でイベントって相当やってるんだよね。これは早く名前付けないとって思ってはいるんだけど全然思いつかない。超即物的な名前しか思いつかない。「動物型標本」とかだからね。全部誰かにつけて欲しいんですよ。僕タイトルで絶対損してる。みんなすごいカッコいいタイトルつけてるのに。そしたらもっと波及するんだって。アレ見た?みたいな。

林:(笑)これからの大きな課題ですか。

淺井:本当に描くこと以外はだいたい苦手で。付けてくれる人募集。共同制作でもいいよ。僕どんどん作るから名前付けて分類していってくれれば。特にMaskingPlantにしても博物学的にいろんなジャンルが増えてって自分の手に負えなくなってるわけ。この作品ってなくなってしまうものだからちゃんとドキュメントして映像を定点で撮っとくだけでも全然違うよってよく言われるんだけどさ。撮っとくだけって言っても描いてる途中にその作業を挟んだら線がひかれる感じ、そことそこまでとそっから先と。何かが全然変わっちゃう。

林:ヤノベケンジ×青木憲治みたいに撮ってくれる人がいれば良いですね。

淺井:でもその場合もう僕淺井裕介って名乗んないでもいいから。その人の名前でも良いから撮って欲しい。素材のとこに名前入れてくれれば。ユニットみたいのでも良い。それと誰かに観察日記つけて欲しいんだよね。MaskingPlantの観察日記。今回やってたら絶対面白かった。そしたら観察日記でさ、「美術館スタッフに呼び出され、契約書を書かされる。なぜか一日カフェで頭を抱えて帰る。今日の育成45センチ。」とか、あー大変だったんだなーってわかる(笑)

林:それ面白いですね!そうなるとプロジェクトチームみたいですね。映像撮る人、日記付ける人、キャッチコピーとかタイトル付ける人がいて、素材「淺井裕介」みたいな。

淺井:本当にそれができないかなーって。

林:自分でやってる余裕はない?

淺井:ない!出すもん全部出してるから。誰かそういうこと一緒にやってくれる人いたら教えて下さい。今回写真とか映像とってもらったけど、大変だったと思うんだよね。せっかく来たのに何もしない日とかあるんだよ。まぁ今回は撮影日が少ないから一生懸命やったけど、でももっと平坦に上手にやったら絶対面白いと思う。

05 ギリギリプロジェクトの良さ

林:現在西荻窪にあるアトリエの名前(※2)にもなっている「緑の葉っぱ」という作品が生まれたのは桜島アートプロジェクトからですか。葉っぱを笑顔の形にくりぬく作品ですよね。
(※2 現在淺井は西荻窪の小さなアパートに緑のはっぱ工房という名前をつけてシェアしている)

淺井:それは淺井裕介名義じゃない作品で、誰でも出来ることだから、匿名性と、みんなにやって欲しいっていう思いから一緒にやってる。蠣崎誓とユニットを組んで「緑の葉っぱ」っていう名前で出したの。これは誓ちゃんが桜島には白蟻がいっぱいいて、掃除していると集まる蟻の羽で作ったものが花に見えて、そうやって作ったこの作品が自分にはとてもいいものに見えた。笑顔の葉っぱは自分の考案だけど何よりこのユニットは彼女のそういうものを大切に見る視点から始まっている気がする。僕は作ってもなかなか大事にできないところがあるから・・・


白蟻の羽の花の作品
photo:Yuusuke Asai

林:桜島の淺井さんは随分ハジケてましたね。

淺井:そうかな、いつも自分はハジケてるつもりですが。でも桜島は一番楽しくて。両隣が温泉で、しかもただの温泉じゃないんだよ。目の前が海。制作場所も元温泉旅館だから客室もあって帰ったらそこでばったり寝て。起きて階段上がったらそこが制作現場でしょ。飯も近所の人が若い人がいっぱい来て嬉しいからいろいろ持ってきてくれて、最後の方とかいらない服とかも持ってきてくれてさ(笑)。焼酎の文化だから酒もあって。料理作ってくれるスタッフもいた。作家が頑張ってんのに寝てられないって夜中まで仕込みしてくれたりして。遠藤一郎さんてすごいポジティブな作家がいて、旅館の廊下にオレンジのペンキで壁にでっかく「そうだ!俺たちは何でも出来るんだ!」って描いてあって。僕が来たのはみんなより1,2週間ぐらい遅かったから来てすぐそれ見てうわぁ・・・やるしかないじゃんみたいな(笑)すごい良い人で未来のことばっか考えててみんなを炊き付ける力があって、そんなつまんないことばっかしてちゃだめだよ、もっとやろうぜって。そういう空気が一瞬にして感じ取れちゃう空間だった。

