Cultre Power
collector / art critic & journalist 佐藤辰美/Sato tatsumi
contents

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Copyright © Aomi Okabe and all the Participants
© Musashino Art University, Department of Arts Policy and Management
ALL RIGHTS RESERVED.
©岡部あおみ & インタヴュー参加者
©武蔵野美術大学芸術文化学科
掲載情報の無断使用、転載を禁止致します。

インタヴュー

佐藤辰美(コレクター)X 鈴木美和 (キュレーター)X 岡部あおみ


日時:2007年8月7日
場所:DAIWA RADIATOR FACTORY VIEWING ROOM

01 ー「今のコンセプチュアル・アート」展
    ネズミ・アシックス・醤油画・トイレットペーパー・いかだ 編

岡部あおみ:きょうはビッグコレクターとして名高く、さまざまなアーティストからお名前を伺っていた佐藤さんのヴューイング・ルームを訪ねることができて、大変光栄です。現在、コレクションを中心に、また新たな作品を加えて、見事なインスタレーションをされていますので、それをご一緒にまず拝見させていただいてから、「コレクション」についてお話を伺えればと思います。

佐藤辰美:金氏徹平さんは、あらゆる境界線をテーマに作品を制作している作家です。これも同じテーマをめぐる作品の一つです。こちらが鈴木です。うちのキュレーター歴一年半。(笑)

岡部:鈴木さんにもいろいろお伺いしたいと思っています。金氏さんの作品は東京のkodama galleryでも個展を見ましたが、どろどろと溶けたような巨大なオブジェの展示を、広島市現代美術館でも見たことがあります。


Chim↑Pom
SUPER RAT 2006 剥製(渋谷センター街で捕獲したネズミ)、DVD
Photo by Toshiki Toyama © Courtesy of Mujin-to Production

佐藤:これがChim↑Pomの作品です。彼らはご存知ですか?

岡部:はい、金氏さんの個展と同時に開催されていた広島現美での「Re-Act 新・公募展2007」 に映像インスタレーションで参加していたので、見ました。(笑)

佐藤:渋谷の繁華街でネズミを捕まえるという2、3分のビデオです。捕まえたネズミをはく製にして、色をつけて。開きにしたのもあってね。(笑)

岡部:今回、佐藤さんの展示のコンセプトは何でしょうか。


Pamela Rosenkranz
"I always forget that the Ground means the Contrary of Anima Sana In Corpore Sano ( I ) - ( III )"2007
type C print on lightbox
Photo by Toshiki Toyama © Pamela Rosenkranz Courtesy of TARO NASU

鈴木:「今のコンセプチュアル・アート」です。こちらはパメラ・ローゼンクランツというスイス人の若い女性アーティストの作品です。今年、Taro Nasu Galleryでの個展で発表された、スポーツをテーマにした作品がいくつかあります。

岡部:Taro Nasu Galleryで見た時、パメラ・ローゼンクランツの運動靴のインスタレーションが提示するところがあまりよくわかりませんでしたが。

鈴木:そちらはアシックスの靴だけを集めた作品『I almost forgot that ASICS means Anima Sana In Corpore Sano』です。タイトルに使われたラテン語の一節は、アシックスの社名の由来となったものだそうです。これは小沢剛さんの『醤油版画:フランク・ステラ+長谷川等伯』です。醤油画シリーズの松林図にフランク・ステラのモチーフを重ねたものを、骨董とともに展示したインスタレーションです。


小沢剛
醤油版画:フランク・ステラ+長谷川等伯 2007年
Photo by Toshiki Toyama © Courtesy of Ota fine arts

佐藤:新しいものと古いものとのコラボレーションは、何度やっても難しい。

岡部:小沢さんがの展示場所は通常よりもかなり高い位置に設置されていますが、小沢さんがそう希望して、古い作品なども合わせてインスタレーションしたものですね。

佐藤:できる限りですけど、作家が思い通りに出来るように。

鈴木:この展示室は田中功起さんの作品です。今回は白いものと、水に関連する作品を集めたということです。映像作品や写真などのインスタレーション、ペインティングも含まれます。


