Cultre Power
gender research 萩原弘子/Hagiwara Hiroko
ミルクを飲むひと
©ロティミ・ファ二=カヨデ 








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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

現代美術と女性学の接点で、パイオニアとしてすぐれた業績を積んでいる萩原弘 子氏。国際的で独自な芸術文化批判の視野に立って現代社会を評論している数少ない理論家である。著書はみな刺激的でつねに啓発されるところが大きい。

とりわけ2002年に刊行された『ブラック―人種と視線をめぐる闘争』は、日本でも希少な黒人文化研究者でもある萩原氏の深い洞察に満ちた言説で、大著にもかかわらず夢中で読破した。映像などでも国際的に活躍している黒人芸術家たちの作品への明晰な考察も興味深い。1990年に出版された『この胸の嵐―英国ブラック女性アーティストは語る』で、ベイルート出身のモナ・ハトゥームを取り上げた慧眼にすでに敬服していたが、近著の『ブラック』は、それ以降の10年をかけた綿密で体系的な傑出した研究成果といえる。

大阪在住の方なので、お会いする機会がなかった。日仏学院で「おんなのけしき 世界のとどろき」展を開催した機会に、学院と武蔵野美術大学での二本立てレクチャーをお願いして、萩原氏とはじめて東京で会うことができた。本稿は、2003年6月9日に大学の課外授業として行われた「身体の表現――エロスと暴力の現場として,あるいは……」というそのときの講演をもとにした文章である。月刊『あいだ』編集長福住治夫氏の提案で、このときの講演を『あいだ』(91号、2003年7月20日発行)に掲載することになり、院生の今西彩子が行ったテープ起こしを萩原氏が補筆校正した。今回、カルチャー・パワーのサイトへの再録にあたっては、福住氏と編集部の穐葉さり氏に快く許可をいただいたことを感謝したい。

女性学に関する訳者としても著名で、国際的に活躍する英国のフェミニズム理論家グリゼルダ・ポロックの理論書、『女・アート・イデオロギー』(1992年、ロジカ・パーカーと共著)、『視線と差異』(1998年)を、見事な翻訳で紹介している。また『美術史を解きはなつ』(共著、1994年)は、日本がアジアに与えた傷痕をテーマとする芸術家富山妙子、ナチズムと美術の関連を分析する浜田和子との共著で、萩原氏はオリエンタリズムとプリミティヴィズムなどにおける他者へのまなざしのありかたに鋭く言及している。

自己を知る鏡として写真の実践を行ってきた写真家のジョー・スペンスが遺した『私、階級、家族――ジョー・スペンス自伝的写真』(2004年)の翻訳は、ひとりの女性のリアルな実人生と写真がもつはかりしれない力を知る上で、欠くことのできない書物といえる。
                            (岡部あおみ)