林:TAPも桜島も滞在制作型でしたけど全然またカラーが違いますよね。

淺井:どちらも雰囲気がすごい良かったですよね。桜島もTAPも予算ギリギリだったけど。やっぱり頑張ってる人がいる場所って楽しい。仕事だけで終わらせてるんじゃなくて楽しんでやってる人がいる空間ってのはこっちも自分が持ってる以上のものを出してやろうって気になる。桜島もTAPもすごいそういうものを感じて。一つはヤノベさんの迫力がすごかった。だってあんな朝早くから夜遅くまで作業して。で、お酒飲まないじゃん。ヤノベさんとこに選ばれて良かったなーと思うよ。最初は終末処理場?何か怖いなーって思ったんだけど。気の合う人も出来たし、みんなすごい懸けてるものがあったでしょう。労働の対価として考えられるものを単なる制作費に代えたら全然見合わないことをしてるじゃない。でもみんな手を抜かずそれ以上のもの作っている、それが僕は良かったなーと思って。でもそういうのってすごい楽しいけどなかなか続くものじゃないでしょ。それがわかってるからこそ余計に楽しい部分もあって。それを毎度どう安定し持続していくかは無理して考えることはないと僕は思っていて。変に形作っちゃわずに。毎回スリリングに切り抜けられたら本当にいいですよね。

林:今TAPがやってるのは長くは続かないことだけど下手にうまく続くようなやりやすい方法で長くやっていくより毎回繋げるのに必死でやっていく方が面白いと。

淺井:そう、やっぱりTAPとか地元の人とかは長くそこで続けて欲しいと思ってるけど、TAPがやってることってそんな小さいことじゃなくてもっと世界に向けて発表できることしてるんだから。例え無くなっても見た人が持って帰ってるんだから、そこで生まれたものは消えないし。

06 早くインドネシアで泥ーイングしたい

林:インドネシアに行かれてたのは今度の春に展覧会があって?

淺井: 「KITA!!:Japanese Artists Meet Indonesia」ていって、日本とインドネシアの国交50周年で国際交流基金が協力してる、水戸芸の高橋瑞木さんとgrafの豊島秀樹さんがディレクター。泥水で絵を描こうと思って。土が今後自分のテーマになるかもしれないと思ってて前は道路とかに水で描いてたんだけど土を混ぜて描いたら少しの間残るでしょ、でも消える。その身の軽さが良いなーと思って。土はどこにでもあるし、その土地の泥で描けばそこでやる意味もあるかなーって。すごい楽しみ。早くやりたい。TAPの同期では淀川テクニックとSONTONが出ます。他にも八谷和彦さんと、Chim-pom↑とかたくさん出ます。奈良美智さんとかしりあがり寿さんとか・・・あー楽しみだな。

林:メンバーがはちゃめちゃな感じですね・・・

淺井:バカな日本人キターっ!て感じに。

林:でもじゃあそこでMaskingPlantはやらないんですか?

淺井:うん、たぶんやらない。MaskingPlantはまだやらなきゃいけないことがあると思っていていたけど、今回横浜美術館でそれが出来た気がするんだよね。地面にマスキングで根っ子を描いて空間内の全ての樹を繋げたり、大きい動物をつくったり、裏側に分類図を作るとかそういう要素はある作品なのになかなかできてなかったから。次やるとしたら観察日記。こんだけ大きいスペースで4ヶ月かけてやれたら次やってもこれ以上の感じにするのは難しいと思う。MaskingPlant自体には舞台芸術の機能もあるしライヴのステージとかちょっとしたことに使っていくつもり。大きな作品は今は泥とかでなんかやりたいなって思っています。

インタビュー後編

横浜美術館での展示から約半年、インドネシアでのグループ展や遠藤一郎率いるNATURAL HI!!での活動、吉祥寺Art Center Ongoingでインドネシアで得た土の魅力への確信を泥絵で表し、同時に開催された西荻窪FALLでは植物遊びユニット「緑のはっぱ」としての個展で全く違う表情を見せる。今後も目白押しのスケジュールに多忙な中、様々な活動を経ての変化を改めて話を聞かせて頂いた。

2008年6月7日
吉祥寺Art Center Ongoing

07 インドネシアに行ってキタ!