田中功起
大和プレスでのインスタレーション風景
Photo by Toshiki Toyama © koki Tanaka

岡部:彼のペインティングを見たのは初めてです。これは初期にトイレットペーパーを宙に放り投げるようにして、ビデオでとった映像作品に関係しているように思えます。

佐藤:よく勉強されていますね。

岡部:たまたま、彼が初期のころに応募した群馬のビエンナーレの審査員だったんです。トイレットペーパーのどこがいいの?という意見もあったのですが、惹かれるものがあって一生懸命押しました。だから印象が強くて覚えています。(笑)日常のいろいろなものを使って映像を作っていて、注目している作家です。家具などを使うインスタレーションへと発展させて、こんな風にここまで大規模にすると面白いですね。この前BankART 1929で、倉庫に残っていたものをいかだに組み、それを川に浮かべて川を下る映像作品も見ています。

鈴木:この田中さんの写真作品は、『How to Draw a Line on the Road, photograph』というタイトルです。『by chance』は、30分に一回、鴨が水面を横切る映像作品。後ろの写真は、『I remember you always when I see the sky which you like』。石膏の立体が『トンネルの旅』という作品です。

02 地図・化石・ジャージ・バレエ・陶器編


竹川宣彰
身のまわり品のセイリングチャート 2007年
Photo by Toshiki Toyama
Courtesy of Ota fine arts

鈴木:竹川宜彰さんの作品『身のまわり品のセイリングチャート』です。

岡部:オオタファインアーツで手まりのようなオブジェの個展があり、すごく良かったです。この作品は地図なんですね。

鈴木:以前は煙草の箱を額にはさみこんだ白地図のドローイングを作っていました。それを発展させた作品を集めてのインスタレーションです。

佐藤:意味をもたせてあるのか、ちょっと不明だよね。でも説明はいらない。はさまっているものが次第に大きくなって、最後にはこのヨットのように額に入らなくなって、別の世界のものが現れてくる。

岡部:説明されても、何だかよくわからないところが面白い。

鈴木:こちらはダニエル・ロートというドイツ人作家の作品です。

岡部:牙なのかしら。顔でもないし不思議ですね。写真は説明的ですが、見ても明確にはわかりませんね。

佐藤:僕も聞いてみようかなと思ったんですけど、不思議で魅力的。

鈴木:エルムグリーン&ドラグセットの『Suspended Space』という作品です。


Elmgreen & Dragset
Suspended Space 2002, mixed media
Photo by Toshiki Toyama © Elmgreen & Dragset  Courtesy of Taka Ishii

佐藤:これは、ある空間、ホワイトキューブを確定するパーツなんですけど。

岡部:ミュージアムが爆発したみたいな感じ、空間にピタッと決まっていて見ごたえがありますね。 

佐藤:確かに美しい作品です。若い作家がやったっていうのがいいんじゃないかなあ。

鈴木:リチャード・ノナス。

佐藤:彫刻家です。

岡部:名前はよく知っていますけど、作品自体はそれほど見たことはないです。

佐藤:ギャラリー360度でやったぐらいで、日本であまり知られていない。こういう昔のいい作品があるってことを見せたかったんです。

鈴木:こちらはエリック・スネル。

佐藤:木を焼いて、その木と同じ長さのパーツを紙に描いている。

岡部:こんなに太く、本当にちゃんと書けるのかしら?(笑)。

鈴木:大竹竜太さんはぺインターなんですけど、この作品『untitled』は立体です。絵も立体も同じような感じです。(笑)

佐藤:今のコンセプチュアル・アートと呼んでいいのか。(笑)

岡部:コンセプチュアルだけでなく、化石などの古いイメージもあって、物としての歴史も感じさせますね。

鈴木:アンドレアス・スロミンスキーのジャージです。ここがこう開いて、テニスラケットを隠して歩くんです。(笑)

岡部:彼の作品は以前、ミュンスターのスカルプチャープロジェクトに出ていましたね。どこかにユーモアがある。

佐藤:何かしら考えさせるような。ユーモアの表し方が上手ですよね。彼のファンで、結構コレクションしているんです。日本ではあまり売れないみたいです。

岡部:海外の展覧会ではわりと取り上げられていて、出品していますけれども。

鈴木:こちらは多田友充さんの作品『untitled』。マスキングテープを壁に貼って色鉛筆で描いてます。


写真向かって右
多田友充
無題 2007 インスタレーション(マスキングテープ・色鉛筆)
Photo by Toshiki Toyama © Tomomitsu Tada  Courtesy of ZENSHI
写真向かって左
Mirror Drawing 20.10.98
1998, ink and watercolor on paper, 38x28.5 cm
Photo by Toshiki Toyama © Thomas Schutte

