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art apace & alternative space ライスプラス/RICE+

RICE+
photo Aomi Okabe








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©岡部あおみ & インタヴュー参加者
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イントロダクション

アートイベント「向島博覧会」を、嘉藤笑子さんの案内でめぐったことがある。古い木造家屋が多い東京の下町、京島や曳船界隈にある町工場などで興味深いインスタレーションを見た。安価な家賃に加えて、この地域の独特の雰囲気を愛して移り住んだアーティストやデザイナーたちの趣向を凝らしたオープンハウスなどにも、新鮮な驚きを覚えた。

当時から嘉藤さんは、東京にやってくる海外作家のために、アーティスト・イン・レジデンスの試みを開始していたが、とうとう2004年4月からは、レジデンスも兼ねた rice+(ライスプラス)というカフェを常時オープンしている。それは小柄な一軒家で、名前の通り、もと米屋。曳船駅から歩いてすぐで、近くには堂々とした構えの立派な銭湯もある。

沖縄カフェというイベントの真っ最中、ヴィデオ上映の夜に訪ねた。女性性器や子宮を思わせる沖縄独特の大きなお墓の前で踊る女性、広大な領土をしめる米軍基地のフェンス(柵)を黙々と撮影し続ける映像のさなかに、発着する戦闘機の轟音が耳をつんざく。沖縄出身の映像作家山城千佳子は、戦争を知らない戦後世代。親からも祖父母からも語られることのなかった沖縄の悲惨な歴史を発掘する作業を続けている。忘れられつつある時空間に体をぶつけ、痛みとともに生き直そうとする真摯な試みだ。

「ひめゆり平和祈念資料館」は、多くの証言者が亡くなってゆくなか、2004年4月に世界の平和を考える新たなスペースの増設とともにリニューアル・オープンした。生き残り、沈黙を守ってきた沖縄の女子学徒たちが、退職とともに同窓会を中心として独自に創設した施設で、山城さんも新たな活動を可能にする新設スペースを見に行ったという。約半数の学徒動員者を含む、人口の4分の1の人間が死亡した沖縄戦の意味を考えてみたい。それは私たちに戦争といういまだに終わらぬ悲劇へのリアルな想像力をかきたてる。沖縄でもやっと、戦争の歴史に対峙できる新たな世代が育ってきていると、山城さんが言っていた。

Rice +を運営する嘉藤笑子さんは、英国で学んだインディペンデント・キュレーターで、那覇市にある前島アートセンターの「ワナキヨ」というアートイベントにもかかわってきた。彼女にとって、沖縄は、今、アートの「ヘソ」になっているようだ。つねにアーティストに寄り添い、驚くほどの粘り強さで、姉御のように、母親のように、だがとても自然に身近に冷静にサポートを続ける。

「体力のあるかぎり」という言葉に、嘉藤さんの底知れないアートのエネルギーがこめられている。rice+カフェには、近くの常連さんも訪れるようになったという。地域とアートの出会いの場になりつつあるようだ。
落ち込んだ人は、rice+に行ってみよう。心暖まる手料理にプラスして、元気印をもらえることを受けあう。嘉藤さんは、苦労しつつもアートの幸せを運ぶ荷を負うことを決意したシジフォスである。

2005年まで継続したRice+の活動を終了し、嘉藤さんはアート・オウトノミー・ネットワーク(ANN)のディレクターとして、アート活動資料の収集(アーカイブ構築)や海外を含めたネットワーキングに力を入れ、さまざまなレクチャーなどを開催している。

(岡部あおみ)