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biennale & triennale 横浜トリエンナーレ2008 評論コンペ









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横浜トリエンナーレ2008 大賞・準大賞・佳作の選考について

岡部あおみ

 横浜トリエンナーレ2008ディレクターの水沢勉氏(神奈川県立近代美術館企画課長)と芸術文化学科の卒業生で社会に出て活躍している二人の卒業生、芦立さやか氏(インディペンダント・キュレーター、ムサビ芸文3期生)と沢山遼氏(美術史・美術評論、編集ライター、ムサビ芸文3期生)に参加していただき、10名の優秀賞(阿部葉子、大内雄馬、神谷悠季、木村優子、ジョン・スミ、竹内舞、谷口匠、當眞未季、馬淵彩、森下賛良)のなかから第二次選考を行いました。
 三人にそれぞれ、大賞(3点)・準大賞(2点)・佳作(1点)を入れてもらい、その合計点がもっとも多い順番に賞を決定しました。結果は、當眞さん7点、竹内さん5点、木村さん4点、阿部さん3点でした。したがって、大賞(當眞未季)・準大賞(竹内舞)・佳作(木村優子・阿部葉子)に決定しました。4名の人たち、がんばりましたね。おめでとう。残りの6名は優秀賞となります。そして、さらに25名中から選抜された学生投票の結果が出ましたので、4点まで獲得した学生の論文のなかから、師田有希さんを学生投票の大賞、中田莉央さんを準大賞、パク ジュン さん、高野希美さんを優秀賞としたいと思います。25名のなかで、惜しくも優秀賞にならなかった人たちは全員、入賞となります。
 伊藤先生が第一次選考をしてくださった入賞者25人の評論を読んで、まずびっくりしました。作品を読解する感性の深度と知覚の成熟度に驚かされたためです。この中から大賞候補の10人を選ぶのはとても難しく、個性的なアプローチと独自の分析力がそれぞれ的確に提示されていました。審査員によるコメントもありますので、ご紹介します。
 ここまで高水準の評論が生まれた背景のひとつに、みなさんが経験してきた現実とのかかわりがあるのではないかと考えました。小学校のときに9.11を体験し、グローバル化する世界の危機に直面し、悪化していくばかりの世界情勢や難しい国内事情のさなかで、世界や社会への認識が深まり、思考力や批評力が育まれ、感性がとぎすまされてきたのではないでしょうか。サヴァイヴァルへの真剣なまなざしが、みなさんが経験してきた世界を多角的に反映する現代アートという領域への関心になり、その刺激へのヴィヴィッドな反応として現れたように思えます。
 たった8年しか違わない芸文の卒業生たちに読んでもらって、私の驚きと感想を述べたら、「特別な時間が生きられている。」と感じたという共感の返信が戻ってきました。
 あなたたちの「特別な時間」を知りたくなって、私は全員の評論をすべて読ませていただきました。その後でも、今述べた当初の驚きはまったく変わりませんでしたし、むしろ、25人の入賞者に、さらに10人ほどを加えたいと思ったほどです。これからさらにともに勉強していくことができることを誇りに思います。たまたま「ワンプラー状態」となった私の代わりに、熱心に指導してくださった伊藤先生、超ご多忙な時期にもかかわらず快く審査を引き受けてくださった水沢さん、評論を送った翌日に審査即評を書いてくれた芦立さんと沢山さん、本当にお疲れ様でした。心から感謝いたします。



横浜トリエンナーレ2008 評論コンペティション第一選考 講評

伊藤里麻子

 横浜トリエンナーレ2008評論コンペティションは、武蔵野美術大学芸術文化学科「西洋美術史概説」を履修している1年生全員と他学年履修者の合計89人が参加した。
 岡部あおみ教授からの課題は「好きな作品3つについて書きなさい。」じっさいの授業を担当したのは伊藤里麻子(非常勤講師)であり、嫌いな作品、気になったもの、自分のテーマで書いても、数も3つでなくてもよい、と助言した。
 第一選考は伊藤里麻子が上位25作品を選出、そのなかから優秀作品10点を岡部あおみ教授と伊藤の合意で決定した。
 選に漏れたなかにも良い作品は多かったが、ユニークな視点、作品に対する精密な観察と分析という点で、評論としての完成度の高いものを選んだ。
 学生が取り上げたトリエンナーレ作品を集計してみた。ミランダ・ジュライ「廊下」14人、ついで9人がケリス・ウィン・エヴァンスとスロッピング・グリッスル「あ=ら=わ=れ」、ヘルマン・ニッチュ「オージー・ミステリー・シアター」、勅使河原三郎「時間の破片」、中谷芙二子「雨月物語」と続く。三渓園を評価する声も多かった。
 しかし、印象に残る評論の題材となると別である。ヘルマン・ニッチェ「オージー・ミステリー・シアター」とクロード・ワンプラー「無題の彫刻」。嫌悪感(血のしたたる肉片の映像、ニッチェ作品)と謎(どこに作品があるのか、ワンプラー作品)という強いインパクトが思索の引き金になった。ついにワンプラー作品の影を見出せなかった竹内舞の評論がその良い例である。反対に、勅使河原三郎、ティノ・セーガル「Kiss」のような静かな作品に対しては、作品の襞に入り込むようにこまやかな観察をした評論が多かった。いずれの場合も、学生は作品にすなおに反応した。
 学生は、課題が出たので、会場に行って、見て、書いた。いつもの宿題と同じである。そのことによって、横浜トリエンナーレ2008は彼らの祝祭となったのである。