佐藤:あまり無駄な説明するよりも、そのまま見てもらった方がいいね。

岡部:インスタレーションのかなりの部分が見える、この位置から見ると良いですね。ほんの少しの部分だけ見たら、えっ何だろう、作品?と思うだろうけど。(笑)

鈴木:内藤礼さんの作品です。


内藤礼
無題(通路) 2007 鏡、鉄、皿、光 サイズ可変
Photo by Toshiki Toyama

岡部:バレエのレッスンの部屋みたいですね。この手すりはわざと付けているんでしょう?

鈴木:内藤さんは全くダンスのことは考えていなかったそうです。2枚の大きな鏡が向かい合わせに設置されていて、それぞれに小さな丸い鏡が一つずつ貼られている。その丸い鏡の両面がまた鏡になっているので、大小の合わせ鏡の反映が無限に続いています。

岡部:説明がないと、薄暗い空間の中の微小な鏡ですから、見落としますね。 (笑) このしかけに気がつく人はいるのかしら。(笑)

鈴木:説明無しでは、いませんね。(笑)手すりを握ってみてください。タイトルは、『無題(通路)』。ずっと向こう側に続いているという。

岡部:タブローがあるような感じに見えますね。肉体が躍動するような場所に見えるけれども不在で、すごく静か、精神がふわっと消えたり、戻ったりする感じの場所です。

鈴木:これまでご紹介した作品は、作家が自分で設置されることが多かったので、今回唯一の佐藤のインスタレーションがトーマス・シュッテの作品群です。

佐藤:だいたい自分でやるんですけど、今回作家の新作が多かったので。シュッテの陶器です。

岡部:おもしろいですね。シュッテのこういう陶の壺は知らなかったです。

佐藤:陶器の作品が、彼は割と得意ですね。凝縮されているような気がして。これはシュッテの自画像。丸い鏡に映した自分を二枚描いたみたい。

03 売れっ子シュナイダーと若手笹原晃平

鈴木:こちらはローレンス・ウェイナー。

佐藤:これはジェームス・ウェリングの初期の写真です。

鈴木:こちらはグレゴール・シュナイダーの写真。

岡部:ヴェネチア・ビエンナーレのドイツ館で発表して、国際的に有名になるずうっと前に、パリ市美術館の企画展でグレゴリー・シュナイダーがかなり大きい迷路のようなインスタレーションを手がけた時、すごく面白い作家だと思いました。写真は小さいけど良いですね。

佐藤:彼の作品を、世界で最初に買った一人じゃないかなと自分では思っているんです。ずっとコレクションしてきています。次は笹原晃平さん。本当に若い作家です。


笠原晃平
鈴木美和 home and away 2007
Photo by Toshiki Toyama

鈴木:ここが私の仕事場だったんです。

佐藤:そう。彼女の仕事場にあった物を全部外に持ちだして空っぽにしています。タイトルは『ホーム アンド アウェイ』、彼がいうには、この部屋の主が作家であり、彼自身は素材であると。分かりにくそうなコンセプトがあって、すごく面白いなあと。今回の展覧会では、一番若い23歳の作家です。

岡部:この作品自体は新作ですけど、最初に何を見て認められたのですか。

佐藤:hiromi yoshiiの吉井さんから、河原温と同じレベルのすごい作家がいるという話を聞いたので、これは面白い、今までにないような考え方をしていると思いました。コレクションということも否定するような。

鈴木:23歳の彼にしてみれば、ファインアートの世界はずいぶん制度化されたものに見えるらしいんです。自分はそれで良いのか、アーティストはスペースを与えられたら、それを埋めるという発想のみでいいのかという問題意識があったそうで、逆に、これは空間を空っぽにしてしまった訳です。

佐藤:やっていることは単純なんですけどね。

岡部:考え方が面白いですよね。会ってみたいです。

佐藤:今回の展示はこれで全部です。

岡部:見応えありました。今回のインスタレーションのために、また新しい作品を買われたのでしょうね。

佐藤:自分のコレクションを見せるために展覧会をやっているつもりが、新しいものも良いよねって。実際にコレクションが2、3割で、新しいものが7割ぐらいになってしまいます。

