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museum 広島市現代美術館/Hiroshima City Museum of Contemporary Art
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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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インタヴュー

竹澤雄三×岡部あおみ

学生:江上沙蘭、岡田江利香、鈴木さやか
日時:2001年
場所:広島市現代美術館

01 未来を創る、思考する、現代美術館を建てたらどうか

岡部あおみ:広島市現代美術館の建設プログラムは、 どのような形で始まったのでしょうか?なぜ現代美術にしぼったのかということからお聞きしたいと思います。

竹澤雄三:ご存知のように広島市にはイサムノグチさんの平和の橋があるでしょう。1950年当時、変わったセンスを先取りしたような橋が出来て。それから原爆で広島の街が崩壊してしまって、新しい街創りをしよう、という時に市内に丘のような形をした緑が豊かな比治山が残っていたんです。それは国有地で何の伐採もしていなくて、本当に自然が豊かだったんですね。そこをどういうふうに活用しようか、と言うときに、今の広島の新しい街創りにオーバーラップする、未来を創る、思考する、現代美術館を建てたらどうか、というのがオープンの10年前からのアイデアです。

岡部:それは1980年ですね。この頃から現代美術館のアイデアが生まれてきたのでしょうか。

竹澤:それはやはり、街のほとんどが破壊されてしまったから、逆に本当に新しい街創りをしたい、ということに合わせて、美術館の建設ブームに関わっているんでしょうね。



© photo Aomi Okabe

02 美術館は特殊で、特別な扱いを受けています

岡部:具体的な管理運営はどうなっているのですか?

竹澤:美術館がオープンすると同時に、管理運営は広島市が出資している文化財団に委託しています。建物の建設と作品収集、購入については広島市がやっています。展覧会や、その他の運営については、財団が企画立案して実施しています。

岡部:広島市は他の広島市立の文化施設にも、文化財団を通して運営費を払っている訳ですね。人件費や冷暖房費などの施設費も含めて、予算は一貫して、全部一緒に支払われる訳ですか?

竹澤:そうです。ほぼ全額広島市に頼っています。事務局の文化事業部があって、その下に文化センター等の各施設があるのですが、美術館は特殊で、特別な扱いを受けています。理事長の直属になっています。だから、美術館長は理事長が兼務しているのです。だから美術館が独自の理事会を作って美術館を運営している訳ではなく、財団にくっついているんですね。

岡部:美術館としてのニーズの面で、独立していないと、やりにくいことはありませんか?

竹澤:それはありますね。例えば小企画を運営しているスタジオミュージアムの企画モノは、補助金でやっているのですが、補助金というのは区民文化センターなども同じようにお金が出されています。僕らがスタジオ企画でどんなことをやっていようと、区民文化センターがなにをやっていようと、同じ金額でやっているから僕らだけ増やしてよ、という訳にはいかないんですよね。例えば他からお金を貰ってきても、財団に一度入ってしまう。美術館独自の財団なら美術館に入るのに、そういうふうにはなっていないんです。



© photo Aomi Okabe

03 予算はどのくらいですか?

岡部:他の文化施設と一緒なので保護されているという面はあるかもしれませんが、自由がきかないわけですね。予算はどのくらいですか?

竹澤:人件費を入れたら6億円位なのですが、来年は10%カットですね。

岡部:企画展のお金もここから出るのですね。

竹澤:そうです。6本で年間1億3千万円ぐらい。

岡部:6本だと各2千万円強ですから厳しいですね。

竹澤:それにあと、コレクションの方が2,3千万円ついていますね。 ・市議会に言って、答弁をする




© photo Aomi Okabe

04 市議会に言って、答弁をする

岡部:少ないですね。創立時のコレクションの購入費はどれぐらいあったのですか?

竹澤:購入費は18億円。準備段階では20億円ありましたね。一番高かったのは入り口にあるヘンリ・ムーアのアーチで8千万円弱でしたね。我々は、日本の現代美術を一生懸命どうにかしようと思っているんですよ。日本の現代美術の流れをコレクションとして築きたいという…。しかし、なかなか現代美術は理解されにくいので、市議会に言って、答弁をするなんて事もあります。

岡部:今までどういう事でありましたか?

