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museum 発電所美術館/Nizayama Forest Art Museum

青木野枝 「空の水」展 2004
photo:Aomi Okabe









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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

 風の便りで、おもしろい美術館があると聞いていた。青木野枝の個展を開催している発電所美術館を訪ねて、金沢21世美術館で開館展を見ようと、富山石川県の旅の予定を立てた。学芸員の長縄さんとインタヴューをしていた間、同じようなスケジュールでめぐっている宇都宮美術館館長たにあらた氏をはじめとする美術関係者たちにお会いした。今後は発電所・金沢21世紀アートツアーが増えるかもしれない。いえ、増えてほしい。
 驚いたのは、ポツンと平野に孤立しているように見えたこの美術館に、学校帰りの中学生などが気軽にやってきては、中二階で楽しそうにおしゃべりをしていたことだ。まるで自分たちの遊び場みたい。いい雰囲気だった。しかも美術館の日誌にはちゃんと個展の感想を書き入れている。中学生以下は無料だからとはいえ、こんな常連リピーターをもつ美術館はハッピーだろう。 倉庫や銀行を改装したアートスペースは日本でも見られるようになったが、発電所を改装したところは珍しい。産業革命を主導した英国で、レンガ造りの火力発電所をテートモダンに改装したのは、シンボリックな産業遺産の保持を兼ねた英断だった。入善町の発電所美術館の場合も、町長がよく遊びにきたという町の記憶を担った場であり、テートモダンと違って、導水管や発電機などを残したために、荒々しいまでの歴史の断面が生きた「特異な場」となった。 美術館やギャラリーのニュートラルなホワイトキューブと違って、作家たちは、機能的な空間だった建築の特性に正面からぶつかりながら、歴史的で文化的な多様な意味を五感でとらえていかねばならない。作品をねじふせてしまうほどの異質で強靭な空間とどう対話していくのか。新作を考案する作家にとって、ここほどチャレンジングな場も少ない。作家とともに、まさに1回かぎりのアドヴェンチャーを生き続ける謙虚な長縄さんも、きっと根は冒険者なのに違いない。 発電所美術館のある下山芸術の森では、美術館の上方にそびえる眺めのよい丘に、作家が滞在できるアーティスト・イン・レジデンスの宿泊機能、作業場としてのスタジオ、レストランなどの付帯施設が兼備されている。じつに理想的な創造と発表の場である。 これからも驚くような傑作を生み出す「特異なスペース」であり続けてほしい。芸術の森の実験的な活動に、声援と喝采を送りたい。
  (岡部あおみ)