岡部:作家としては嬉しいですね。この展示はしばらくキープしておくのですね。

佐藤:1か月です。自分が楽しむためのようなものなので、アートに興味を持っている人に来てほしい。

岡部:もったいないから、たくさんの人に見て欲しい気がしますね。今までに何人が見られたのでしょう。

鈴木:初日二人、次が3人、投票した人は5人。

04 VIEWING ROOM 骨董の歴史からアルバースそして現代

岡部:佐藤さんのVIEWING ROOMがオープンしてから、『AERA』や『美術手帖』などでお名前が急浮上した訳ですが、それ以前からすごいコレクターがいるという話は聞いていました。そういう意味で、やはりVIEWING ROOMを作られて、見る方や外部の人とのコンタクトが増えたということですね。

佐藤:そうですね。元々何故このスペースを作ったかと言うと、自分が本当に良いアートを見たいという思いがあったんです。それでアートを買い始めて、最初は基本的にギャラリーに行ってギャラリーの人に勧められて、良いんだろうなって感じで買いますよね。でも買ってきて、結局全然ダメだって思ったり、安かったけどすごいアーティストだって思ったり。そういうのがずっとあって。結局、長く見ないとわかんないんですよ。

岡部:最初に骨董を始められたのは若い頃と聞きましたが、現代アートになったのはいつ頃でしょう。

佐藤:本格的には88年から89年から集め始めました。最初は骨董を買ったり、プリミティブアートを買ったりしていたんですけど、ある所に行ってジョゼフ・アルバースの作品をかっこいいと思って。それがおそらく現代美術では最初ですね。

岡部:アルバースを最初に見て、かっこいいと思う方もそれほどいないと思いますが、今は骨董は買っていないんですか?

佐藤:買っています。

岡部:つまり現代アートだけでなく、アートや美術品として好きなものは時代を問わず買われているということなんですね。

佐藤:はい。全く関係ないです。現代アートと骨董を比べると、もの一つ見てどっちが良いかと言ったら、完璧に骨董の勝ちです。時代を経て、残ってきたものなので。大きく分けて現代美術、骨董それから現代陶芸も好きで。どっちが多いかというと…

岡部:シュッテの陶器の作品を買われているので、陶芸的なものも好きなのだろうなというのがわかります。

佐藤:あとプリミティブアート。でも一点一点数えていくと、やはり写真もあるし現代美術かな。正確に数えたことはないんですけど、プリミティブアートも結構持ってるので。

05 オークションの在り方ー半分ウォーホル

岡部:骨董も含めて、コレクションはどちらで買われるのでしょうか。

佐藤:ほとんど東京です。

岡部:現代アートの場合は、オークションでも買われるんですか?

佐藤:たまにありますが、基本的にはないです。オークションは皆さんのいらないものが回っていて、本当に良いものは出てこないって最近分かったんです。カタログは送ってもらうんですけど、半分はアンディ・ウォーホルの同じ作品のように思えます。

岡部:アメリカのテイストですよね。2006年から07年まで、一年ほど米国にいて、4月の初めに帰国したんですが、ニューヨークでオークションに何回か行ってみたらそんな感じがしました。日本では行ったことがないですけど。

佐藤:オークションの形式そのものは、悪くないと思います。ただ、今のオークションだと駄目ですね。みんなで交換会みたいな形のオークションだったら、もっと良くなるでしょうけど。

岡部:江戸時代なんかはみんなで見せ合ったり、鑑賞したりした交換会がありましたね。

佐藤:そうそう。これあげるから、それちょうだいみたいな。そういう感覚だと良いんですけど。今は、お金が優先しているような気がして。

岡部:何千万、何億とか、丸がいくつ付くのかという方向になっている。(笑)

佐藤:つまらないですよね。

06 僕らの先を行くもの 写真を語る

岡部:自画像や人のポートレートはお好きなのでしょうか。

佐藤:あまりジャンルは関係ないですね。わからないものが好き。例えば、竹川宜彰さん。見ている間にもっと良くなってくるのを予感をさせてくれる。何がいいのかよくわからないけど、ちょっといいよねってそういうレベル。最初からパシッと良いものは飽きます。

