Cultre Power
mecenat 資生堂ギャラリー/Shiseido Gallery
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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
ALL RIGHTS RESERVED.
©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
掲載情報の無断使用、転載を禁止致します。

インタヴュー(前半はこちら)

11 予算額はかなり大きいのですか?

岡部あおみ:ところで掛川のアートハウスは有料でしたっけ。

樋口昌樹:無料です。

岡部:では、運営費その他、企業文化部が持っている予算額はかなり大きいのですか?

樋口:大きいかどうかはわかりませんが...。

企業文化部課長故西村彰:例えお金を取ったとしても、普通の美術館でも企画展だと入場料は総経費の1割くらいですよね。

岡部:いろいろあって、企業や私立の美術館、個人美術館などで、50%ぐらいまでいくところもあります。経営の仕方にもよりますが、公立は大体10%ぐらいでしょうか。

西村:そんなもんですよ。五百円でも千円でもトータルすると大したことはないんですよね。

岡部:イギリスのように、多くのミュージアムが無料というところもあるし。

西村:難しいですよね。でも50%はいくかなあ。

西村:安田火災の美術館でも10%くらい...入場料はそんなもんですよ。まあ、沢山何十万人も入れば別ですけどね。

岡部:で、ここは入場料収入はなしですね。

西村:なし。

樋口:計上利益の1%が目安になっています。芸術文化支援、ギャラリー運営費等すべて含めて1%が一つの目安です。ですから売り上げが落ちれば、当然活動資金も減る。

岡部:それが方針ですね。

樋口:というより目安です。極論ですが、会社が赤字になってもうちの部署の予算がゼロにはなりませんし。

岡部:メセナ協議会が設立した最初の頃、経団連の呼びかけで「1%クラブ」が発足しましたが。

西村:もともとフランスの文化予算が1%っていうところから...

岡部:資生堂の場合は、1%に人件費なども入ってますか??

樋口:いえ、そこまで入れるともっとかかります。

岡部:それに美術館もアートスペースも資生堂の持ちものですよね。

樋口:はい。これを借りていたら、とんでもないです。

岡部:そうですね。聞いたところでは、初台のオペラ・シティにあるICCは家賃がとてつもなく高くて、それで当初の予算枠で続けるのが難しいそうです。資生堂の場合はほとんどが事業費ですね。

樋口:はい、そうです。

西村:展示の会場費を含まないにしても、昔ギャラリーをやっていたときの、年間展覧会費用は7千万円くらい?

樋口:7、8千万くらいです。

西村:アートスペースもそれくらいです。

岡部:予算の他の内訳は...

樋口:メセナとか花椿、すべて含んでますから。

岡部:このカタログ支援制作の予算も数千万あるんですか?

西村:いや、そこまではいきませんよ。

岡部:年間10回、500部で、1千万円以下で出来ますか?

樋口:出来ますよ、B5サイズですから。

西村:チャップマンのときはカタログを作家にもあげようと思ったので、1000部くらい作りました。売るといっても、なかなか売れませんから...基本的に彼等にギャラを払っている訳ではないですし。

岡部:そうなんですか。経費だけ?

西村:経費と一週間の滞在費、航空運賃、作品輸送費...アートスペースでは基本的にそれで出来る人でしかやってなかったんですよ、大変ですから。

岡部:販売などのディーリングはするんですか?

西村:たまに売ることはありましたよ。

岡部:作家に頼まれればやるけど、方針としてはやらないのですか?