林:インドネシアの「KITA!!」展では横浜の時からやりたいと言っていた泥で絵を描くことを存分にできたと思うんですがそこを経て変わったこととか、新たな展開とかはありますか?

淺井:土の魅力ってのは前から感じてたけど、ジョグジャカルタの土はすごかった。これがあの大きな植物達を育てているんだなって感じ。今回で確かなものを感じた。あれだけのことをやらせてもらえたから自信にもなったというか、栄養をたっぷり吸収できたと思う。


「KITA!!:Japanese Artists Meet Indonesia」での展示風景 ジョグジャカルタの土で描かれた泥絵
photo:Hako Hosokawa

林:あの泥の絵の部屋はどのくらいの期間で完成したんですか?

淺井:20日間。MaskingPlantの部屋も同時並行して。周りのメンバーも強烈な人ばっかりだったから、この中で自分の表現をちゃんと理解されるようなもの作らなきゃって。せっかくインドネシア来て通り過ぎていかれるような作品だったら悲しいから。ちょっとでも足を止めて作品に触れてもらえるようなものを作りたいと思って作ってたけど。泥絵の方がインパクトがすごいけどMaskingPlantの部屋の方も面白い形がどんどん生まれてきて今後に生かせるものが得られたんじゃないかと思います。

林:横浜で話を聞いたときはもうMaskingPlantはお腹いっぱいな感じでしたが。

淺井:あの時は展示も終盤でやりきっていたからね・・・結局あの後もテープはいつもそばにもって歩いているし、まだまだやります。

林:おぉー。インドネシアから影響を受けて作風が変わったことは何かありますか?

淺井:まぁ確実に何処へ行っても影響受けるからね。だからといってインドネシアの模様(バティック)を特別取り入れたとか、インドネシアの植物の模様を描きますとかそういうのじゃないけど・・・。

林:そういう分かりやすい影響ではなくてその場にいることによって生まれる自分のテンションじゃないとできないことというのが影響されてるということ。

淺井:まぁ、土の魅力を再確認してきたって感じ。あと結構やればできるなって。今回に限ったことじゃないけどちょっと無理じゃないかっていつも思うんだけどそう思ったラインを超えてるところまで最終的には来てる。けどもっと超えていきたいね、そのラインは。だいたい限界なんて自分で勝手に言ったり決めたりしているだけで実はそんなにやすやす見られるようなものじゃないのかもしれない。そういう意味では横浜にしてもここにしても大体いつもその自分の方のラインは一応超えてると思うんだけど、でもあそこでもっと頑張ればもっともっと行けたかもしれないなって思う。それがインドネシアのときは珍しく少なかったかもしれないね。

08 吉祥寺、西荻窪での個展同時開催

林:泥絵は色んな色の土で描かれていますが大体その土地の土でやっているんですね。

淺井:僕は絵を描くのって楽しいって感じで表面的にはそれだけで描いてるから、描いてるもの自体に意味は無くて。料理人みたいにその土地のものを使ってますってのが一つあるとそう言えるでしょ。それで余計な気を使わないで済むようになる。なるべく無理をしないで物を作りたくて、作ってるときには何も考えたくなくて、それをするにはどうすれば良いかっていつも一生懸命考えてる。一見限定してるようですごく自由になれるようにっていつも思っています。


吉祥寺Art Center ongoingのシャッターに描かれたドローイング
photo:Yuusuke Asai

林:淺井さんは描いてるもの自体に意味がないというよりは描いてる行いの方に意味が強い。描いてる行為がエッセンスで土地のものを使いましたというのがスパイスで作品として良い物ができていますね。西荻窪と吉祥寺は同時開催ですがその上で困ったことはありましたか?

淺井:どっちかの会場にしかいれない。しかも今回の期間はインドネシアに行ってて出来なかった他のこと(地方の美術館などのワークショップなど)が毎週日曜日に入っちゃって結局どっちもいれてないんだけど。だから今回久々の個展なのに会いたい人に会えなかったのは残念。

林:制作のためにずっと会場にいなきゃいけないのもあるかと思いますがお客さんとのコミュニケーションも大事にしてますね。もくもくと描いてるから話しかけちゃいけないかなーと思うとものすごく一生懸命説明してくれる。なかなかできないことだと思うんですよね。

淺井:僕わりとイメージで見られがちで、まぁだいたい見た目とギャップがあまり無い方なんだけど一点だけ違うのは、あんまり人が好きじゃないんじゃないかってイメージ。飲み会とか人がいっぱいいる中で無言で絵描いてたりするから、あいつ早く帰りたいんじゃないかって思われる。本当はすごい楽しんでるんだけど。基本的に人間は好きみたい。おしゃべりは苦手。

林:早く帰りたくて一人の世界に入りたいから描いてるんじゃなくてみんながわいわい飲んでて楽しいから絵を描いてると。やっぱり楽しいと筆が進みますか?