岡部:たぶん最初から100%で付き合ってしまうから、段々減っていくわけですね。最初は良くわからなくて、20%ぐらいから付き合いはじめると、段々良くなっていくっていうか。(笑)

佐藤:見た瞬間にパシッと良いものは、その作家が、あなたや僕と同じレベルだということなんですよ。作家自身が一番良いと思うものを発表する、それを見て僕も良いと思う。それだと、作家と僕が同時代だから、作家は全く先を行ってないですよね。僕が見てわからないものっていうのは、作家が、僕らの先を行っていることを意味している。1年でも2年でも5年でも。それが彼らの使命でしょう。未だに良いと思わないのは、ヴォルフガング・ティルマンス。

岡部:彼の抽象的な『遊泳者』は最初からとても良いと思いますが、それは最初から100%の付き合いみたいな感じで、スナップの写真に関しては、彼がインスタレーションしたりすると、じつに味わいがでて、良いと思います。荒木経惟さんはいかがでしょう。

佐藤:恥ずかしいような話なんですけど、荒木さんが少し見れるようになったのは、ここ、2,3年なんです。男の人はどうしてもそういう傾向にあるのかもしれないんです。ヌード写真を見るとエッチな気持ちが先にいっちゃって見れないんですよ。それってわかっていながら大変なことなんですよ。この歳になって、あんまりそういう気がなくなってきたのか、見れるようになったんですけども。

岡部:持っていらっしゃるのは、緊縛写真が多いわけですね。

佐藤:持ってはいないですが、『さっちん』あたりだと良いと思うんですけども。やっぱり僕にとっては、良い写真家だと理解できていない。10年ぐらいしたらこいつはすごいと思うかもしれないけど。森山大道さんに対抗するとしたら、この前から出てる中平卓馬さんが良いなあ。あと松江泰治さんも、森山さんとは違うところにいってて。

岡部:最近の松江さんのカラーの航空写真、とても良いですね。以前の白黒写真も良かったのですが、最近のカラーの方が好きです。白黒は撮るのが大変だというのはわかるんだけど。見続けているとある種の単調さが出てきがちなのですが、カラーの航空写真で、より自由なイメージになり、彼が一つ抜けた気がします。この作品を介して違う方向へも行ける可能性があるような解放感がありますね。

佐藤:僕もそう思います。白黒は白黒でいいところもあるんですけどね。

07 みんなが切り捨てているものを見出したい

岡部:『美術手帖』だったか『AERA』だったか覚えていないのですが、コレクションはいつかどこかに残したいと話されていたと思うんです。始めから、公共的な場所に預けることを考えていらしたのですか。

佐藤:そういうことはまったくなく、たばこを吸いたいのと同じようにただ自分が好きで。そのうちたまってきたのが、人類の財産みたくなってきちゃって。でも美術館は嫌なんで、できれば個人コレクターに持って欲しいなと。美術館だとほとんど死蔵みたいになって、有名な作品しかかけないし。でも個人コレクターだったら、見たいって言えばすぐ見せられる。それで、あいつ何で良いの、何でダメなのっていう話がしたい。それで自分が楽しみたい。だから次の世代もそうやって欲しい。

岡部:欧米のコレクターとか海外のコレクションは、ご覧になったことあるのでしょうか。

佐藤:本では当然見ましたけど、実際にはないです。ああいう本当にセンスが良いコレクションにしたい。どの作品も、作家がしっかり作ったものなので、もちろん大事にはしておきたい。でも、なかには、これは僕のコレクションじゃないと言いたいようなものもある。僕のコレクションとしておきたいものは、僕の中を経たもの。そういう意味で、所蔵品展の図録をVol.20 位まで作りたいと思っているんです。これに載っているものは自分のコレクションだと。少なくとも、これに載ってる作家はすごいぜっていう。 毎回、会期が終わって、僕がbest3をつけるんですよ。評論家がいくら頑張ったって、僕ぐらい見てないという自信ありますからね。

岡部:こんなすごい作品インスタレーションが一か月も見られるのは贅沢です!(笑)

08 心の先生「河原温」への熱い思い

岡部:河原温さんの作品をたくさん持っていらっしゃるのですね。温さんとはどんな風に知り合われたのですか?