西村:私達には売る能力がありませんから。売るとなると、違う努力が必要ですから。顧客を持つだとか、そこまでは出来ません。

岡部:銀座なのでこの辺はとてもギャラリーの多い界隈ですが、ここの観客は他のギャラリーと少し違って若い人がテーマごとに来る、という感じですね。


リニューアルオープン記念展「ex-」から
カチョー,ヤノベケンジの作品
© Tadahisa Sakurai

12 「資生堂、どうしちゃったの!?」

樋口:現代美術の画廊もいっぱいありますけど、資生堂ギャラリーではすごく面白い変化があったんですよ。93年から椿会をそれ以前とは違う、現代美術に変えましたよね。80年代ころから、ギャラリーを借りる人はいわゆる、日展とか創画とかの画壇系のひとが多かったんで、サロン的な画廊というイメージが強かったんです。当時の椿会もそういうメンバーでやっていたし、お客さんも割と洗練された感じがありました。それを引きずったまま90年代になって、椿会のメンバーをチェンジして現代美術にシフトしたんですが、その当時はギャラリーの会場にじゅうたんが敷いてあったんです。谷口吉生さんの原設計で、大きな一枚板のベンチがあって、窓には障子がはまっている。山種美術館の内装に似ている、クラシックで気品のある空間だったんです。  そこにいきなり現代美術を持ってきても合わないので、椿会などをやるときは、床のじゅうたんをはがしてコンクリートをむき出しにして、障子も仮設の壁で塞いでいたんです。そういうときに通常ギャラリーに足を運んでいるお客さんが来ると、「今、工事中ですか。」とか「改装中ですか」って言って、エレベーター・ホールから中を覗いただけで帰ってしまうんですよ。中まで入ってくる人ももちろんいるんですが、「資生堂、どうしちゃったの!?」というような話声が聞こえてくるんです。  そのうちにだんだん展示の中心が現代美術になって、コンクリートをむき出しにした状態が多くなっていって、最後の頃にはじゅうたんを剥がした方が日常のようになってきたんです。すると、資生堂ギャラリーが現代美術をやっているというのが定着してきて、それを目当てに来るお客さんが増えてきて、サロン系の人は減っていきました。そこで面白かったことが、たまたまもとの状態、じゅうたんの敷いてある状態に戻っているときに来た若いお客さんが、「えっ、改装したんですか?」って。僕達はその発言にすごくびっくりしたんですよ。コンクリートのほうを非日常としてやっているのに、こっちのほうが資生堂ギャラリーとして見慣れてきたんだな、と。まあ、そうなるには4、5年かかっていますけど。そういう変化がありました。やっぱり、最初の頃は「資生堂変わったね」とか「なんで資生堂がこんなことやるの?」みたいな声が結構ありましたから、それが変わっていくには4、5年はかかるものなんですね。  今度の新しいビルのギャラリーになると、また全然空間が変わります。ギャラリーも地下にきます。ホワイト・キュービックな空間で、内装は僕らがデベロッパーと話合ってやります。

岡部:何平米ですか。

樋口:床面積でいうと120平米で、前が110平米でしたからそんなに変わりません。けれど今度は地下なんで、天井が約6メートル。だから容積としては倍増です。インスタレーションもやりやすいです。だから、クラシックな資生堂ギャラリーのイメージを持っている人が新しいギャラリーに来たら、本当に打ち砕かれますね。もうだめだ、ついていけない、って言う人と、これは素晴しい、って言う人と極端に分かれると思います。

岡部:これからは現代美術の方針でなさる?

樋口:はい、でも多少近代とのつながりはあると思います。

岡部:すでに決定している展覧会のプログラムを教えていただけますか?

西村:まだ最終決定ではないんですが、最初はカチョーとヤノベケンジ、2つ目が椿会、3つ目がピピロッティ・リストの予定です。

樋口:これが第五次椿会のメンバーの名前です(児玉靖枝、世良京子、辰野登恵子、堂本右美、三輪美津子、山本直彰、青木野枝、イワタルリ、鷲見和紀郎の9作家)。この五次の分もコレクションしていきますが、そうなるとインスタレーションなどは問題が出てきます。たかだか120平米のところに9人の作品を並べますから、1人の作品の空間が広くなると難しい。美術館のグループ・ショウは結局、個展の集積です。一人一つのブースを作るのでインスタレーションの作家も組み込めますが、同じ空間に入れるとなるとやっぱり難しい。だからインスタレーションの作家や映像の作家は個展などでその作家に一番ふさわしい発表形態でやることにしました。