竹澤:主にはお金の事なのですが、ヘンリ・ムーアの8千万弱のアーチに対して、俺だったらあのブロンズのアーチを5、600万円で造ってやる。8千万円は高いと言われたことがあります。でもあの作品を今、売ったら、2億円、3億円にはなる作品なのに…、その辺のズレですよねぇ。やっぱり税金を使っているという事は、難しい問題があります。

05 学芸員の目が大切

岡部:コレクションの方針は変わってきましたか?

竹澤:傾向は変わってきました。1つには世代が変わってきた事と、もう1つは購入費がそんなにないから…。最近もロバート・モリスの作品がオファーされたのですが、今年の購入費の総額が2千300万円しかなくて、モリスに2千万円を使ってしまうと、もう何も買えないんです。それはある意味記念碑的な作品ではあると思うけど…。学芸員の目が大切ですよね。ちゃんとした見識と目を持って評価すれば、古い作品でなくても、何十年かたてば、それはきっと記念碑的なものになると思うんですよ。そういう方向で、学芸は鑑識眼を高めた方がいいですね。有名な作家だからといって記念碑的なものというのではなくて、新しいところで見つけるべきではないかと思いますね。

岡部:大型の作品で、絶対に欲しいという作品があって、それが購入費以上の値段の時はどうなさるんですか?ローンとか(笑い)

竹澤:それは役所というのは、単年度決算なのでできませんね。でも美術館は、役所のルールだけでは運営できないものがありますよね。5年、10年と継続した収集をするところだから。あと、予算が余っても持ち越しもできませんしね。

06 たくさんのハンコが必要

岡部:美術館の活性化を考える場合、人事が大事ですよね。

竹澤:そうですね。日本の場合は美術館の中に人事権があるわけではない。学芸員の働きが悪いからといって、公務員なので辞めさせる事がないから、活性化というのが難しいですね。あとお金にしたって、物事を行うときの責任問題にしたって、役所というのはたくさんのハンコが必要なのです。展覧会をやろうとしたら、ここの課長、そしてまた次の課長…というふうに最終的には20個ぐらいになるんですね。

岡部:何か1つのことをするのに、すごく時間がかかるのですね。そんなにたくさんの人のハンコが押してあると、責任の所在がわからないですね。

竹澤:そうですね。

07 非常に刺激的で楽しい

岡部:学芸員は現在何人いらっしゃるのですか?

竹澤:減りまして6名です。今年(2001年)の4月に7名になる予定です。

岡部:学芸だけ全員、専門職になるのですか?

竹澤:いえ、そうではないです。学芸のほうに今1人…、2人…、嘱託職員が入っています。

岡部:事務系の方は、市の職員の方がきているのですか?

竹澤:この辺がまたいろいろなんですが、…過渡期なんですね。今までは市に採用された人が財団に派遣されるわけです。100%派遣職員としてやっているわけですが、だんだん財団雇用の人がでてくるようになりましたね。今はもうほとんど、少しずつ入れ替えて、将来は財団雇用の職員にしようとしているんですね。

岡部:待遇が違うのですか?

竹澤:ちょっと違うんですよね。年金とか給与表が。市の方が財団よりも高いらしいです。

岡部:結局、公務員とか終身雇用の職員を減らしてゆくというスリム化、エージェンシー化の方向ですね。それはいつ頃から始まったのですか?

竹澤:オープンの頃からその声は聞いています。でもこの5、6年ですね。財団に施設が20数カ所ほどあるから、そこを職員はグルグルまわるんです。僕ら学芸だけはずっと居ます。僕がいつも言うのは、美術館にも美術館行政というのがあって、事務の方にも美術館専門の事務があるんだぞって。でも3年ごとに担当者が変わってしまいます。

岡部:最近は現代美術が好きな人が増えていますし、子供達も美術館に来るようになってきて、これから現代美術の領域もだんだん良くなると思いますけど、あと10年は待たないとなりませんねぇ。多少状況は良くなってきていませんか?

竹澤:それはあると思いますよ。例えば広島には3つ美術館があります。ひろしま美術館は印象派、県立の美術館はどちらかというと近代の立場でして、雰囲気的に現代美術館に来ると、非常に刺激的で楽しいと言ってくれる人もいます。

岡部:金沢にも現代を中心とする美術館ができますし、熊本にもできて、現代を手がける公立美術館のネットワークを作れれば、展覧会なども一緒にできる可能性が増えますね。

竹澤:そうですね、頑張って欲しいですね。
  (テープ起こし: 平林悠紀子)


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