佐藤:温さんは僕の心の先生です。コンセプチュアル系が好きだなあと思った時に、この「デイト・ペインティング」かっこいいなあと思って。どこに行けば買えるんだろうと、昔あったギャラリーシマダで「いくらするの?」みたいな調子で聞いてたら(笑)、温さんから連絡があって僕の持ってるコレクションを全部提示しろという。それで良かったら売ってやるって。それなら挑戦してみようじゃないかと思って、自分が今までに買ったもののリストを見せたら、わかったということで、3年か4年位かけて、一つのまとまったコレクションにしようと、温さんの方から直接いってくれました。

岡部:私も温さんのハガキをたまたま持っているんですよ。

佐藤:良いですよね。一か月まとめて買った?

岡部:いえ、パリの自宅に送られてきたのです。温さんとはだいぶ昔にパリの知人のアーティストの家でお会いしたことがあり、パリのポンピドゥーセンターの『前衛芸術の日本展』の準備をやりはじめる前だったのですが、パリには日本の作家の資料が少なかったので、重要な作家の資料を集めようと思い、そういう方達に個人的に手紙を書いたら、温さんからは図録とかの資料に関する話には音沙汰なくて、突如葉書が来たのです。

佐藤:良いねえ。ちょっと、値段計算して。(笑)

岡部:(笑)それで1カ月分の絵葉書を持っているので、現美で温さんの個展があった時には出品しました。

佐藤:あの現美の展覧会は、温さんだからすごいんだけど、もっともっと良く見せられた気がしてしょうがないんです。

岡部:スペースの問題もあって、温さんの作品はそれほど大型のものはないので、ややがらんとした感じがありましたね。

佐藤:温さんの見せ方だったら、日本で言うと原美術館みたいなところが良いね。

岡部:こじんまりした所が良いですよね。巨大なスペースということでは、ニューヨーク近郊にあるDia Beaconは、空気を清浄にする備長炭が床下に敷かれていて、温さんご自身がかかわったそうで展示のバランスもすごく良かったです。東京国立近代美術館は「デイト・ペインティング」以前の「浴室シリーズ」と「物置小屋シリーズ」全作をもっていますが、米国で展開した作品をかなりの量で収蔵している日本の美術館はまだないように思うので、佐藤さんのコレクションが日本で一番多いかもしれませんね。 コンセプチュアルな作品がとてもお好きなようですね。

佐藤:完璧にそうだと思います。温さんの影響もあると思います。昔の60年代のコンセプチュアル・アートは、温さんでもジョセフ・コスースでも、コンセプチュアル・アートとして他の潮流とは分かれてた訳ですが、今はすべてがコンセプチュアルなわけで、今回の展示でも、現代のコンセプチュアルとは何なのか、それを探求しているわけですね。

岡部:でもご本家の温さんは今回の展示では全然出ていませんね。(笑)

佐藤:そうなんです。奥の部屋で出そうと思ってたんですけど、狭苦しいと温さん可哀そうだと思ってやめたんです。それで、トーマス・シュッテに切り替えました。今までは温さんを確実に入れてたんですけど。今回は初めてやめましたね。今は、コンセプチュアル・アートじゃないものはアートじゃないみたいな時代になってきてますよね。何かしっかりとしたコンセプトを持ってないと、ペインティングであれ彫刻であれつまらない。じゃあコンセプチュアル・アートって何なのってことで、自問自答しながら。例えば、次にライアン・ガンダーをやるんですけど、彼は温さん達60年代のコンセプチュアル・アートの考え方をしっかり引きついで来ていると思うんです。ところが、ここに飾ってある作品なんかはコンセプトを持っているはずなんですけど、コンセプチュアル・アートって呼ぶジャンルには分けられない。という訳で、コンセプチュアル・アートを追究するための展示。(笑)。

09 展示と出版 本業は・・・

佐藤:いろいろ失敗もあって、展示がいかに難しいかやってみるとわかります。作家の作品をいかによく見せるか。でもだんだん良くなってきたと思ってます。

岡部:慣れもあるかもしれないですね。今回の展示はすごく良いです。ほんの少しの人しか見ていないのはもったいない気がしますけど。(笑)今までなさったインスタレーションの中で、一番よかったと記憶されているのはどれでしょうか。