岡部:女性が多いですね。

樋口:9人中7人が女性です。たまたまですけどね。

13 銀座ギャラリー街の伝統

岡部:企業文化部のもとでギャラリーやアートスペースが行ってきた活動に関して、社内では特に問題はないのですか。

樋口:難しいところですね。社内で社員や重役の理解があるかといえば、あまりないです。たぶんどこの企業でも変わらないでしょうが。  1950年代、ギャラリーが一度閉鎖になったときの面白いエピソードがあるんです。このときは経営が悪化してギャラリーを維持できなくなって閉めることになったんですが、そのとき資生堂ギャラリーの企画展として、今泉さんの企画で檀会というグループ・ショウをやっていたんです。それがギャラリー閉鎖後も他のギャラリーを借りて、続けているんです。当時ギャラリーを創った福原信三はもう亡くなっていて、白川さんという宣伝部長が責任者だったんですが、普通はここで絶ち消えてしまいますよね。ギャラリーを創ったひとは亡くなって、代替わりをしている。経営上の問題でギャラリーも閉めた。ここで終わってしまうのが普通だと思うんですが、わざわざ他の場所を借りてまで展覧会を続けている。これは勝手な推量ですけど、やっぱり当時の人々が展覧会をやっていくことに、かなりの価値観を持っていたんだと思います。福原信三の始めた意志がいい形で受け継がれた。だから7年後に再開することになったんだと思います。  それからしばらく経って今またビルが閉鎖になりました。97年に閉まって来年オープンするんですが、このときも同じ様な話し合いをしました。それで、僕がすごく良かったなあと思うことは、ギャラリーを続けるベきかという議題は全然出てこなかったんです。要するにギャラリーはあるべきだ、当然つくる、じゃあどうしようか、と。あまり理解がないとは言ったけど、ギャラリーがあることは前提になっている、という感じです。たとえばここで本当にギャラリーを閉めたら、その人はきっと日本の近現代美術史に名前が残りますよ。資生堂ギャラリーが閉まったときの社長は誰かって。  他社を例に挙げて申し訳ないですが、セゾンのように美術館という母体になってしまうと、すごくお金がかかりますから経営を圧迫してきます。いくら続けたくても経営的に維持するのが難しくなりますが、ギャラリーですから、経営を圧迫するまではいかないんですよ。それに90年近く続く日本に現存する最古の画廊となれば、閉めるのは勿体ないでしょう。反対するにはあまりにも積み重なった歴史が大きすぎる。積極的にギャラリーを応援はしていないけど、やめるつもりもない。継続の意志は感じられました。だから文化支援でも、あまり大きくなくても小さく長くやったほうが勝ちなんだと思いました。

岡部:この界隈のギャラリーでも経営難のところや閉廊してしまったところがありますね。一つには銀座にはギャラリー街の伝統がありますが、今は画廊のエリアが表参道などのほかのところにまで広がってしまっている点もあると思います。

樋口:銀座でも現代美術となると京橋のほうにシフトしてますからね。

岡部:そういう場所のイメージからいっても、この資生堂ギャラリーは大事です。なくなったら現代美術のエリアとして、すごく淋しくなるでしょう。

樋口:そこまで皆が考えているとは思えませんが、結果的にそういう風にも機能しているんですね。

14 一件あたりの支援額

岡部:ギャラリーに来ているお客さんのカウントはしていますか?。

樋口:してますよ。アートスペースで年間平均3万人くらいですね。

岡部:企画展は年に何本くらいですか。

樋口:年間8〜9本ですかね。

岡部:というと、一回3000〜4000人くらい。

樋口:そうですね、一日150〜200人くらいです。

岡部:アートスペースは何平米ですか。

樋口:60平米です。

岡部:ギャラリーは?

樋口:110平米くらいでした。人数はアートスペースをちょっと下回るくらい。アートスペースの方が多かったですね、フリーで入ってくる人もいましたから。ギャラリーは目的を持った人しか来ないので、年間2万5000人くらいでした。

岡部:ギャラリーの企画は年間、何本くらいでしたか?

樋口:最後の頃はずっと企画をつづけていましたが、その前は年間4本くらいでした。月数でいうと4ヵ月くらいが企画で、後は貸しギャラリーの状態でした。貸しのときは借り手によって、客の入り方が全然違いますね。一日100人くらい来る作家もいれば、20人くらいの作家もいる。

岡部:新ギャラリーも貸しスペースとして使用する予定ですか?

樋口:それは検討中です。もともと今までとは違う形態で、貸しギャラリーを再開する予定でったんですが、アートスペースが閉まることになったので、その分企画が少なくなってしまいます。それを考えた上でどうするか、というのは検討中です。

岡部:ギャラリーの貸し料金は?

樋口:前は取ってましたよ。

岡部:その料金は他のギャラリーに比べてどうですか。

樋口:安かったですね。1日7万円ですから。基本的に日曜日が休みの6日単位で、1週間42万円。銀座で110平米をこの金額で借りられるのは圧倒的に安いですね。

岡部:でも今のところ、貸すかどうかはわからない。

樋口:僕としては、ある程度貸しの余地も残しておきたいんです。新しくカタログを作るというのも始まりますけど...

岡部:樋口さんはカタログ支援も担当してるんですか?