淺井:そうなの。一方で昔から思うのは展覧会場に作家がいるってのはどうなんだろうって考えてて。落ち着いて見れないでしょ。後ろで観察されてるみたいで。だから僕は敢えて展覧会場にいないようにすることもあるんだけど今回は本当に来れないからいない。そこがちょっともったいなかった。

林:そのインドネシア後に追われてるほかの事というのは?

淺井:すごいよ。今週はイベントが7日間連続であって、一つは新横浜の新羽の小学校で6年生80人と道路に道路用の白線切って大きな植物画を作り焼き付けるんだけどその長さが200m!(下の写真参照)結構大変で土木業者とか警察とかいろんな人と関係しないといけなくて、基本的に僕はまちづくりを担当してる人とやりとりしてるんだけど。で、小学校にちょこちょこ通ったりとか。7月半ばに出来る予定です。


新羽の小学校前道路の作品
photo:2008横浜市町普請事業

林:それはすごいですね。道路なら半永久的に残るでしょう。

淺井:まだどうなるかわかんないんだけどね。是非見に行ってください。今週来週はワークショップとか、ライヴハウスでMaskingPlantを生やしたりとか、ここの搬出でライブペイントと称して切り抜きパフォーマンスしたり、清澄白河での全員展オープニング、全員展イベント・・・

林:でも良いですね。良い具合に埋まっていって。すごいヒマよりは。

淺井:まぁ一つ一つを大切に出来るぐらいが良いですよね。こなしていく感じになるのは嫌だから。僕の場合作品が出来上がってから展覧会するんじゃなくてその場で作るからリスクも大きい。けどそれを楽しめるように、なるべく考えないで良い方法をずっと考えてたから今のスケジュールでも何とか出来るんだろうけどね。それは考えといて良かったなー。あと、困ったことというのでもないけど吉祥寺 西荻窪同時開催って宣伝したら効果倍増かと思ったんだけど意外とそうでもない(笑)客層が違ったのか全員両方行く感じになるかなと思ったけど宣伝に関しては僕が苦手なので・・・


西荻窪FALLで個展を開いた植物遊びユニット「緑のはっぱ」の葉っぱを笑顔の形にくりぬく作品
photo:Yuusuke Asai

林:近いのに見ないともったいないですね。全然違いますからね。淺井裕介と緑のはっぱでは。

淺井:うん、全然違う。なのにどっちも個展っていうのが個人的には良かった。もうひとつぐらい新ユニット組んで3個同時開催。あいつ個展やる度に他でも個展やってるって。一個ずつ増えてったらおもしろい(笑)

09 GO FOR FUTURE! そうだ、伊勢へ行こう

林:清澄白河のmagic room?でやる「全員展」は桜島で一緒だった遠藤さんの主催なんですね。

淺井:もうすごいことになってる。才能、国境、立場、有名、無名、貧富に立場一切関係無しで、作品のジャンルもサイズも好きなだけやってくださいって展覧会だから、石で出来た800kgのエイの彫刻が真ん中にどーんとあって、隣に吉永ジェンダーって自分大好きな作家がジェンダーゴーラウンドっての作っちゃって、直径1mぐらいの自分のパネルがジャンプしてんの。その周りに小さい自分がいっぱい赤ちゃんあやすベッドの上でガラガラ回るやつみたいなのにくっついて回ってんの。それだけでカオスでしょ。エイとジェンダーゴーラウンドだけで。

林:(笑)magic room?ってそんな広くないですよね?