鈴木:社長の一番は、私が見る限りではリヒターの『グレイルーム』です。

佐藤:あれはうまくいった。本当に難しいんですよ。今度本をお送りしますよ。今回、小沢さんがやっている部屋です。あれを全部グレイに塗って、グレイのペインティングだけを掛けた。

岡部:展示は年間どのくらいなさるんですか。

佐藤:そうですね、今回事情があって早まったんですけど、年3、4回が精一杯です。

岡部:これだけ展示を作りこむと時間もかかりますよね。しかも同時にコレクションも手がけ、出版活動もして、仕事もなさっているんですから、ともかく驚きです。

佐藤:少しはアートのためになることがしたいとも思ったので、それには本が一番大事かなと。

岡部:作家にとっても図録や写真集などを作ってもらえるのは、とてもありがたいですし、嬉しいですね。『美術手帖』の記事で知ったのですが、鈴木さんのポートレートを多くの現代作家たちが作品にして、それを広島市現代美術館で展覧会をして発表したそうですが、参加作家は何人だったのでしょう。

佐藤:32名でやりました。ギャラリー、美術館、評論家、学校、などに代わって、コレクターから発信できることを、何かやってみようと思って。

岡部:これからも作家に何らかのテーマを依頼するような形のコミッション活動を続けられるのでしょうか。

佐藤:そうですね。

岡部:本のアイデアは鈴木さんと一緒に考えられるのですね。

佐藤:そうです。

10 日本の美術館とギャラリー事情

岡部:今の日本の状況を批判なさっていましたけれども、日本のアーティストはどうでしょう。

佐藤:アーティストは力を持っている人がいっぱいいると思うんです。美術館が一番ダメなような気がします。ギャラリストもプロ意識がある人は何人かいて、それ以外は自分の好きなアーティストを連れてきて、ちょこっと見せて金儲かればいいやってのもいる。金儲かったら家建てるみたいなそんなんじゃダメでしょ。そのお金をつぎ込んで、若い作家を育てる、海外の良いアーティストを連れてくる、もっと真剣にそういうことをやってほしいなあって思ってます。

岡部:今はやっと少し市場が動きだしたので、一般の人もアートに興味を持ち始めてはいるけれど、基本的に日本にはまだ現代アートが根付いていませんよね。それは日本のさまざまな制度や政治の問題もあり、政治家が大衆路線なので日展などの公募団体に偏っています。現代アートはエリート主義みたいな感じで排除されてきて、「現代アートはわからない」という言葉を、常套句として政治家が使いますが、そのうち、そんなことを口にして平気なのは、日本ぐらいになってしまうかもしれません。佐藤さんは、ですから、こうした状況への反逆といえますね。

佐藤:そうですね。僕は本気で、美術館でやってる展覧会よりも、こっちの方に作家が力を入れてくれているのを感じます。東京からここへ来るのに3、4万円かかるでしょう。そういう熱意のある人っていないよね。岡部さんみたいに、こうしてわざわざここに見に来ませんよ。本当に時々、1回やると5,6人です。学生も熱心な人が来るんですよ。

鈴木:遠くからお金をかけて。

岡部:本当はこういう展示ほど見てほしいですけど、こんな風にいつも相手をされるとなると、そんなに来られても難しいでしょうし。

佐藤:一回一組とは言わないけど、いろんな人が来るとお話もできないのですからね。作家の悪口を言ったり、良いの悪いのと褒めたりするのが楽しい。

鈴木:ニューヨークのアートギャラリーはこのぐらいの大きさなんですか?

岡部:最近の大手のギャラリーは、美術館ぐらいの大きさです。やっと東京も大きくなってきましたね。ギャラリー小柳とか。

佐藤:あれぐらいあるといいですよね。小山登美夫ギャラリーとかTaka Ishii Galleryは十分見せられる。小山さん、Takaさん、SHUGOさん(SHUGOARTS)ぐらいのスペースだと、アメリカに行くと平均的なものですか?