樋口:提案したのが僕なので... これは記録を残す、ということと、作家の次のプレゼンの資料をつくることなんだけど、僕達にとっての一番のメリットは、知らない作家が集まってくる、ということなんです。80件の資料のなかに、どうしようもないものもありますけど、この作家、ちょっと面白いんじゃない、というのがあるわけです。

岡部:これまで公募というのはやってないですよね。

樋口:はい。メセナでは作家が直接こちらにきますし、展覧会を組むときは自分で見て回った作家にしますから...こういう募集をすると手元に資料が集まってくる、そういう展覧会を作る側のウラのねらいもあるんです。貸しギャラリーも公募することで知らない作家が引っかかることがありますから。だから貸しの余地は決して悪いことはないのです。でもさっきも言ったようにアートスペースの問題もあるので検討中です。

岡部:ギャラリーは何人ぐらいでやっているんですか。

樋口:ギャラリーが動いていたときは、キュレイションが僕ともう一人、西村のような管理職が一人。アートスペースの方も同じくらいです。

岡部:アルバイトは?

樋口:いますよ。今日も会場にいましたし。

岡部:ボランティアは?

樋口:それはいないです。

学生1:知り合いで企業文化部から助成を受けているダンサーがいるのですが、年間にどれくらいの人数が受けられるのですか。様々な分野があると思うのですが。

樋口:年間だいたい100件くらいです。

岡部:どのような分野への助成ですか?

樋口:ダンス、演劇、音楽...でもギャラリーの関係があるので美術の比重が大きくなりますね。

岡部:一件あたりの支援額はどれくらいですか?

樋口:百万円から十万円までさまざまです。ダンスや演劇ならチケットを買うだけだとか。何百万というのはほとんどないです。上限でも百万円にとどくかどうかくらいです。

岡部:数十万円レベルということですね。沢山の件数を支援するのが方針ですね。

樋口:これは、企業メセナをやっているどの企業も一緒だと思うのですが、単独協賛で一社がまるががえ、というのは何処も嫌がります。何社か相乗りで支えていくということですね。 たとえば助成希望額が300万円とすると、一社50万で6社が支援するというのが増えています。

岡部:応募の仕方は自由でばらばらですか?

樋口:そうですね。きまったフォームはないので。直接来る人もいますし、遠隔地の人は郵送だったり。

岡部:競争率は激しいんですか。

樋口:申し込みは年間200件くらいなので、助成を受けられるのは二分の一ですね。

15 アウトサイダー・アート展

学生2:年間一回アウトサイダー・アート展をやっていると書いてありましたが、今後も続けていくのですか?

樋口:シリーズとしては残してゆきたいのですが、アートスペースが閉まってしまうので、今までのように毎年一本というペースでは出来ないと思います。アウトサイダー・アートの作品はちまちましているものが多いので、今度の天井高5メートル超の空間でどう作品をみせるか、という問題があります。だから毎年はちょっと無理ですね。

岡部:今のザ・ギンザのアートスペースのようなところだとぴったりですね。

樋口:そうなんです。穴蔵のような所のほうがああいう作品は面白い。またアートスペースのような穴蔵的な空間だと毎回いろいろな展示の工夫が出来るんです。今回もコンクリートの仮設の壁を作って、わざと落書きみたいにしていますが、5メートルの壁を塗るとなるとお金と手間が大変です。インスタレーションをやるには今度のスペースは良くなるのですが、アウトサイダーのようなちまちま系をやるのは難しくなります。場の適性というのがありますから。ただ、ああいう展覧会を継続してやっているところは日本ではないので、ここで断ち切りたくはありません。2、3年おきでも続けていきたいと思っています。

16 資金が経常利益の3%

学生3:現代美術の作家に切り替えたという話がありましたが、作品をコレクションしていく上で、代々受け継がれてきた選定基準もあれば、現代美術に切り替えたことで新しく生じた基準もあると思うのですが...

樋口:逆にいうと基準は変えてません。現代工藝展にしても、今振り返ると人間国宝が沢山いる展覧会だけど、始めたときは「中堅作家を集めた展覧会です」とあるように、そのときはまだそんなに評価されていない人達なわけですよ。ただそれがずうっと続いて、後ろからパースペクティヴに見るからそう見えるだけで、基準としては何も変わってないです。今回の椿会にしても、20年、30年して振り返ったときに、彼等が日本の美術史のなかでどういう位置にあるのかが問題なんです。ある種、先行投資をしているというか。後々美術史の中に位置付けられるであろうという期待を持って、今彼等とともに確実に仕事をしていく、そういう意味では基準は変わってないです。ジャンルとして少し変わっただけで。今だったら200万円のものを当時は20万円で買ったりしてるんですよ。 転売して儲けようとは思っていないし。

岡部:貸出はやってますよね。

樋口:はい。

岡部:ミュージアムグッズなどは美術館で作ってますか?