淺井:狭い(笑)それで僕がもう泥絵やっちゃったから3人でそのボリュームだからあと47人・・・・今のところ誰一人として小さい作品作ってこない。すごい主張してる。うん、このままはちゃめちゃになればいいなー(笑)小さいのは今のところ誓ちゃんぐらい。もともと小さいものが好きな人だから手のひらぐらいで納まる小さいパン屋さん作ってたよ。パンも本当に食べられる。ガリバー気分で味見したけど美味しかった。

林:淺井さんは美大で美術教育を受けてないというのは、遠藤さんとかもそうですよね。美大を出てない人たちの活動は元気ですね。

淺井:よく美大出てないとか言うと「行かなくて良かったね」って言われるけど、僕(ら)はもう本当に行けるものなら行きたかった。入り方がわからなかった。入るための勉強とかタイミングとかお金とかそういうことだけど。まぁ何が羨ましいってあの会話の仕方が「何美?何科?何々先生」ってぽんぽん出てくるじゃん。ネットワーク、良いなぁって思う。あと学食(笑)僕今でも何かのついでに大学とか行ったら絶対学食いく。卒業したらわかるよ。図書室とか。ゴミ捨て場とか。楽しそうだよね。美術教育受けてない人が元気っていうよりはあっちに入れないから固まっちゃうだけで。意外と学生たちは忙しいんだよね。いつも課題がって言ってる気がする。そのうえ学生だけで展示とかしちゃうから僕らとしてはもっと仲良くなりたい。本来なら学生が一番面白いと思うから。仕事で作らなくてもいいし時間もパワーもあるし。でも意外と学生に呼びかけるとみんな忙しい・・・。

林:そうですね。課題に追われて制作してるから、作りたいという気持ちより作らなきゃといって作ってるから辛いという話しは良く聞きますね。昔はきっと学生じゃないとできないようなことをやらかしたりしてたのかもしれないけど今は規則が多い。昔こういうことがあったからこれはダメとか。そういう意味でも美大行ってない人って自由にのびのび・・・

淺井:違う。確かに自由にのびのびやってるけどそれは覚悟の違いだと思う。美大に行ってる人って厳しい言い方かもしれないけど思い出作りに見えないこともない。僕らはもう曲がりなりにも外に出ちゃってるから、思い出にしてたまるかってとこがある。実験できて良かったねでは済まされない。次に繋げないと次がないから。まぁ美大の学生とはもうそんな接点があるわけじゃないし知らないんだけどね、実際のところは。ただグループ展とか見てるとそういう人もいるなって思う。もちろん中にはすごい、こいつ本当に20歳そこそこかって感じの人もいっぱいいるけど。

林:美大に入ってることで安心してしまうことは多いですね。

淺井:やっぱアーティストって危機感が大事なんだね、きっとね。一郎さんなんかものすごいと思うよ危機感が。あの人は自分個人じゃなくて人類の危機感を感じてああいう表現だから。俺たちの未来は明るくて光り輝いてるぜって言いながら何考えてるか時々計り知れない。

林:遠藤さんは(ガンダーラ映画祭での森ビルにぶつかり続ける映像作品で)壁があるからぶつからなきゃというのは映像見てると、この人本気なんだろうな、ってのが伝わります。

淺井:一瞬でそこが分かっちゃう表現ってすごいよね。本人がやってきて喋った時にすぐに生ぬるい感じで伊達に愛とか未来、平和って言ってないんだなっていうのがわかるすごさ。僕らが共通してるとこは作品はパッと見、素人っぽいんだけど本人を目の前にすると作品の理解が正確に伝わる。子どもの絵に思われたりするんだけど、話せば伝わるところがあって。それって作品が自立してないんじゃないかって話にもなるんだけど。福岡とかインドネシアでそれは特に感じた。少し話せば「あ、この人本気だ」って。ただその辺の人かもしれないって見えがちなんだと思うんだよね。それはそれでその通りだし、その辺そんな深く考えたことないからわかんないけど。

林:本人とワンセット。作品だけで自立する必要はない、というのも作風のひとつですね。NATURAL HI!!の活動ってGEISAI以外には何か活動してらっしゃるんですか?

淺井:GEISAI以外にもずっと続けていくと思うよ。今「月刊NATURAL HI!!」ていうのを毎月出してて裏表紙の今の作家や美術を紹介していくコーナーで今回のがインドネシアの僕の泥絵のポスターになってる。富士山の奴が創刊準備号。今回の「全員展」もNATURAL HI!!企画だし。毎週日曜日の加藤愛ちゃんの秋葉原ライブペインティングもそう。最近では未来美術学校というのも始まっているみたい。いろいろ企画立ててはHPで告知したり口コミで広がったりして。みんなで向かっていけばいいんじゃないかな。一郎さんの言う未来の方へ。

林:ちなみに今何人ぐらいで活動してますか?

