Cultre Power
collector 佐藤辰美/Sato Tatsumi









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イントロダクション

コンセプチュアル・アート好きの佐藤辰美は、ある日、河原温の『デイト・ペインティング』を購入しようとした。ところが、だれにでも作品を売るわけではないアーティストは相手をまず厳しく「試験」した。果敢にもその挑戦に応じた佐藤は、見事に合格、稀有な選ばれたコレクターとなる。

河原温という、とてつもない指南役のもとで磨きをかけた幸福なパトロン。破格のコレクターとなった佐藤辰美のスケールの大きさを理解する鍵がここにある。

世界認識に取り組む孤独な旅のさなかで芸術家としての独自な思考を育んだ河原温。コンセプチュアル・アートの第一人者としてニューヨークを舞台に国際的に活躍するようになってから、河原は遠隔操作で日本の若手キュレーターやアーティストへの独特な指南を開始した。だが、その宇宙論に及ぶ膨大な芸術論を、佐藤辰美のように心深く染みこませ、生きる糧としながら実践へと邁進できた者はどれぐらいいるだろう。

「わからないものが好き。僕が見てわからないものは、作家が僕らの先を行っていることを意味している。」勇気あるこうした佐藤の慧眼で構築された有数のコレクションは、リヒターを始めとする国際的に著名な作家はもとより、才能豊かな日本の多くの若手作家にまで及んでいる。ついに広島市にある倉庫を改装して2005年にビューイングルーム(661m2)を創設、13室ある展示室では年に1〜3回、気合いの入った凝った展覧会が行われる。自ら作品を設置したりすることもあり、展覧会はまず真剣に自らが芸術を楽しむためにある。そしてお相伴にあずかる来客は決まって自らのアート観を「試験」される。

ビューイングルームといってもだれにでも一般公開されているわけではない。その分、展示の様子は必ず確固たる図録にまとめられる。大和プレスの出版物はこうして国際的な反響を呼ぶことになる。司書経験豊かなキュレーター鈴木美和の協力を得て、森山大道や丸山直文などの作家個人を対象とする手堅い本の出版も手がけ、さらにミニマル・コンセプチュアル・アート関連の2000冊に及ぶ本も徹底的に収集している。また鈴木のポートレートをモチーフに32人のアーティストに新作を依託するなど、芸術と芸術家への知的で独特なパトロネージは、情報化社会における卓越した現代のパトロン像を示している。

広島市に本社がある大和ラジヱーター製作所グループを取り仕切る実業家で、その他多くの会社経営も行っている。コレクションは骨董から始め、コンテンポラリー・アートだけではなく、現代陶芸やアジア・アフリカなどのプリミティヴ・アートにも関心があり、現在でも収集を続けている。

芸術や美術品に好きなだけの時間や資金を投入できるのは大いなる「特権」とはいえ、芸術の比類なき楽しみ方を編み出せる独創性は、過去の芸術のパトロンの歴史を紐解けばわかるように、芸術の生成に寄与する偉大なる行為に他ならない。

(岡部あおみ)