樋口:はい。でもポストカードとかその程度です。

学生4:化粧品会社ということで、皮膚や化学に関することもやっているとパンフレットにありましたが、やはりアートに傾きがちですか?

樋口:企業文化部の担当は芸術文化に限るので、そういった研究活動はまた別の所がやっています。

岡部:学術支援活動、福祉・地域社会活動というのはまた別の部署なんですか?

樋口:福祉財団というのがあって。企業文化部に関わるところもありますが。

学生4:資金が経常利益の3%というのは、こうしたさまざまな活動すべてを足して3%なんですか。

樋口:そうです。

17 どんなに欲しい作品があっても買わないのですか?

学生5:先ほどのカタログの作成は国内ですよね。今、海外も含め新しく持ち上がっている企画はありますか?

樋口:展覧会に関しては、海外で面白い作家がいれば招待するし、助成でも海外で行われる展覧会だとか、ダンスの海外公演だとかの支援をしていることはもちろんあります。助成は内容次第で国内外は問いません。割合としてはどうしても国内が多いですね。

学生6:知り合いで、国内の作家の海外活動を支援してほしいという人がいますが、ギャラリーの展覧会だけでなく、作家個人をバックアップして広めていくことはしないのですか。

樋口:してますよ、メセナのほうで。たとえば展覧会の助成の他にも、個人の活動支援というのもしています。作品制作を助成することもあります。何かの活動の度に。稀なケースで3年間の支援というのもないわけではないですが、数は多くないです。

学生6:作家を育てていく、ということはないのですか?

樋口:一人の人間の継続的な助成を決めておくことはないです。後から見て、一人の人間にわりと長く助成をしていることもありますが、最初から10年間毎年助成する、という形はないです。企業としての方針があって、うちはその都度に、ということになっています。たとえば日産自動車だと、一端支援すると5年間、という方針ですね。どちらがいいとはいえませんが、そうしてしまうと助成の枠がすごく少なくなってしまいます。

学生6:企業イメージに似合った作家を支援するということはありますか?。

樋口:企業イメージからは切り離しているところがあります。化粧品産業だからきれいで清潔なものだけ、ということはないですしね。

岡部:企画展をなさったときはどんなに欲しい作品があっても買わないのですか?作家のほうから条件として買い上げをいってくることはないですか?

樋口:ええ、ときには。買うこともたまにありますし。椿会のように前提としてではなく、その都度。それこそ、ものによっては送り返すよりも買ったほうが安いということもありますしね。

岡部:こちらでインスタレーション作品を作ったときは、どうなさるのですか?

樋口:破棄する場合もあります。作家も作品が戻ってきても置き場所に困る場合がありますから。ある程度残せるものなら買ってしまうこともあります。

岡部:他の美術館が欲しいというときは譲ることもありますか?

樋口:まだ譲ったことはないですが、可能性としてはあります。

18 現代アートメセナ活動

岡部:現代アートに関していいメセナ活動をしていると思われる他の企業の文化支援で推奨できるところはありますか?

樋口:アサヒビールは場所を持っていないので後援ですが、なかなかいいですね。スカラーシップ的なものではトヨタのアート・マネージメント講座。あれは支援的な活動としては実績がありますよね。

岡部:ここ10年くらいの間にフリーで展覧会の企画をする人が増えてきましたが、そういう人達の最近の動き、活動についてどう思われますか?

樋口:日本ではまだまだ難しいと思います。これからですよね。結局現代アートに限っていえば、日本の場合、現代アートのマーケットがものすごく小さいですから。今までは美術館が作品を買い上げるというのが定型でしたが、規模や予算の縮小でそれが出来ない。かといって日本に個人コレクターがいる訳でもない。となると、アート・マネージメントが成立しないんですよね、ボランティアでやってる人でもないと。作家が食べていけないのに、マネージメントをしている人だけが食べていけるというのはおかしな構図です。そういう意味ではフリーでやっていくというのは難しいだろうな、と思います。

岡部:企業で現代アートの関わりでメセナ活動を手がけているところでは直島文化村がいいと思うんですけど。

樋口:直島はいい。面白いですよね。

岡部:あそこは運営の方針や方法でも資生堂とはかなり違うと思います。ホテルが美術館になっていて、キャンプ場も経営しているので、ある程度の収入があります。

樋口:あのホテル、けっこう稼働しているんですか?