淺井:こないだのGEISAIの時の8人は何だかんだで集まってたけど。でもぼくらはいつか段々忙しくなって離れてく友達みたいに今そういう瞬間があるだけでずっとこれが続くとは思ってないと思う。それはそれで良くて入りたい人はどんどん受けいれていくんじゃないかな。

林:遠藤さん主催でもう何度もやってるみたいですが伊勢神宮ツアー(※)は行かれたんですか?
(※遠藤一郎の住居兼乗用車、未来へ号で三重県の伊勢神宮をめぐるツアー)

淺井:僕は2回。朝5時に着くやつね。


遠藤一郎の愛車、未来へ号でNATURAL HI!!の集合写真

林:何か変わりました?

淺井:もう全然変わったよ。あれから僕も伊勢伊勢って言ってるし。良いものって何?って聞かれたら伊勢って答える。だって1600年間20年ごとに全部作り直すんだよ伊勢神宮って。本殿だけじゃなくて橋とか鳥居とか中にある神宝とかも全て新調する。一郎さんからの又聞きが大変でわざわざここで僕なんかが説明するようなことじゃないけどあえて言うと本殿の横に同じ大きさの敷地があって20年ごとにその敷地に新しい建物を建て直して、その繰り返し。それが遺跡じゃなくって当然のように生きてるんだよ。20年ごとにやるから宮大工がちょうど技術を伝承できる。50年60年だとおじいさんになっててもう伝えられないけど2回ぐらいは作れるわけ。前、若かったのが今度棟梁になって教えられる。天照大神が毎朝食べるという鯛も毎回漁師が持ってきて、食器は一度使ったら二度と使わないから毎回陶芸家が陶器持って来て。建て替えのためにはまず森を育ててるし。だからただそれがあるだけじゃなくてそれを生活の糧にしてる人がいるし、ものすごく多くの人がそこに関わっている。人間の信じる力を使ってみんながクリエイティヴになってる。ものすごい生きてるでしょ、モノとして。そういう美術作品ってないでしょ。作っちゃったら終わり。

林:そうですね、普通は古くなれば古くなるほど価値が高くなる。とっておけば大事にされるところを20年ごとにぶっ壊してしまうってすごい。

淺井:ものすごいエコロジーじゃないでしょ(笑)当然だよね、未来にずーっと繋がってくんだよ。でも2回だけ途絶えたことがあって、それが応仁の乱と第二次世界大戦なんだって。それがなかったら1600年前の伝統が続いてたのに。応仁の乱って自分の生活の中で意識したことないじゃん。でもそれ聞くと応仁の乱めーって思うんだよ(笑)

林:(笑)めちゃくちゃメッセージがこめられた場所だったんですね。

淺井:うん、伊勢で売って売ってるお守りの中に前の本殿の木を削ったのが入ってる。柱とかも別の伊勢関係の神社にいってそれで鳥居を作ったりとか、その循環がどこか僕の作品と似ている。マスキングテープ剥がしたのを捨てられなくて標本にするとかね。ちょっとだけ通じるものを勝手に感じたりしてる。すごいよね。人間が作るものの中でそれだけの人を動かす力ってないと思う。500億円ぐらいかかるんだって。半分ぐらい寄付金でやるんだって。

林:うわー!

淺井:昔は多分お金とかじゃなかったんだと思う。でもそれをずっと残していける国はいい国だと思う。

林:素晴らしい。

淺井:素晴らしいでしょ。次の式年遷宮が5年後だから。5年以内に見ておいてまた5年後見に行けばいいと思う。そんな何回も見れないからね。

10 絵描く、絵描くとき、絵描けば

林:淺井さんは「絵描き」という肩書きを使われてるんですけど「アーティスト」との線引きっていうのはどうしているんですか?

淺井:たまに作品の中で音を出したくなって音楽とか装置を作りたくなるんだけど、今は絵を描くことだけでいけるところまでいきたくて、でも「アーティスト」だとインスタレーションとか写真とかやっちゃいそうな気がする。それに「画家」じゃなくて「絵描き」って動詞っぽいでしょ。絵を描いてるって行為、それだけでできるだけやってみたい。「絵描き」なんて奇をてらいすぎてるから「アーティスト」にしなさいって言われることもあるけどそんなに特別な名称じゃないしね。

林:自分への戒めの意味もあり、「絵描き」と名乗っているわけですね。でも淺井さんにはそれがすごくしっくりきますね。

(テープ起こし:林絵梨佳)