岡部:そうですね。といっても、アメリカはギャラリーの数がものすごくたくさんあるので、始めたばかりの若い人たちはチェルシーの北西部や南部のミートパッキングエリアなどで、とても小さなところでやっています。

佐藤:あと一番思うのは、ギャラリーに若手の作家がいるでしょう。普通最初に個展をやると、ペインティング一枚2,30万円とか150万円にもなる。それを最初の1、2回だけでも、もっと安くできないかなあって。

岡部:そうしたらもっと一般の人も買えますからね。

佐藤:それなんです。本当に好きで、良いなあって理解している人はたくさんいると思うんです。

鈴木:アートに限らずどんな商品でもそうですけど、最初に普及をはかる時点ではその分の資金が必要ですよね。何もないところでいきなりこれが10万円ですって言われても。

岡部:普通は2万とか5万円ぐらいまでじゃないと、若者には手が出せないですけど、例えば私の大学のゼミで、キュレーションをやったりしている学生もいて、とても好きな絵があったら、20万円だしても買いたいと、迷っていると聞いて、すごいなとびっくりしました。(笑)

佐藤:それすごく良いことだと思う。月賦で買えば良いんですよ。ムサビといえば、今度丸山直文さんの本を出すんです。

11 森山大道オタクと作った写真集

岡部:作家個人の作品集的な本はこれからも出版を続けられるのですね。

佐藤:出していきます。和光さんと出したスロミンスキーの本が最初ですね。

岡部:スロミンスキーの本が最初なのはすごくユニークですね。(笑)

佐藤:小粥丈晴さんや法貴さんの本もありますが、僕の自慢はやっぱり森山大道の作品集です。 最近ちょっと知られてきたので、自分の名前を隠そうかなあとも思ってます。わいわい騒ぐのは好きじゃないので。これは、とにかく知られている大道さんの作品はみんな載せようと、でもとても大変でした。内容は、自分の持っているものではなく彼の写真全部、つまりコンプリートワークスのつもりで出したんだけど、写真なので後からまた出てきたりして、難しい。

岡部:写真の作品は、ネガなんかまで雑誌に送って、そのまま作家本人にもわからなくなっている場合があるようだから、難しいでしょう。でも一応はレゾネ(作品総目録)に近いものをめざしたのですね。

佐藤:近いけど、レゾネというと責任問題があるので、コンプリートワークスにしました。大道さんが生きているうちにと思って。編集スタッフに大道オタクが二人いてね。追っかけですが、彼の資料をみんな持ってる。だから出来ました。だって、『PLAY BOY』とか、掲載誌をみんな持っているんですよ。

岡部:さすが、森山さん、すごいファンをもっているのですね。

岡部:全てお二人だけで出版までなさっているのでは、お忙しいですね。

佐藤:まあ遊んでいるのでね。 (笑)

岡部:だけど、佐藤さんはまだいつも仕事もなさっているわけですから。

佐藤:そうですが、今年で全部辞めようと思ってます。後は若い人達に任せていこうと。

12 注目の女性たち

岡部:コンセプチュアル系のコレクションだと、女性の作家は少ないですか。

佐藤:女性のアーティストで良い人がすごく出てきてます。最近は女性のアーティストの方が好きですね。でもあんまりこだわってはいません。(笑) まあ、大雑把な言い方ですけど、若い作家は女性の方が上ですね。

岡部:最近買った女性の作家にはどういう方がいるんでしょう。

佐藤:いっぱいいるんですけど。水戸芸術館の『夏への扉 -- マイクロポップの時代』に出ている森千裕さん。これからぜひ買って下さい。(笑)あとは、増田佳江さん、パメラ・ローゼンクランツ、ちょっと前からだと青木陵子、木村友紀、内藤礼さん。今回の展示で女性は少なかったですが。

鈴木:前回は村瀬恭子さんとか、工藤麻紀子さんとかマルレーネ・デュマスも出てました。

佐藤:でも、そう言われてみると今までは女性が少なかったかもしれない。

鈴木:全体的に人口が少ないですし、写真家でも男性が多いですからね。

佐藤:最近いろいろ出てきているんですけどね。

岡部:当時のミニマル・コンセプチュアル・アートでは女性はすごく少ないです。

佐藤:アグネス・マーチンとか位かな。

岡部:もう一回展示を見てもいいでしょうか。

佐藤:どうぞ。

岡部:もう一回ゆっくり見てきます。ありがとうございました。

(テープ起こし:早坂はづき)