Cultre Power
mecenat スパイラル/spiral


















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イントロダクション

さすがワコールの初代プロデューサー、尾崎宣之氏の語りにはなんともいえない味がある。
塚本幸一が戦後設立したワコールの企業精神にのっとって、「文化の事業化」をめざしてオープンした複合文化施設がスパイラル。また、本社を京都にもつワコールは、1978年に京都服飾文化研究財団(KCI)を設立し、1万点に及ぶ服飾コレクションを形成するとともに、すぐれた研究と企画公開の核として機能している。

スパイラルは表参道を下って青山通りを右に折れると、すぐに眼に入るおしゃれな建物で、槙文彦による設計。この青山のランドマークには、どこかほっとさせてくれる包容力がある。中心のメインスペースはカフェ・レストランだが、周囲のコリドールと奥の吹き抜けの大空間がギャラリーになっているために、日常とアートやデザインの境界がなく、開放感があるためだろう。
尾崎氏によると、スパイラルにはいわゆる独立したテナントというものがなく、みな業務委託か直営で、ギャラリー、ホール、ショップ、カフェ、レストラン、ビューティ・サロンなどが運営されている。ヴァラエティに富んだ各分野が、細胞のように連関し、有機的な全体性を保っている稀有な場所だ。

1000 万円を若手のアーティストにプレゼントして、大型のアート作品を実現してもらうという夢のようなシャチハタの「ジャパン・アート・スカラシップ」を提案したのも尾崎氏。だが、アートの支援ばかりに力を入れれば、マネージメントは苦しくなり、その反対に傾くと、めざす理想のライフスタイルへの貢献が貧しくなる。こうした微妙なバランスを実践してきたスパイラルの軌跡が尾崎氏の人生行路とかさなっている。

言葉につくせない苦労話もあるのだろうが、名プロデューサーの言葉の端々で、もっとも光っていたのは、ダムタイプなどを初めとするアーティストたちへの無限のリスペクトだった。
(岡部あおみ)