岡部:ええ。ホテルだけではなく、キャンプ場も運営していて、両方合わせると通常経費はそれでほぼ大丈夫なようです。方向性からいうと、観光+ホテル美術館+キャンプ場+アート作品という感じです。

樋口:まだ行ったことはないんですけど、一度は行きたいですね。

岡部:夏は混むみたいですよ。

19 これから変えていきたいこと 新しくやってみたいこと

岡部:(直島とは違う方向で)資生堂の方向は素晴しいと思うのですが、樋口さんご自身が感じる資生堂の活動の難しさや、他にはない長所というのは何でしょう。

樋口:繰り返しになりますが、やはり続いてきたことの力、歴史の生む力というものは確実に資生堂にはあります。それは痛感しますね。仕事で海外のアーティストと話をしていても、資生堂ギャラリーの名前を知っているんですよ。だからすぐに具体的な話に入れる。もし始めたばっかりだったら、どんなギャラリーで、どういう会社で、ということをまず話さなければならないですけど、僕らの場合は大抵相手が資生堂ギャラリーを知っていますからね。それは非常な財産です。どうして財産に成りえたかというと、やはり長い年継続してきたということになりますよね。それが資生堂の培ってきたものなんです。  こちらから皆さんに質問してもいいですか?1、2年生だからまだ明確にはないとは思うけど、学芸員とかキュレイターとかいろんな選択肢のなかで、自分はこの道に進みたい、というのはありますか?

学生イ:アート・マネージメント。

学生ロ:まだはっきりと何になりたいかは決まってないのですが、自分が展覧会をオーガナイズして一つの空間を作り出していく仕事がしたいです。

岡部:キュレーターにとっては、アートの場を作るのが一番面白いですよね。コンセプト作りとか文章を書くのもいいけど、実際の現場が楽しい。

学生ロ:最後に質問なんですけど、先ほど歴史の力の良い面というのをお聞きしましたが、これから変えていきたいことや新しくやってみたいことはありますか?

樋口:今までやっていて、何かを新しく変えたいと思ったことはないです。資生堂は基本方針として素晴らしいことをやってきたと思うし、自分もその方針に納得しているので、それを更に別なものにしようという気持ちはありません。何か新しいものを探していくということは、当然何らかのリスクがありますから、失敗することもある訳ですよ。自分に課さなければいけないことは、ものを見る力、見る目をどれだけ自分が高めていけるか、ということです。この仕事では現物を見ないでものを語るということは絶対にしてはいけないことだと思うんです。カタログや雑誌で作品を見て、判断するというのは良くないことです。もう既に現物の作品を見たことがあって、良く知っているものを二次資料で見るのはいいけれど、いきなり最初から二次資料でものを判断したら...

岡部:失敗もある。

樋口:やはり、いかに現物を見るかということを自分に課さなければならない。

学生ハ:カタログ製作のチラシに「記録として残すことの出来るお手伝いができれば」ということが書いてあって、とてもいいなあと思ったんですが、これはさっきの新しいものに手を出すということではなくて...

樋口:流れとしては今までやってきている方針の中のものです。方向としては新しいけれど、方針としては新しいものではありません。

岡部:その作ったカタログは売るんですか?たとえば私達のような外部の人間が見たい場合はどうしたらいいんでしょう。

樋口:基本的に部としてのストックは持ちますけど、ほかは作家にあげてしまいます。

岡部:もう少し多く作って、こちらで売るのはどうですか?一般にも欲しい人がいるかもしれないし...

樋口:カタログに関してその作家に任せてしまうのか、資生堂でもが売るのかという問題がありますね。まだ具体的に決まっていないです。これは毎年10冊ずつ出ていきますから、10年経つと100冊になりますよね。美術館、図書館にこちらから配布するのかどうかは、今後の課題です。

岡部:手間もお金も大変ですからね。だけどみんなその成果が見たいですよ。どんなものが出来たのか。カタログ制作に関する簡単な説明の付いたパンフレットとかを年に一回出すのがいいかもしれないですね。

樋口:今年はこういう人達のカタログを作りました、というような...

岡部:それだけでもいいですね。現物は調べれば入手できるように、レファランスを付けて。

樋口:それもいいですね。
(テープ起こし担当:岡田伊央)


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